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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第五章 どうやら商会に喧嘩を売られたみたいです

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第38話 帰られたら困るので、もう少しだけ煽ることにしました



「撤退を進言いたします」


ハイゼンの言葉に、グレゴールはすぐには答えなかった。


セイルが消えた。


ラウゼンも落ちた。


そして、ドーガンまで戻ってこない。


四十七人いたはずの集団は、まだダンジョンの奥へほとんど進めていなかった。それなのに隊列は崩れ、何人もの武器が奪われ、金を積んで雇った三人の切り札が全員戦線から消えている。


「……ふざけるな」


ようやく漏れたグレゴールの声に、ハイゼンは何も返さなかった。


敵はただ罠を仕掛けて待っているわけではない。こちらの対応を見てから、その強みが使えない状況へ戦いそのものを移している。


罠を見抜けば、罠のない場所で分断する。


魔法を防げば、防いでいる間に別の場所を崩す。


力ずくで突破する者には、その力を支えているものだけを奪う。


真正面から勝とうとしていないからこそ、こちらが用意した切り札は、一人ずつ確実に潰されていた。


「旦那様。この場所では勝てません」


「黙れ」


「ドーガンまで失った以上、これ以上は――」


「黙れ!」


怒声が地下へ響き、周囲にいた傭兵や冒険者たちが一斉に口を閉ざした。


金で雇われた者たちも、もう前へ出たがっていない。金をもらったからといって、死ぬために来たわけではないのだから当然だった。


今ならまだ戻れる。


グレゴールさえ命じれば、この場で引き返せる。


ハイゼンがもう一度説得しようとした、その瞬間だった。


『あー、聞こえてる?』


どこからともなく響いた若い男の声に、全員が顔を上げた。


『ドーガンだっけ? あの盾の人』


グレゴールの顔が歪む。


『強かったよ。いや、あれは普通に引いた』


少しだけ間が空いた。


『盾はもらったけど』


「貴様……!」


『あ、聞こえてるじゃん』


グレゴールの拳が震える。


『で、どうする? 帰る?』


ハイゼンが僅かに目を細めた。


『まあ、帰るよな。俺なら帰るし』


「……何?」


『だって怖いじゃん。三人ともいなくなったんだぞ? 俺ならもう走って帰る』


グレゴールの顔から表情が消えていく。


ハイゼンには、相手の狙いが分かった。


止めなければならない。


そう思った時には、もう遅かった。


『だから別にいいよ。帰っても』


一拍。


『レイドルのことも、もう気にしなくていいんじゃない?』


「――貴様!」


グレゴールの怒声が地下へ響いた。


『あ、やっぱ来る?』


急に声が明るくなる。


『いいよ。来いよ』


「旦那様、いけません!」


『こっちまだ残ってるから』


「何がだ!」


『とっておき』


わずかな間を置いて、声が続いた。


『四十七人も連れてきたんだからさ』


笑っている。


『もうちょい頑張れよ。こっち昨日から準備してんだから』


「進め!」


「旦那様!」


「進めと言った!」


「これは明らかな挑発です!」


「分かっている!」


グレゴールの怒鳴り声が地下へ響いた。


「分かっていて、引けるか……!」


ハイゼンは何も言えなくなった。


普段のグレゴールなら、こんな安い挑発に乗る男ではない。だが、レイドルを殺した本人から、その死まで軽く扱われて冷静でいられるほど、今のグレゴールは商人ではいられなかった。


「……隊列を組み直せ」


せめて残った者をまとめるため、ハイゼンは周囲へ指示を飛ばした。


◇ ◇ ◇


拡声具から口を離す。


「……完璧」


「最低ですよ」


「何で!?」


ケインが、信じられないものを見る目で俺を見ていた。


「自分で何言ったか覚えてます?」


「帰ってもいいよって」


「その前後も思い出してください!」


「……四十七人?」


「人数の話じゃない!」


注文が多いな。


ちゃんと選択肢は与えたじゃないか。


帰るか、来るか。


二択だ。


「レイドル様の名前まで出したでしょう!」


「効いたじゃん」


「効果の話してないですよ!」


「でも来るだろ?」


「来るでしょうね!」


「ほら」


「その『ほら』が腹立つんですよ!」


何だよ。


成功したのに。


監視画面を見ると、止まりかけていた集団が再び動き始めている。


「よし、来た」


「……本当に来た」


ケインの顔が引きつった。


「何その顔」


「いや、分かってはいたんですけど……本当に来るんだなって」


「お前が来るって言ったんだろ」


「言いましたけど、だからって嬉しそうにされると怖いんですよ!」


失礼な。


俺だって別に、敵が来て嬉しいわけじゃない。


「昨日作った部屋が無駄にならなくて嬉しいだけだよ」


「もっと怖いですよ!」


何でだよ。


昨日かなり時間かかったんだぞ。


使わずに終わったら普通にもったいないだろ。


「罠って、使わずに済んだ方がいいものじゃないんですか?」


「それは作ってない奴の意見だ」


「罠職人みたいなこと言わないでください!」


違う。


俺はダンジョンマスターだ。


似たようなものかもしれない。


再び進み始めた一団を確認してから、まだ開いていない区画へ視線を移した。


昨日作ったものの中で、一番手間をかけた場所。


四十七人なんて大人数が来るとは思っていなかったけど、むしろ人数が多い方が都合はいい。


「リュネリア」


「はい」


「約束、覚えてる?」


「もちろんです」


返事と同時に、リュネリアがこちらを向く。


「次の部屋に、でかい柱がある」


「はい」


「壊していい」


「いつですか?」


早い。


「……まだ」


「分かりました」


素直に頷いた。


よし。


分かってる。


「では、何人入ったらですか?」


「具体的に詰めてくるな!」


「合図を待てばいいのですか?」


「そう! それ! 俺が合図するまで絶対撃つな!」


「分かりました」


今度こそ話は終わった。


……はずだ。


念のため隣を見る。


「ケイン」


「嫌ですよ」


「まだ何も言ってないだろ!」


「リュネリアさん見張ってろって言うつもりでしょう!」


「何で分かった!?」


「今の流れで他に何があります!?」


「分かったなら頼む」


「嫌です!」


「何でだよ!」


「俺が止められると思います!?」


「思ってない!」


「じゃあ何で頼むんですか!?」


「一人で不安だからだよ!」


「理由が情けない!」


うるさいな!


俺だってリュネリアを止められるとは思ってないよ!


だから人数を増やそうとしてるんだろ!


「二人になって何が変わるんです?」


「安心感」


「結果は!?」


「変わらない」


「意味ないでしょう!」


言われてみればそうだった。


「マスター」


リュネリアが俺たちの間へ声を挟む。


「壊していいですか?」


「まだ!」


「まだです!」


俺とケインの声が綺麗に重なった。


一瞬、二人で顔を見合わせる。


「……ほら、役に立った」


「今ので!?」


やっぱり二人いた方がいいじゃないか。


「ネイラ」


「うん」


「逃げ道を頼む。抜けてきた奴がいたら止めて」


「分かった」


終わり。


俺は思わずネイラを見る。


「……楽」


「何が?」


「何でもない。そのままでいてくれ」


「うん」


素晴らしい。


どうして全員こうじゃないんだろう。


「俺もさっきまでは普通に返事してましたよね?」


「聞こえてたの!?」


「隣にいますからね!」


余計なところだけ耳がいいな、こいつ。


俺は管理画面へ視線を戻した。


残っているのは三十人以上。


まだ多い。


まともにぶつかれば、人数差だけでも十分厄介だ。


だから、まともにぶつかる気はない。


罠を見抜く奴には、罠のない場所を使った。


魔法を防ぐ奴には、そいつへ撃たなかった。


力ずくで進む奴からは、その力を支えていた盾を奪った。


そして最後は――人数そのものを役に立たなくする。


「せっかくここまで来たんだ」


管理画面へ指を伸ばす。


閉じていた通路が、ゆっくりと開き始めた。


その先にあるのは、大人数を迎えるために作った広い区画。


昨日から準備していた、とっておきの部屋。


俺は画面の向こうで進んでくるグレゴールたちを見ながら、口元を上げた。


「最後まで遊んでいけよ」

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