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第三話

シャワー室に行くと、シャワー室監視の人間から水を渡された。

受け取り、飲み干してから

汗に濡れそぼった体をシャワーで流す。


さっぱりした後服を着替え、戻った病室にはメロン自体も臭いもすでに消えていた。


━━━━━━━━━━

<数日後>

さっそく本当にメロンが原因なのか、知る必要がある。

ガーグルベースを用意し、吐くことを覚悟の上でまずは別のフルーツを試すことにした。

レモン、ミカン、パイナップルときてどれも臭いだけで過敏になることはなかった。

美味しいとは感じないが、吐き気以外考えられなくなる程じゃない。

今回の鬼門であるメロンを切る……吐き気はない。


「うぇぇ、ぺっ……げほ、げほ」

それならと食べてみたが、味触感何もかもが気持ち悪くて口から吐き出した。


拒否反応とも思える嘔吐感と悪臭がメロンの問題じゃないとなると、体調が悪かっただけなのだろうか。

それとも何かの相互関係によるものか。

疑問だけが残った。


━━━━━━━━━━

2週間が立ち、拒食症はついに治らなかった。

異常な吐き気の原因を調べるために、再度精密検査を行ったが原因は見つからなかった。

精神的なものだと考えられる。

四六時中疲労感に襲われこのままでは体力が落ちていくのは必至であるため、胃ろうを付けることを決断した。


<手術当日>

朝から飲食禁止で、局所麻酔をして15分程度の手術だった。

その後は安静解除までベット上の便器、尿器使用だった。

術後2日目朝食分から、経管栄養が開始された。


━━━━━━━━━━

<数日後>

胃ろうを始めてから、十分な栄養を摂取しているはずなのに、未だにお腹が空いて眠れない。

栄養が体に吸収されているはずなのに、まるで水しか摂取していない人間のように身体は不思議なくらいみるみるやせ細っていった。


服越しでも痩せてしまったことが分かるだろう。

病院の医師からも、この体重減少は異常だと何度目か分からない検査が予定されている。


未だ病院生活が続き、職場復帰できる状態ではなかった。

だが病室で行える仕事は病室で行っていた。

身体が1ミリでも動いてしまううちは仕事も野放しにできない性分は相変わらずだった。


医師は痩せていく俺の身体に対し治療法が見つからないでいた。

身体の全身の栄養数値は正しい、それ相応の栄養を摂取しているからだ。

だが体が冷え、空腹感やだるさが消えない。

胃ろうで改善しないとなると、これは難しいだろうなと感じ取っていた。


身体には騙しだまし鞭を打っているのは限度がある。

気力でどうにもならないことだってあると知った。


━━━━━━━━━━

<数日後>

コハクは病院の庭で電動車いすに乗り、日光浴をしていた。

重いからだは状態が良くなることを知らず悪化の一途を着々とたどっていた。

飢えと水を飲んでも飲んでものどが渇くまるで『のぼせ』の症状が絶えない。

(喉が渇いた……)

自分はこのまま朽ちてゆくのかと、相対的に判断した自分の頭が勝手にそう判断する。

その前に国のためにできることはないかと退職前にやるべきことを考えていた。


すると、まるで雨が降る予兆のように自律神経の乱れを感じた。

そして、何か匂う。

身体の異変になんだ?と不信に思い、辺りを見渡すとまたも視界にシオンが居たのだ。

シオンの視線は、明らかに自分を見ており、こちらに向かって歩いている。

その視線から目を放せない、またもや逃亡したいという欲に駆られた。


「この前はすまなかった」

近づいてシオンが謝罪した。

その表情は心配の一言に尽きた。


「い、いえ、気にしないでください」

メロンの一件では、シオンに不快な思いをさせてしまったのは10対0で自分が悪い。

シオンは本当に気にしていないようで、顔色一つ変えない。


「怪我をしたんですか?」

何かいい訳をつけて立ち去りたいが、それよりシオンの身体から非常に強い血の匂いがする。

どこかケガをしたのだろう、こんなに血の匂いをこびり付かせて、まるで服全体が真っ赤に染まっててもおかしくない臭い方なのに、目の前のシオンは平然としている。


「ん?あ、ああ、よくわかったな。ここを打たれてしまってね、かすっただけなのに皆大げさなんだ。参ったよ」

そう言いながらシオンは右腹部をいたわるように触れる。

どの程度の怪我なのかは服に隠れて全く見えない。


このまま会話できるような状況ではないほどに、ますます血の匂いが強くなってゆく。

ああ、今すぐに鼻を塞ぎたい。


「そうか、お大事に、僕は用があるのでこれで」

これ以上この場にはいられない、逃げるように立ち去った。

自分は前回シオンと会ったは普通に2本足で地面を立っていた。

だが今は電動車いすに乗っていて見るからにやつれて見えるだろう。

そんなこと100も承知で脇目も振らず逃げるように逃亡した。


「……はぁ、はぁ、はぁ」

走ったわけでも、自分の足で歩いたわけでもないのに吐き気が収まらず苦しい。

ただ単に体力が落ちて電動車いすを操作する力もないわけではない。

冷や汗がじわりと額に滲みどんどん溢れてきて暑い、気持ち悪い、開放されたい。

電動車いすの速度はそう早くない。

ましてや逸る気持ちに対して車椅子の速度はさらに体感遅く感じてしまう。


シオンから姿が見えなくなる位置、しかし庭の出口とかち合わない脇道に逸れ、しばらく進み、心身共に落ち着かせるために一度停止する。


「お~~~~い、コハク君!」

声に惹かれて顔を向けるとシオンの姿が声が遠くに見えた。

俺を追いかけてきたのか、立ち去り方が不自然だったか。

シオンからしたら、用があると言ったのに、こんなところに俺が居るのは明らかに不自然だ。

今更逃げてもさらに怪しい。

現状を把握しながらも、ぐるぐると血の匂いに当てられて気持ち悪く、動けない。


そういうしている間に目の前にシオンが来てしまった。

少し荒げたシオンの身体に滲む汗に目が引かれる。

異常に喉の渇きを意識してしまう。

俺はカニバリズムになってしまったのだろうか。

でも人の肉に噛り付きたいわけではない。

強いて言うなら……血を舐めたい。


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