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「妹が先だ。一人っ子の君には分からない」と婚約者が言うので、妹が五人いる公爵閣下に聞いてみました【連載版】  作者: みれいぬ


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温室で、兄というものを聞かれた(アクセル視点)

 公開日の温室には、毎年、家族で来る。


 今年は大人が七人と、子どもが一人だ。私と、妹が五人。エッバの夫のベルティルと、まだ小さいオッレ。下の娘は乳母と留守番になった。カーリンの夫のエーミルは、来るのではなく、もう中にいる。植物園の学者で、今日は月光蘭の番をしている。マーヤの婚約者は、典礼局の勤めで来られない。


 父と母が生きていた頃からの習わしだ。父は、この温室で母に求婚したらしい。その話を、妹たちは毎年一度ずつ私にさせる。


 今日、私が引き受けた約束は四つある。


 オッレの帽子を持つこと。カーリンの差し入れを、エーミルのところまで届けること。ソフィの日傘を持つこと。ヨンナを走らせないこと。


 頼まれた順に守っている。四つ目が一番難しい。


 先週、縁談が一つ流れた。相手の令嬢は、茶会の席で五人に一度に挨拶され、名前が覚えられないと言って泣いた。泣かせたのはこちらだと思う。先方に詫びの手紙を書き、縁談はもう断ろうと決めていた。


 妹が五人いる。それを聞いた相手は、決まって同じことを言う。大変ですね。どうやってお育てに。それから、少しずつ遠くなる。


 温室の中ほどで、一人の令嬢を見ていた。


 見ようとして見たわけではない。今日の温室は、婚約者どうしと家族で埋まっている。その中を、侍女だけを連れて歩いている令嬢は目に付く。淡い黄色のドレスで、黒い髪をうなじでまとめていた。入口の案内板の前で、いつまでも動かなかった。人の流れが何度入れ替わっても、まだ読んでいた。あれほど長く案内板の前に立つ者は、学者のほかには、あまりいない。


 エッバが、その令嬢に声をかけた。


 一人か、婚約者は、と聞いたエッバに、令嬢は答えた。


「妹様の乗馬の稽古に、付き添っていらっしゃいます」


 恨みも恥もない声だった。天気を聞かれて答えるような声だった。私は、何か言うべきかと考えた。何を言うべきか分からないうちに、エッバに袖を引かれた。


◇


 質問は、一つだった。


 妹に呼ばれたら、兄というものは、婚約者との約束を取り消すものか。


 答えは、最初から決まっていた。


 マーヤがまだ小さかった冬に、熱を出したことがある。その日、私は叔母の屋敷を訪ねる約束をしていた。医者を呼び、侍女頭に付き添いを頼んで、約束どおり叔母の屋敷へ行った。夕方に戻ると、マーヤは熱の下がりかけた顔で、「お兄様がいても熱は下がらないもの」と言った。妹が五人いれば、そういうことを毎年覚える。


 迷ったのは、その聞き方のほうだった。


 大変ですね、ではなかった。どうやって、でもなかった。妹が五人いる男なら、兄というものに一番詳しいだろうから、教えてほしい。そう言われたのは、生まれて初めてだった。


 父と母を見送ってから、九年になる。五人の妹は、縁談の席ではいつも、私の欠点の数だった。それを、この令嬢は、私が持っている知識の数として数えた。


 笑ったのは、そのせいだ。


 九年分の五人が、初めて私の役に立った。それがおかしくて、笑いが止まらなくなった。


 その令嬢は、続けて言った。縁談のお相手は、皆さん逃げてしまわれるそうですね。


 言ってから、しまったという顔をした。噂をそのまま口にしたと気づいたのだろう。だが、私の前でそれをはっきり言った者は、九年で一人もいなかった。皆、知っていて、言わずに遠くなった。面と向かって言われると、かえって楽だった。


 月光蘭の前で、ヨンナが令嬢の手を取って駆け出そうとした。襟首をつまんで止めた。初対面の客の手を引くな、と叱ったが、本当は、自分が驚いていた。ヨンナは人見知りをしない。だが、初めて会った相手の手を、あんなふうに取ったことはない。


 令嬢は花を見ていた。私は、花を見ている令嬢を見ていた。


 それに気づいたのは、エーミルだけだったと思う。眼鏡の奥で何も言わずに、また帳面に目を落とした。


* * *


 帰りの馬車は二台だ。ベルティルとエッバとオッレがダールベリ家の馬車に、残りが公爵家の馬車に乗る。カーリンは、夫の仕事が終わるまで温室に残る。


 公爵家の馬車には、私と、マーヤと、ソフィと、ヨンナ。


「ヴェスティン家のノーラ様」


 走り出してすぐ、ソフィが言った。この春に社交界に出て、この家の誰より噂に詳しい。


「婚約者は、ストランド侯爵家のエリアス様よ。どこへ行くにも妹御を連れて歩くので有名なの。春の歌劇でも、婚約者の方を一人で桟敷に座らせて、ご自分は妹御と隣の桟敷にいたって」


「ソフィ」


「噂じゃないわ。わたし、向かいの桟敷から見てたもの」


 マーヤは窓の外に顔を向けたまま、口を開いた。


「婚約者がいる方よ、お兄様」


「分かっている」


「分かっているなら、いいけど」


 マーヤは、自分の婚約者が今日来られなかったことを、朝から一度も口にしていない。マーヤの場合、言わないことは、気にしていることだ。


「でも、お茶会には来るわ」


 ヨンナが、揺れる座席の上で足をぶらぶらさせた。


「ノーラ様、五人の名前、覚えてくれるかしら」


 屋敷に着くと、先に戻ったエッバから伝言が届いていた。


 茶会は、妹たちの会。お兄様は、客間に入らないこと。


 家令は伝言を読み上げた後で、私の顔を見た。


「承知した、とお返事なさいますか」


「茶会の日の焼き菓子を、一皿多く焼いておくように」


 その茶会に、私は呼ばれていない。

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― 新着の感想 ―
短編では読めないお話が読めるのはいいですね。
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