五人分の答え(ソフィ視点)
ストランド家のエリアス様が、どこへ行くにも妹御を連れて歩くことは、春の社交の季節のうちに、わたしの耳まで届いていた。
その婚約者が、今日、うちの客間へ質問をしに来る。
社交界に出てから分かったことがある。噂というのは、だいたい三人目あたりで形が変わる。だから本人が来るなら、本人の口から聞くのが一番いい。
客間の花瓶には、花が五種類挿してある。一人一つずつ選んだ。エッバ姉様は白い芍薬、カーリン姉様は温室から分けてもらった名前の長い蘭、マーヤ姉様は矢車菊、ヨンナは庭で摘んだ雛菊。わたしは薔薇にした。噂の人を迎えるなら、薔薇がいい。
五人とも、今日のために都合をつけてきた。エッバ姉様は、オッレと下の子を乳母に預けて、昼前にダールベリ家から来た。カーリン姉様は、エーミル義兄様の朝の講義を最後まで聞いてから来た。マーヤ姉様は、午前のうちに自分の婚礼衣装の仮縫いを済ませてきて、さっきから袖の長さの話ばかりしている。ヨンナは家庭教師の先生に頼んで、今日の地理の授業を前の日に回してもらった。
わたしは、昨夜の舞踏会の疲れが少し残っていた。社交界に出てから、踊りの申し込みは多い。ただ、二度目を申し込んでくる人は、まだいない。気にはしていない。今日はそれどころではない。
「ニクラスは、先週の夕食も――」
マーヤ姉様が、仮縫いの話の途中で言いかけて、やめた。窓の外を一度見て、袖の話に戻った。
ノーラ様が来たのは、約束の時刻ちょうどだった。
侍女を一人連れていて、その侍女は何も言われないうちに壁際へ下がった。付き添い役のエッバ姉様が向かいに座り、ほかの四人はテーブルの周りに椅子を寄せて、ぎゅうぎゅうに座った。
お茶が注がれるのを待って、ノーラ様は背筋を伸ばした。
「皆様に、教えていただきたいことがあります」
五人の手が、焼き菓子の皿の上で止まった。
ノーラ様は、ブローチの話をした。ストランド家の嫡男の花嫁が、婚約披露の宴で着ける家の品であること。エリアス様がそれを妹御に渡したこと。宴のことは「そのとき考えればいい」と言われたこと。泣きそうな顔でも、怒った顔でもなかった。地理の先生が川の名前を並べるときの顔だった、とあとでヨンナが言った。
「妹は、兄の花嫁に贈られるはずの品を、欲しがるものでしょうか。兄は、それを渡すものでしょうか」
答えは、次々に出た。
「欲しがらないわ。それは花嫁のものよ」と、マーヤ姉様。
「兄の花嫁の品なんて着けて歩いたら、わたしの縁談が来なくなるわ。古いお家の方は、どこの家の何の品か、一目で分かるもの」と、わたし。
「私は欲しがったことがあるわ。小さいころ、お母様の首飾りを」と、カーリン姉様。「そうしたらお兄様に、大人になったらお前の分を一緒に選びに行こうって言われたの。去年、本当に一緒に行ったわ」
「お兄様のお嫁さんの物を取ったら、お兄様のお嫁さんが来なくなるでしょう。ただでさえ来ないのに」と、ヨンナ。
「ヨンナ」
姉たちの声が重なった。
ノーラ様は、一つ答えが出るたびに、答えた人の顔を見て頷いた。帳面も出さないのに、一つも聞き逃すまいとしているのが分かった。
そのとき、客間の扉が開いた。
「お兄様は入ってこないでって言ったでしょう!」
五人分の抗議を浴びながら入ってきたのは、焼き菓子の皿を持った兄だった。
「菓子が足りないと聞いた」
「足りてるわ!」
「足りていない。六人いる」
兄は皿をテーブルの真ん中に置き、ノーラ様に一礼してから、扉のそばの椅子に腰を下ろした。五人がどれだけ睨んでも、出ていく気はないらしい。今朝、厨房で焼き菓子が一皿多く焼かれていたのを、わたしは見ていた。
「今の話は、廊下で聞こえた。答えは、渡さない、だ」
兄は声を落として、続けた。
「妹には、妹の分を、妹に選ばせる。兄の花嫁の品を妹に渡したら、妹はそれを着けて人前に出ることになる。恥をかくのは妹だ」
一つ息をついてから、もう一言足した。
「兄が何でも先にしてやると、妹は兄しか頼れなくなる。うちは侍女頭にも、家庭教師にも、叔母にも任せた。私一人では、五人分の髪も結えない」
「お兄様、ヨンナの髪は一度結ってくれたわ」
「一度で懲りた」
ヨンナが頬を膨らませ、わたしたちは笑った。ノーラ様だけは笑わずに、兄の言葉を一つずつ胸の中にしまうような顔をしていた。
わたしは考えた。うちの兄が、もし自分の婚約披露の宴で妹の手を取って入場したら。まず妹のわたしたちが、五人がかりで兄を広間から引きずり出す。
「閣下は、縁談のお相手にも、そうお話しになるのですか」
「話す前に、たいてい帰られる」
「去年のお相手は、ヨンナが庭の木から落ちてきたのを見て帰ったわ」と、マーヤ姉様。
「この前の方は、五人に一度に挨拶されて、名前が覚えられないって泣いたの」と、わたし。
「エッバ様、カーリン様、マーヤ様、ソフィ様、ヨンナ様」
ノーラ様が、年の順に、一度も詰まらずに五人の名を呼んだ。
五人とも、目を丸くした。兄が喉の奥で笑った。ヨンナだけが、真っ赤になって下を向いた。
「……追伸、読んでくれたの」
「はい。三度読みました」
招待状に勝手に追伸を書いたのがヨンナだったと、わたしたち四人はそこで初めて知った。エッバ姉様が額を押さえ、マーヤ姉様が「あんたね」と言いかけて、やめた。名前を覚えてほしかったのは、ヨンナだけではなかったからだ。
わたしは焼き菓子に手を伸ばしながら、口を挟んだ。
「ストランド家の婚約披露には、うちも招かれているの。侯爵閣下がお戻りになってすぐだから、もうじきね」
「はい」
「そのブローチを宴で誰が着けているか、王都じゅうが見るわよ」
* * *
帰りは、兄がノーラ様を馬車まで送った。
わたしたちは五人で、二階の窓に張りついた。エッバ姉様は止める側のはずなのに、一番いい場所を取っていた。ノーラ様の侍女は、二人の少し後ろを歩いている。
窓を少し開けると、玄関の石段の声が、風に乗って上がってきた。
「一つ、私からも聞いていいか」
「はい」
「君は、分からないことを、分かる人に聞くのだったな。では、一人っ子のことは、誰に聞けばいい」
ノーラ様は、少し考えた。
「……私に、でしょうか」
「覚えておく」
兄はそれだけ言って、ノーラ様が馬車に乗るのに手を貸した。
「きゃあ」
ヨンナの声が出た。わたしは、その口を手で塞いだ。マーヤ姉様だけが窓から一歩離れて、何か考える顔をしていた。
婚約披露の招待状は、居間のマントルピースの上にある。
その晩、わたしは、宴の広間で誰がどこに立つのかを、ずっと考えていた。




