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「妹が先だ。一人っ子の君には分からない」と婚約者が言うので、妹が五人いる公爵閣下に聞いてみました【連載版】  作者: みれいぬ


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二度目の申し込み(ソフィ視点)

 今夜の宴で、誰が誰と二度踊るか。王都じゅうの古い家の人たちが、それを見に来ている。


 お兄様とお義姉様は、もう二度踊った。夏の終わりに一曲で終わった二人が、今夜は二曲目まで踊った。明日の朝には、王都のどの家でもその話をしているはずだ。わたしが噂を集める側なら、まずそれを手紙に書く。


 けれど今夜、わたしは噂を集める側ではなかった。


 次の噂の的は、わたしだ。


 広間の隅の、窓に近い柱のそばに、わたしは立っていた。目の前に、栗色の髪の痩せた人が立っている。上着の胸が、帳面の形に四角くふくらんでいる。


「ソフィ嬢。一曲、お願いできますか」


 十五回目の、一度目の申し込みだった。


「喜んで」


 わたしは手を預けた。


 今夜は広間を見ない、と決めていた。夏の終わりの王宮で、一度そうした。あの晩、わたしは初めて、この人の顔をちゃんと見た。緑がかった灰色の目で、思っていたより、ずっと真剣な顔をしていた。


 踊り始めると、オスカル様は、やっぱりわたしの顔を見ていた。


「今夜も、柱をご覧にならないのですね」


 夏の終わりの晩にも、この人はそう言った。わたしは、今夜はあなたを見ることにしたの、と答えた。答えてから、自分で笑ってしまった。この人の目尻が、下がった。


 書斎の扉の外の廊下で、この人が窓辺のわたしの前で足を止めたのは、その翌朝だった。何も言わずに通り過ぎるのかと思ったら、一言だけ言った。次は、閣下ではなく、ソフィ嬢に伺います、と。


 それから、秋まで、夜会は一つもなかった。


「一つ、お話ししてもよろしいでしょうか」


 一回りしたところで、オスカル様が言った。


「なあに」


「この春の、王宮の舞踏会のことです。ソフィ嬢が社交界にお出になった晩の」


 わたしは、その晩のことを全部覚えている。一曲目はハルステン家のご長男で、東の柱の前で。四曲目が、この人だった。


「あの晩、私は典礼局の仕事で、東の柱の陰におりました。王宮の舞踏会では、どの家の方がどこにお立ちになったかを、帳面に書き留めておくのです」


 オスカル様は、少しだけ声を落とした。


「一曲目が始まる前に、柱の向こうで、どなたかが小さな声で、広間に立っている家の名前を順に並べておいででした。西の窓のそばにオルソン子爵家、その隣にベリエル家、暖炉の前に、と。私の帳面より、ずっと正確でした」


 わたしの足が、半拍遅れた。


 覚えている。社交界に出た最初の晩、わたしは怖くて、壁際で一人で、誰がどこに立っているかを数えていた。誰の顔も見ないで。両親の葬儀の日から、わたしはずっとそうしてきた。


「それが、ソフィ嬢でした」


 オスカル様の目尻が、また下がった。


「それから、どの夜会でも、一度だけ申し込みました。典礼局の朝は早いので、二曲目の時刻には帰らねばなりませんでした。それに、二度目を申し込んで、ソフィ嬢がお困りになるのではないかと思っておりました。いつも、広間のほうをご覧になっていたので」


「……見てたの。わたしが、どこを見てたか」


「十四回とも」


 十四回。この人も、数えていたのだ。


 曲が終わった。


 オスカル様は、深く礼をして、わたしの手を離した。そして、それ以上は何も言わずに、人の中へ下がっていった。


 わたしは、数えまいとした。


 一度目は、来た。二度目が来るかどうかを数え始めたら、わたしはまた、広間の柱を見てしまう。


 少し離れたところで、姉たちが息を詰めているのが分かった。エッバ姉様は扇を胸の前で握りしめ、カーリン姉様はエーミル義兄様の腕をつかんでいる。マーヤ姉様は、ニクラス様の袖を引いていた。夏の初めの宴の晩に、ニクラス様がマーヤ姉様の袖を引いたのとは、逆だった。


 ヨンナは、自分の両手で、自分の口を押さえていた。


 一曲が過ぎた。わたしは、ベリエル家のご次男と踊った。今夜は、相手の顔を見て踊った。ご次男は、驚いた顔をしていた。


 そのあと、さらに二曲が過ぎた。


 四曲目の前に、わたしの前に、また栗色の髪の人が立った。


「ソフィ嬢。もう一曲、お願いできますか」


 広間の、わたしの周りだけが、すっと静かになった。


 わたしは、聞かずにはいられなかった。


「今夜は、帰らなくていいの? 明日の朝も、典礼局は七時でしょう」


「明日の朝は、休みをいただいております」


 オスカル様は、少しも笑わずに答えた。


「九時に、別の用がありますので」


 囁きが、広間の手前から奥へ、順に移っていった。


「二度目よ」


「エクルンド伯爵家の、ご次男」


「典礼局の」


「リンドホルム家の四女に、二度目」


 その囁きが、誰と誰のあいだを渡っていったのか。誰がどの柱のそばで言ったのか。いつものわたしなら、全部覚えていたはずだ。


 わたしは、手を差し出した。


「喜んで」


 二度目の一曲のあいだ、わたしは一度も広間を見なかった。


 だから、今夜の宴で、誰がどこに立っていたのかを、わたしは一つも覚えていない。覚えているのは、緑がかった灰色の目と、下がった目尻と、曲の終わりに、この人が小さく息を吐いたことだけだ。


 曲が終わった。


 オスカル様の肩越しに、兄がこちらを見ていた。


 兄は何も言わなかった。ただ、書斎のある二階の窓のほうへ、顎を一度だけしゃくった。

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― 新着の感想 ―
前頁に続き緊張したお父様の様子がよろしおすなあ。 「花嫁の父」 古い映画ですが好きな作品の一つです。 「花嫁の兄」という映画もあればいいのに。 明日朝の予定が決定してほっとしました。
文章が好きです。
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