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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第五章 どうやら商会に喧嘩を売られたみたいです

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第41話 壊れたものは多いですが、報酬はもっと増えました

《勝者特権》


その文字だけが、場違いなくらい綺麗に光っていた。


俺は崩れた床と、壁の向こうから勢いよく流れ込んでくる《星泪泉》を見て、それからもう一度画面を見る。


「……今やる?」


《勝者特権》


「いや、聞き方が悪かった。今この状況見えてる?」


当然、返事はない。


隣ではケインが額を押さえていた。


「先にこっちを何とかしてください」


「そうだよな!?」


広間はもう戦場というより災害現場だった。


床の一部は沈み、中央にあった太い柱は跡形もなく消え、その横にできた大穴から星明かりみたいな光を帯びた水が流れ続けている。


武器を捨てたガルガン商会の連中は、残った高い場所へ固まって避難していた。


グレゴールだけは降伏を認めた様子もなく、濡れた外套を引きずりながらこちらの監視球を睨んでいる。


『出てこい!』


「嫌だよ」


即答した。


向こうには聞こえている。


『貴様……!』


「何で勝った後にわざわざそっち行かなきゃいけないんだよ」


俺が一人で近付いて殴り合う理由はどこにもない。


というか絶対負ける。


『レイドルを殺しておいて――!』


その名前が出た瞬間、広間にいた何人かが僅かに顔を伏せた。


俺は少しだけ黙った。


グレゴールが怒る理由まで分からないわけじゃない。


息子を殺された。


それだけ見れば、俺を憎むのは当然だ。


でも。


「そっちから殺しに来たのも、レイドルだろ」


『黙れ!』


「それで今回も大勢連れてきた」


グレゴールの表情が歪む。


「俺、お前の気持ちまで否定する気はないよ。でも、そのために俺が殺されてやる理由もない」


正しいとか間違ってるとか、今さら決める気はない。


向こうが俺を殺そうとした。


俺は生き残った。


それだけだ。


『まだだ……!』


グレゴールが剣へ手を伸ばす。


その腕を、横からハイゼンが掴んだ。


『おやめください』


『離せ!』


『もう終わっています』


声は静かだった。


その静けさの方が、怒鳴り声より重い。


『全員が武器を捨てました。負傷者もいる。この広間も、いつ完全に崩れるか分かりません』


『だから何だ!』


グレゴールが腕を振り払う。


『レイドルは殺された! ここで引けば、あいつは何のために――!』


『若旦那のために、これ以上何人死ねばよろしいのですか』


空気が止まった。


グレゴールの顔から、怒りとは別の何かが抜ける。


ハイゼンは続けた。


『ここにいる者だけではありません』


その視線が、広間の仲間たちへ向く。


『本店に残った者。倉庫を守っている者。商会を通じて家族を養っている者。地方の支店で働く者。護衛。荷運び。職人。取引に関わる者たち』


グレゴールが何か言おうとする。


だが、ハイゼンは止めなかった。


『我々がここで全滅すれば、その者たちはどうなるのです』


『……』


『旦那様が退かぬ限り、この戦いは終わらない』


ハイゼンの声が僅かに揺れた。


ここへ来てからずっと冷静だった男が、初めて感情を表に出した。


『私は長く、ガルガン商会に仕えてきました』


『ならば――』


『だからこそです』


ハイゼンが遮る。


『私は商会を残したい』


その言葉で、グレゴールの顔が完全に変わった。


怒り。


困惑。


そして理解。


たぶん、俺よりずっと長く一緒にいた二人には、その一言で分かったんだろう。


『ハイゼン』


『申し訳ございません』


短かった。


グレゴールが剣を抜こうとするより早く、ハイゼンが一歩踏み込んだ。


腰に残していた短剣が、真っ直ぐグレゴールの胸へ入った。


『――っ』


誰も動かなかった。


俺も。


ケインも。


広間の連中も。


ハイゼンは柄を握ったまま、グレゴールの身体を支えていた。


『若旦那のことも、旦那様のことも……私は忘れません』


グレゴールの口が動く。


声にはならなかった。


膝が折れる。


ハイゼンは最後まで身体を支え、静かに床へ横たえた。


それから、その場で膝をついた。


『……これで終わりにしてください』


監視球を見上げる。


『この者たちは、命令に従っただけです。そして、ここにいない者の大半は、この戦いにすら関わっておりません』


ハイゼンの背後には、武器を捨てた商会の人間たちがいる。


『必要であれば、帳簿も資産も引き渡します。私の命も差し出します』


一度だけ息を吸う。


『ですから、商会に残る者たちまで巻き込まないでいただきたい』


何も言えなかった。


正直、ここまでされると思ってなかった。


グレゴールを止める。


それくらいだと思っていた。


まさか、自分の手で終わらせるとは。


隣のケインも黙っている。


しばらくして、俺は口を開いた。


「……商会の人間を皆殺しにするつもりなんてないよ」


ハイゼンの肩が僅かに動く。


「俺を殺しに来た奴とは戦う。でも、来てもいない奴までどうこうする気はない」


『……』


「だから、その条件なら問題ない」


ハイゼンは目を閉じた。


『感謝します』


「ただし、商会の中身は全部確認する」


再びこちらを見る。


「帳簿。倉庫。取引先。手紙。金の流れ。全部」


少し間を置いて、ハイゼンが答えた。


『……本店地下の保管庫を、先に確認してください』


「地下?」


『帳簿と、封書があります』


「封書?」


ハイゼンは一瞬だけ迷った。


『ガルガン商会の印ではありません』


やっぱり何かある。


以前から妙だった。


レイドル個人の暴走だけなら、商会がここまで動く理由としては大きすぎる。


「誰から?」


『私も、すべては知りません』


嘘ではなさそうだった。


『旦那様が直接扱っていました。ただ……上へ報告する、と』


上。


その一言だけで嫌な予感がする。


「分かった。そこは壊さない」


『お願いします』


これで、本当に終わった。


少なくとも今、このダンジョンの中で戦う理由はなくなった。


そう思った直後。


ぱしゃ。


水音がした。


俺は嫌な予感とともに画面を切り替える。


《星泪泉》の水が広がっている区画。


その真ん中に、膝くらいまで水へ浸かったリュネリアがいた。


「……何してんの?」


『《星浴》です』


「見れば分かるよ! 今やるの!?」


『今だからですが』


「どういう理屈!?」


『戦闘中はできませんでしたので』


リュネリアは両手で光る水をすくい上げる。


本人はかなり満足そうだ。


『ここ、もう少し深くできませんか?』


「するわけないだろ!」


『少しだけでも』


「何でこの状況から風呂作ろうとしてんだよ!」


『お風呂ではありませんよ?』


「そこじゃない!」


ケインが横から口を挟む。


「水、まだ増えてますよ」


「あっ」


完全に忘れてた。


俺は慌てて管理画面を開き、水が流れ込んでいる裂け目の前へ一時的な壁を生成する。


光を帯びた水の勢いが少しずつ弱まっていく。


完全に塞ぐかどうかは後で考えよう。


『塞ぐんですか?』


「塞ぐよ!」


『便利だったのですが』


「お前にだけな! 俺のダンジョン水没させてまで便利にする気はない!」


その横を、梁の上からネイラが軽く飛び降りた。


水のない部分へ着地する。


「ネイラ、大丈夫だった?」


「うん」


「怪我は?」


「ない」


「よし」


ネイラは広間を見回した。


消えた柱。


沈んだ床。


割れた壁。


流れ込んだ大量の水。


「壊れたね」


「……そうだな」


ケインが管理画面を指した。


「それ、まだ出てますよ」


「あ」


《勝者特権》


さっきからずっと光っている。


「……やっと見れる」


「今度は何も壊れないといいですね」


「報酬受け取るだけで何が壊れるんだよ!」


ケインが何も言わずリュネリアを見る。


「……やめろ。その説得力のある視線」


リュネリアも《星浴》を切り上げ、水から上がってくる。


ネイラも自然にこちらへ寄ってきた。


俺は表示へ触れる。


《勝利結果を精査します》


「ん?」


いつもと少し違う。


《敵対勢力の戦闘継続能力喪失を確認》


《勝者特権を付与します》


光が広がり、三つの文字列が浮かんだ。


《極希少素材:原初の雫》


《極希少素材:世界樹の樹液》


《極希少素材:迷宮心臓片》


「……素材?」


てっきり施設か、また妙な権能が出ると思っていた。


三つとも名前からして知らない。


でも《極希少》だけは読める。


そこは非常によく分かる。


俺はひとまず全部の説明を開いた。


《原初の雫》


生命が形を得る以前の力を宿した雫。


特殊生命、植物、施設の成長を大幅に促進し、対象によっては本来と異なる変化を引き起こす。


強そう。


というか絶対強い。


次。


《世界樹の樹液》


植物系、生命系対象の成長、再生、拡張を大幅に促進する。特殊施設に使用した場合、周辺環境へ影響を与える可能性がある。


これも強そう。


困った。


こういう時、一個だけ露骨にハズレを混ぜてくれた方が助かる。


何で毎回ちゃんと全部欲しくなるように作ってあるんだ。


最後の一つを開く。


《迷宮心臓片》


《消滅した高位迷宮の中枢から採取された特殊素材》


《ダンジョン由来の生命・施設へ融合させた場合、対象を迷宮そのものと深く接続します》


そこで、指が止まった。


迷宮。


施設。


融合。


何かが頭の中で引っ掛かる。


俺は説明文をもう一度、最初から読み直した。


「……あ」


思い出した。


正確には、忘れていたわけじゃない。


使い道が分からなさすぎて、とりあえず保留にしていたものが一つある。


俺は管理画面を切り替え、施設一覧を下へ送った。


いくつかの項目を越えた先。


そこに今も変わらない名前で残っている。


《謎の種》


拾った時から謎。


調べても謎。


植えても大した反応なし。


だから、いつか何か分かるだろうと放置していた。


ケインが画面を覗き込む。


「それ、前からあった種ですよね」


「うん」


《謎の種》。


《迷宮心臓片》。


二つの表示を横に並べる。


植物を育てるだけなら、《世界樹の樹液》の方がどう考えても分かりやすい。


《原初の雫》なら、もっと予想外の変化が起きるかもしれない。


でも俺が知りたいのは、種がどれだけ大きくなるかじゃない。


そもそも、あれが何なのかだ。


――迷宮そのものと深く接続する。


その一文が、どうしても引っ掛かった。


あの種は、手に入れてからずっと何になるのかすら表示されていない。


普通に育てるだけで答えが出るなら、とっくに何か起きていてもいい。


だったら。


「三番だな」


ケインが二つの表示を見比べる。


「《迷宮心臓片》ですか」


「うん。あの種に使う」


「世界樹の樹液ではなく?」


「そっちは育てるための物だろ。俺が知りたいのは、あいつが何なのかだから」


強いかどうかは分からない。


得になるかも分からない。


でも、ずっと答えの出なかったものに、ようやく鍵らしいものが出てきた。


ここで別の物を選んだら、たぶん後からずっと気になる。


だったらもう決まってる。


「三番。《迷宮心臓片》」


《選択しますか?》


一瞬だけ他の二つを見る。


惜しい。


めちゃくちゃ惜しい。


でも。


「する」


《勝者特権を確定します》


光が収束する。


手の中へ、小さな結晶が現れた。


拳より少し小さい。


黒に近い透明な結晶の中心を、細い青緑色の光が一定の間隔で走っている。


どくん。


本当に脈打ったように見えて、反射的に手を離しかけた。


「うわっ」


「落とさないでくださいよ!」


「今動いた!」


「心臓片って書いてあったでしょう!」


「名前だけだと思うだろ普通!」


もう一度見る。


動かない。


……気のせいか?


いや、今絶対動いた。


これをあの種に使うのか。


急に不安が増してきた。


まあ、もう選んだんだけど。


その時だった。


《追加判定を開始します》


「……ん?」


画面が消えない。


《大規模戦闘における完全勝利を確認》


《追加の勝者特権を獲得しました》


「…………」


数秒、意味が分からなかった。


勝者特権は今受け取った。


手にも持っている。


なのに。


「もう一回!?」


「そんなことあるんですか!?」


「俺が聞きたいよ!」


三つの新しい文字が浮かび上がった。


《特殊権能:簒奪》


《特殊権能:侵蝕》


《特殊権能:逆用》


さっきとは違う。


今度は全部、権能。


俺は上から説明を開いた。


《簒奪》


敵対ダンジョンマスターへの完全勝利時、そのダンジョンマスターが保有していた特殊要素の一部を《勝者特権》の選択候補へ追加する。


次。


《侵蝕》


敵対ダンジョン領域に一定時間滞在することで、その区画の支配力を徐々に低下させ、一部ダンジョン機能を弱体化させる。


《逆用》


構造、発動条件を把握した敵性ダンジョン機構へ干渉し、一時的な誤作動を発生させる。


「…………」


普通に考えるなら、《侵蝕》か《逆用》だ。


効果が分かりやすい。


敵のダンジョンへ入った時点で使える。


相手が格上でも、ホームであることの強みを削れる《侵蝕》。


罠や扉を逆に利用できる《逆用》。


どっちも俺の戦い方に合っている。


一方、《簒奪》。


戦っている最中は何の役にも立たない。


勝たなきゃ発動すらしない。


しかも完全勝利。


条件まで重い。


普通なら後回しだ。


……普通なら。


俺はもう一度《簒奪》の説明を開いた。


《対象が保有していた特殊要素の一部》


そこだ。


例えば、俺より何年も前からダンジョンマスターをやっている奴がいるとする。


そいつが長い時間をかけて集めた施設。


俺が見たこともない権能。


特殊な環境。


そいつしか持っていない何か。


俺が一から集めようと思ったら、同じだけ時間がかかるかもしれない。


でも、そいつに勝ったら?


その中の一つが、俺の《勝者特権》に混ざる。


必ず手に入るわけじゃない。


候補になるだけ。


それでも。


「……ずるくない?」


「何がです?」


俺は答えず、頭の中で先を考える。


相手が強い。


長く生き残っている。


その分だけ、持っているものも多い。


普通なら、それは戦いたくない理由になる。


でも《簒奪》を持っていたら。


強い相手ほど。


長くダンジョンを育てた相手ほど。


勝った時の中身まで期待できる。


……駄目だ。


これ、知ったらもう他の二つと同じ目で見られない。


「何で笑ってるんです?」


「笑ってない」


「笑ってますよ」


頬を触る。


上がっていた。


「いや、違う。これは別にレアだから選ぶとか、そういうんじゃないぞ」


「まだ何も聞いてませんけど」


「将来性の話をしてる」


「だから何も聞いてませんって」


俺は《簒奪》を指差した。


「これ」


ケインが説明を読む。


少しして、こっちを見る。


「……残り二つなら、戦う時に直接使えますよ」


「そうなんだよなあ」


そこだけは本当に惜しい。


《侵蝕》なんて絶対便利だ。


《逆用》も欲しい。


できるなら全部くれ。


でも、《簒奪》は今までの二つとは違う。


勝つための力じゃない。


勝った後を、もっと美味しくする力だ。


そして俺には、もう《勝者特権》がある。


相手が持っている特殊なものを候補へ引っ張り出して、そこから三つを見比べて選ぶ。


つまり、勝てば勝つほど。


強い奴を倒せば倒すほど。


次の選択肢まで良くなっていく。


何より。


「俺、自分で十年かけて集めるの嫌だもん」


ケインが黙った。


「……結局そこですか」


「十年は長いだろ!」


「だからって、人が十年かけて集めたものを狙います?」


「勝たなきゃ貰えないんだから、ちゃんと働いてるだろ!」


「その働き方を言ってるんですよ!」


俺は《簒奪》へ指を伸ばした。


途中で《侵蝕》を見る。


……欲しい。


《逆用》も見る。


こっちも絶対便利だ。


「……全部くれない?」


《一つ選択してください》


「一個くらい融通利かせろよ!」


《一つ選択してください》


「二回言うな!」


ケインがため息をついた。


もういい。


決めた。


「《簒奪》」


指先が触れる。


二つの候補が消え、《簒奪》だけが光を強めた。


《特殊権能:簒奪を獲得しました》


「よし!」


思わず拳を握る。


《迷宮心臓片》。


《簒奪》。


床は沈んだ。


壁も壊れた。


《星泪泉》まで繋がった。


修理にいくらかかるかは考えたくない。


でも、今日の収穫だけ見ればかなり大きい。


そう思った、その瞬間。


管理画面がもう一度光った。


《追加判定を開始します》


「…………」


俺は動きを止めた。


ケインも画面を見る。


リュネリアとネイラまで、今度は何も言わずこちらへ視線を向けている。


いや。


待て。


一回目。


《迷宮心臓片》。


二回目。


《簒奪》。


もう十分だ。


むしろ怖い。


「……まだあるの?」


《特殊勝利条件を確認》


新しい文字が、ゆっくりと浮かび始めた。

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