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「妹が先だ。一人っ子の君には分からない」と婚約者が言うので、妹が五人いる公爵閣下に聞いてみました【連載版】  作者: みれいぬ


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春に、この家に残る妹(アクセル視点)

 今、この屋敷に住んでいる妹は、三人だ。


 マーヤ、ソフィ、ヨンナ。エッバとカーリンは、嫁いで、それぞれの夫の家にいる。


 春に、マーヤが嫁ぐ。オーベリ家の屋敷は、ここから馬車で半刻だ。同じ春に、ヨンナが発つ。ローセヴィークまでは、馬車で四日。


 春から後、この屋敷に残る妹は、ソフィ一人になる。


 来年には、ノーラが来る。オスカルが、いつかソフィを迎えに来るかもしれない。そうなれば、この屋敷に残る妹は、一人もいなくなる。


 その夜、書斎の机で、私はそれを指で数えていた。


* * *


 九年前、両親の葬儀から帰った晩、五人の妹が一度に話しかけてきた。


 エッバは、もう泣いていなかった。カーリンは、葬儀の花の名前をずっと口の中で唱えていた。マーヤは、何も言わずに私の袖をつかんでいた。ソフィは、弔問の客が誰の隣に立っていたかを話していた。ヨンナは、父と母はいつ帰ってくるのかと聞いた。


 誰に何を返すべきか、見当がつかなかった。全員に、同じ返事をした。明日にしよう、と。


 次の朝、五人は、また一度に話しかけてきた。


 あの晩から、この屋敷の妹の数は、いつか減っていくのだと分かっていた。一人ずつ、嫁ぐか、どこかへ行く。減っていくのを見送るのが、兄の仕事だと思っていた。


 実際は、少し違った。


 エッバが嫁ぐと、ベルティルが増えた。ベルティルは、夜更けまで帰らずにヨンナの名前を五回聞き直した。カーリンが嫁ぐと、エーミルが増えた。エーミルは、隅で蘭の根を描いていて、ヨンナに話しかけられた。マーヤの婚約で、ニクラスが増えた。ニクラスは、席次を改めて、夜更けまで残るようになった。


 それから、温室で、見知らぬ令嬢が一人、質問をしに来た。


 減るたびに、誰かが増えた。この家の食卓は、九年前より長くなっている。


* * *


 机の上に、紙を一枚置いた。


 ヴェスティン伯爵の三つの言葉を、書いてみた。


 止めない。


 先に、行き先を見に行く。


 部屋は、そのままにしておく。いつ帰ってきてもいいように。


 一つ目は、もう決めてある。ヨンナが言った晩に、反対はしないと決めた。


 二つ目は、エーミルの話と、今日の図書館で済んだ。ローセヴィークの丘も、分園の門も、南向きの二つの窓も、私はまだ見ていない。だが、行き先の人を見た。あの人は、話は、この子とします、と言った。ヨンナの絵の根を見て、長いあいだ誰かに大事にされている根だ、と言った。


 あの小さな温室の花を、植え替えずに庭師に任せてきたのは、私だった。母の花を、母がいた頃のままにしておきたかった。


 残りは、三つ目だけだった。


 部屋を、残しておく。


 それなら、私は、九年前からやっている。


 温室で、あの令嬢は、兄というものは約束を取り消すものかと聞いた。私は一瞬で答えた。兄のことなら、答えられた。冬のはじめの晩、ヨンナに春から行きたいと言われて、私は答えられなかった。あれは兄の問いではなかったのだと、ノーラは私より先に気づいて、自分の父に聞けと言った。


 分からないことは、分かる人に聞く。あの令嬢のやり方を、私は九年遅れで覚えている。


* * *


 夜中に、書斎を出た。


 二階の廊下の奥、ヨンナの勉強部屋の扉の下から、灯りが漏れていた。この時刻に起きているのは、珍しい。扉の向こうで、紙をめくる音がした。根の絵を、紙挟みに戻しているのだろう。


 私は、扉を叩かなかった。開けもしなかった。


 妹の部屋の扉を、兄が夜中に開けるものではない。両親がいた頃から、この家ではそう決まっている。


 階段のところで、ソフィに会った。寝間着に厚い肩掛けを重ね、燭台を手にしていた。


「お兄様。……今夜は、数え事?」


 噂に詳しい妹は、兄の書斎の灯りにも詳しい。


「数え終わった」


 ソフィの目が、私の顔の上で止まった。やがて、その目が勉強部屋のほうへ動いて、何も聞かずに頷いた。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


* * *


 翌朝、家事室に、侍女頭と家令を呼んだ。


「ヨンナの部屋は、春から一年、今のまま置いておく。誰も使わない。掃除と、窓の風通しだけは、今までどおりに」


「かしこまりました」


 家令が頭を下げた。両親の頃から、この屋敷にいる男だ。


「先代の奥様の、小さな温室と同じでございますね」


「同じだ」


 家令の言葉は、そこで終わった。侍女頭は、帳面の冬の頁を開いたまま、少し迷った顔をした。


「閣下。ヨンナ様のお部屋のカーテンでございますが。今年はまだ、冬の布をお選びになっていません。替える日を延ばして、ヨンナ様のお部屋だけ、夏のままでお待ちしておりましたが」


 帳面の、ヨンナの欄だけが空いていた。毎年、妹たちの中で一番先に布を決めるのが、あの子だった。


「選ばせなくていい」


 私は言った。


「布だけ、何種類か取っておけ。帰ってきた冬に、ヨンナが自分で選ぶ」


 侍女頭が、帳面に何か書いた。空いた欄は、空いたまま残った。


 家事室を出るとき、私は、誰にともなく言った。


「次の夕食で、私から言う」

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