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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第五章 どうやら商会に喧嘩を売られたみたいです

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第40話 全部計画通りだったはずなんですが、何かがおかしいです


「うおおおおお!?」


爆風が観測用の通路まで抜け、俺とケインは揃って床へ伏せた。


耳がキーンと鳴っている。


何も見えない。


画面も真っ白。


でも分かる。


これは絶対、俺が想定していた「柱を壊す」の音じゃない。


「……ケイン」


「はい」


「生きてる?」


「何とか」


「俺も」


よかった。


まず一個確認できた。


問題はここからだ。


数秒後、監視画面を覆っていた白が少しずつ晴れていく。


俺は恐る恐る顔を上げた。


広間中央を見る。


「……ケイン」


「はい」


「柱は?」


「ありませんね」


「だよな」


ない。


本当にない。


根元どころか、柱が立っていた床まで丸く抉れている。


俺は一応、柱を壊せとは言った。


言ったけど。


柱だった場所まで消せとは言ってない。


その横で、リュネリアは胸の前で両手を合わせ、満足そうに小さく息を吐いた。


「ふぅ……」


「お前、何その顔!?」


「何がですか?」


「やり切った奴の顔するな! こっちは今から被害確認なんだよ!」


リュネリアが首を傾げる。


「柱は壊せましたよ?」


「見れば分かるわ! むしろ見えなくなってるわ!」


「綺麗に壊せたと思います」


「綺麗の意味知ってる!? 何も残ってないのは綺麗じゃなくて消滅って言うんだよ!」


「なるほど」


「そこで勉強した顔するな!」


駄目だ。


めちゃくちゃ満足してる。


何度も止められていた分、ようやく遠慮なく撃てたのが相当嬉しかったらしい。


リュネリアはもう一度、柱があった場所を眺めた。


そして、にこっと笑う。


「すっきりしました」


「だろうな! お前だけな!」


こっちは全然すっきりしてない。


むしろ嫌な予感で胸がいっぱいだ。


「やっぱり、ちゃんと撃てると気持ちいいですね」


「感想が完全にストレス発散なんだよ!」


「もう一回いけますよ?」


「何でおかわりする気満々なんだよ!」


「まだ残ってますし」


「一発目で部屋の中心なくなってんだぞ! 二発目撃ったら相手より先に部屋がなくなるわ!」


「じゃあ、少し抑えて――」


「できるなら最初からやってるだろ!」


リュネリアが少し考え込んだ。


「……やってみます」


「やめろ! 今ここで新しい挑戦を始めるな!」


怖い。


前向きなのが怖い。


何でこういう時だけ向上心を発揮するんだ。


「もう撃つな! 今日は終わり! 閉店! リュネリアの砲撃は本日終了!」


「まだ一回です」


「回数で考えるな! 威力で考えろ!」


ケインが顔を背けた。


「おい、何笑ってんだ!」


「笑ってません」


「肩が震えてんだよ!」


「いや……リュネリアさん、すごく満足そうなので」


「俺には大惨事を起こした奴が達成感に浸ってるようにしか見えねえよ!」


当の本人はというと、本当に満足したらしい。


さっきまで柱へ釘付けだった視線も外れ、表情までいつもの柔らかさへ戻っている。


くそ。


本人だけ完全に仕事終わりの顔しやがって。


こっちはこれから後始末なんだぞ。


その時だった。


ミシッ。


広間の奥から、嫌な音がした。


俺の顔から笑いが消える。


「……今、何か鳴った?」


「鳴りましたね」


ミシミシミシッ。


柱が消えたことで、広間上部に走っていた亀裂が広がっていく。


ここまでは予定通りだ。


天井の一部が落ち、足場をさらに分断する。


そう。


ここまでは。


バキィッ!


壁に亀裂が走った。


「それは違う!」


さらに伸びる。


「待て待て待て! そっちは予定に入ってない!」


壁の一部が崩れた。


その奥から、淡い光が漏れる。


「……ん?」


見覚えがある。


青白く、それでいて夜空の星みたいに揺らぐ光。


リュネリアも気づいたらしく、満足そうだった顔をそちらへ向けた。


「あれ……」


「まさか」


嫌な予感がした。


ものすごく嫌な予感がした。


次の瞬間。


崩れた壁の奥から、大量の水が噴き出した。


しかも、ただの水じゃない。


淡い星光を帯びた水が、一気に広間へ流れ込んでくる。


「《星泪泉》じゃねえかぁぁぁぁ!!」


ケインが目を見開く。


「何ですか、あれ!?」


「リュネリアの泉!」


「説明が雑すぎます!」


「今ちゃんと説明してる暇ある!?」


《星泪泉》から伸びていた地下水脈。


直接繋がっている場所からは十分離して、この広間を作ったつもりだった。


つもりだったのに。


俺はゆっくりリュネリアを見る。


リュネリアも流れ込んでくる《星泪泉》の水を見る。


それから、柱があった場所を見る。


もう一度、水を見る。


「あ、繋がりましたね」


「そんな『近道できた』みたいに言うなぁぁぁぁ!!」


何でちょっと嬉しそうなんだよ!


お前にとっては泉が近くなって便利かもしれないけど、こっちは広間が水没しかけてんだぞ!


星光を帯びた水が足場へぶつかり、逃げ場を失った連中がまとめて押し流される。


『何だこれは!?』


『水だ!』


『光ってるぞ!?』


「俺も聞きたいよ!」


「マスター」


「今度は何!?」


リュネリアが流れ込む水を見て、少し嬉しそうに笑った。


「これなら《星浴》、すぐできますね」


「喜ぶなぁぁぁぁ!!」


今そこじゃない!


お前が《星浴》しやすくなった代わりに、俺の広間が終わりかけてるんだよ!


『足元を見ろ!』


『滑る!』


『押すな!』


大量の水に追われ、グレゴールたちが一斉に動き始める。


「走るな! 絶対走るな!」


「また向こうに指示出してますよ!」


「違う! あいつらが走ると、どこに荷重かかるか分かんないんだよ!」


バキッ。


「あ」


別の足場が折れた。


「ほらぁぁぁ!」


数人が水と一緒に下へ消えていく。


違う。


こんな予定じゃない。


俺は人数を分断したかった。


ネイラで削りたかった。


最後に柱を壊して逃げ道を塞いで、はい勝ち。


そのはずだった。


何で今、光る水が流れてるんだ。


「マスター」


「何!?」


「まだ残っています」


「だから何!?」


リュネリアが少しだけ首を傾げた。


「もう一回なら――」


「絶対撃つな!!」


さっきまで散々我慢させて悪かった。


それは謝る。


でも今日の分はもう撃った。


むしろ三日分くらい撃った!


「ネイラは!?」


画面を探す。


いない。


「ネイラ!?」


「ここ」


真上から声がした。


見上げると、ネイラが梁の上に立っていた。


「何でそこにいる!?」


「水が来たから」


「判断が正しい!」


今日初めて、心の底から安心できる返事が来た!


「マスターも来る?」


「行けるわけないだろ!」


俺の身体能力を考えろ!


その時、広間から別の轟音が響いた。


中央の床が沈み始める。


「今度は何!?」


管理画面へ飛びつく。


《区画内機構:過負荷》


「過負荷!?」


床を分割した。


柱を吹き飛ばした。


予定以上に壁が崩れた。


《星泪泉》から水まで流れ込んだ。


考えてみれば、そりゃ過負荷にもなる。


「一回止める!」


操作する。


反応がない。


もう一度。


駄目だ。


「……止まらない」


「え?」


「止まらない!」


「ええ!?」


ケインまで叫んだ。


広間はもう、俺が昨日作った「とっておきの部屋」とは別物になっていた。


逃げる傭兵。


怒鳴るグレゴール。


必死に指示を飛ばすハイゼン。


梁の上を移動するネイラ。


まだ撃てそうな場所を探しているリュネリア。


止まらない《星泪泉》。


沈む床。


崩れる壁。


そして俺は管理画面。


操作不能。


「待て待て待て! 一回、全員止まれ!」


誰も止まらない。


「俺の話を聞けぇ!」


もちろん向こうには聞こえていない。


「マスター」


「撃つな!」


「まだ何も言っていません」


「今のお前は話しかけてくるだけで怖いんだよ!」


『武器を捨てろ!』


広間からハイゼンの怒声が響いた。


『全員、武器を捨てろ! 降伏する!』


「え?」


『もう戦うな! 生き残ることだけを考えろ!』


次々と武器が落ちていく。


水音に混じって、剣や槍が床へ転がる音が続いた。


『ふざけるな!』


グレゴールだけが剣を握ったまま怒鳴った。


『まだ終わっていない!』


『終わっています!』


『レイドルを殺した男が――』


『その男と戦う前に、ダンジョンに殺されます!』


それはそう。


いや、待て。


「ダンジョンに殺される?」


俺は周囲を見た。


崩れる壁。


流れる《星泪泉》。


沈んでいく床。


「俺もなんだけど!?」


「逃げます?」


「どこへ!?」


その瞬間。


目の前に半透明の文字が浮かんだ。


《敵対集団の降伏を確認》


「今!?」


《戦闘結果を確認》


「ちょっと待て! こっちは戦闘以外で大変なんだよ!」


《敵対集団の戦闘継続能力が規定値を下回りました》


「見れば分かる!」


そして。


《勝者特権の発動条件を満たしました》


「だから今じゃないって!」


俺の目の前で、勝利を告げる文字が輝く。


その向こうでは《星泪泉》の水が流れ、壁が崩れ、連中が逃げ回り、グレゴールだけがまだ剣を握って怒鳴っている。


勝った。


間違いなく勝った。


人数差を潰した。


ネイラで分断した。


リュネリアに柱を壊させた。


全部、俺が考えた。


途中までは完璧だった。


途中までは。


数分前。


「ふはははは! 全部計画通りだ!」


そう叫んでいた俺を、今すぐぶん殴りたい。


何が全部計画通りだ。


柱は消えた。


壁は割れた。


《星泪泉》は繋がった。


床は沈んでる。


向こうは降伏した。


そしてリュネリアだけは、ものすごく満足そうだ。


「マスター」


「何だよ……」


「楽しかったです」


「お前だけだよぉぉぉぉ!!」


俺の叫びが、崩れかけた広間へ虚しく響いた。


その目の前ではまだ、


《勝者特権》


の文字だけが、場違いなくらい綺麗に輝いていた。

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