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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第五章 どうやら商会に喧嘩を売られたみたいです

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第33話 捕虜と交渉するんですが、親父の方は話が通じなさそうです


せっかく生かして捕まえたんだから、まずはきっちり役に立ってもらおう。


そう決めた俺は、八人の中でも一番話が通じそうなケインを残し、他の七人を少し離れた場所へ移動させた。


全員にDPで買った拘束具は付けてあるし、念のためネイラにも確認してもらっている。八人分で千二百DP。捕虜を増やしただけで出費まで増えるのは納得いかないけど、逃げられてまた戦う羽目になるよりは安い。


「じゃあ、ガルガン商会について教えてもらおうか」


「はい!」


返事が早い。


まあ、そこには触れない。


俺は知らない。何も見てない。


「お前ら八人は何しに来た?」


「レイドル様と同行していた護衛四人の捜索です。何か見つけても深入りせず、一度戻って報告するよう言われていました」


「俺たちについては?」


「何も聞いてません。そもそも、こんな場所があること自体知りませんでした」


ケインの視線が周囲を巡った。


罠があり、迎撃用に作った通路があり、さっきまで何もなかった床にはDPで購入した拘束具が転がっている。


考えてみれば、俺もこっちへ来たばかりの頃なら同じような顔をしていたかもしれない。


今じゃ管理画面を開けば、部屋も通路も罠も増やせる。


DPさえあれば。


……そう考えると、やっぱこのシステムすげえな。


一万DPの罠はふざけんなと思ったけど。


「指示したのは誰?」


「ハイゼンさんです。商会の番頭で、旦那様の側近です」


「旦那様?」


「グレゴール・ガルガン。レイドル様の父親です」


親父か。


レイドルが跡取りだと言っていた以上、当然いるとは思っていた。


「どんな奴?」


「慎重な方です。若旦那とはかなり違います」


「レイドルと?」


「若旦那は自分で決めたらすぐ動く人でしたけど、旦那様は先に情報を集めます。今回も、いきなり大人数を送るのではなく俺たちに捜索だけさせました」


あー、嫌なタイプだ。


レイドルみたいに勝手に乗り込んできてくれるなら、こっちは罠を置いて待っていればいい。なのに親父は八人送り込んで、それすら戦わせず情報だけ持ち帰らせるつもりだったらしい。


「……息子より厄介じゃね?」


「俺もそう思います」


お前が言うんだ。


「戦力は?」


「常駐の護衛が二十人前後です。必要なら冒険者や傭兵も雇えます」


「増やせるのかよ……」


今回の八人は、事前に迎撃区画を作って待ち構えていたから押さえられた。それ以上の人数で来られるなら、もう一回同じ方法で、なんて甘く考えない方がいい。


「全員でここに来る可能性は?」


「それは……」


ケインの返事が鈍った。


「何?」


「旦那様が、若旦那の死を知ったらどう動くか分からないです」


「……まだ死んだって知らないの?」


「俺たちは捜索命令しか受けてません。今は行方不明という扱いです」


そういうことか。


今のところ、向こうはまだレイドルを探しているだけ。


問題は、その先だ。


「死んだって分かったら?」


ケインは少し考えてから、表情を硬くした。


「たぶん、止まらないと思います」


「何が?」


「旦那様です。若旦那は跡取りでしたけど、それ以上に……かなり可愛がられてましたから」


なるほど。


商売上の損得で動いている相手なら、まだ交渉できる。こっちを攻めるより損をすると分からせるなり、別の利益を提示するなり、やりようはある。


でも、息子の仇となれば話は別だ。


「……金で解決は?」


「難しいと思います」


「取引」


「それも」


「俺たちがめちゃくちゃ儲かる話持っていっても?」


「若旦那を生き返らせられるなら、聞いてもらえるかもしれません」


「無理だな!」


じゃあ駄目じゃん。


俺はレイドルを殺した。


正確にはネイラがやったけど、命令したのは俺だ。そこを「実際に手を下したのは俺じゃありません」で押し通せるほど、相手も馬鹿じゃないだろう。


「……つまり、俺たちが殺したってバレたら?」


「使えるものは全部使ってくると思います。金も、人脈も、護衛も。冒険者や傭兵を雇ってでも、あなたたちを探すかと」


「最悪じゃん」


息子を倒したら親父が本気になる。


しかも息子より金も人も持っている。


何だその順当に強くなるボス戦。


「ちなみに『先に襲ってきたのそっちです』は?」


「意味ないと思います」


「だよなあ……」


ちょっとだけ期待した。


本当にちょっとだけ。


グレゴールはまだレイドルの死を知らない。


でも、この八人が戻ればいずれ知られるし、戻らなければ捜索隊まで消えたことになる。


どっちに転んでも、何もしないで解決する未来は見えなかった。


「他に動いてる奴は?」


「俺たち以外ですか?」


「そう。レイドルが消えてから、商会が何かしてない?」


ケインが少し迷ってから答えた。


「ボルドさんを見張っている人間がいます」


俺の意識が一気にそっちへ向いた。


「……ボルドを?」


「はい。二人です。街に戻ってから交代で見張ってるはずです」


横でネイラの耳が動く。


「捕まった?」


「いや、監視だけだ」


俺が答えると、ネイラはすぐに続けた。


「助けに行く?」


「待て。今こっちから会いに行ったら駄目だ」


「どうして?」


「誰と会うか見るために監視してる可能性が高い。そこに俺たちが顔出したら、自分から答え教えに行くようなもんだろ」


ネイラは少し考えてから座り直した。


「……分かった」


ボルドは長く商売をしている。


尾行に気づいている可能性も十分あるし、ここで俺たちが慌てて動く方が危険だ。


とはいえ、これでのんびりしていられない理由がもう一つ増えた。


「ケイン。ガルガン商会の建物とか、中のことも分かる?」


「護衛なので、大体は」


「どんな感じ?」


「本店は東側の商業区です。裏手に護衛用の宿舎があって、少し離れたところに倉庫が二つあります。昼間は人の出入りが多いですが、夜はかなり減ります」


「夜も護衛はいる?」


「います。本店と倉庫、それぞれに見張りが残ります」


本店。


宿舎。


倉庫二つ。


護衛二十人前後。


雇おうと思えば、さらに増える。


「裏口は?」


「あります」


「屋根から入れそうなところは?」


「……あります」


「見張りが薄くなる時間」


「交代の前後なら多少は」


「鍵は?」


「倉庫なら管理している人間が決まってます」


ケインが途中から怪訝な顔になった。


「……何でそんなこと聞くんです?」


「念のため」


「本当にですか?」


「もちろん」


まだ何も決めてない。


敵の本拠地への入り方を聞いてるだけだ。


「そういえば、簡単な見取り図ならありますよ」


「あるの!?」


思わず身を乗り出した。


「護衛用ですけど。新人に配置を教える時に使うので」


「どこ?」


「俺の部屋です」


「お前の部屋かあ……」


急に難易度が上がった。


DPで買えませんかね、その見取り図。


……無理だよな。


「場所だけ教えられる?」


「教えられますけど、勝手に入ったら宿舎の人間に見つかると思います」


「だよな」


俺たち三人がガルガン商会の護衛宿舎へ忍び込み、捕まえた護衛の部屋を漁る。


どう考えても怪しい。


というか完全に泥棒である。


いや、今さらか?


相手の跡取りを殺して護衛八人捕まえてる時点で、泥棒が追加されたところで誤差な気もする。


「マスター」


隣からリュネリアが覗き込んできた。


「何?」


「街へ行くんですか?」


「まだ決めてない」


「そうですか……」


分かりやすく残念そうな顔をするな。


「何でちょっと残念そうなんだよ」


「街なら、私も何かできるかと思って」


「何するつもり?」


「必要なら壊せます!」


「街で一番やっちゃ駄目なやつ!」


こいつを街へ連れていく場合、まず「勝手に撃たない」を百回くらい言い聞かせる必要がありそうだ。


「今度はちゃんと撃っていい場所を確認します!」


「それは毎回確認してくれ!」


横を見ると、ネイラまで立ち上がっていた。


「私はどこから入る?」


「お前も行く前提なの?」


「違う?」


違わないのが困る。


ネイラなら潜入には向いている。むしろ俺より遥かに向いている。


問題は、見つかった奴が逃げた時に狩りが始まりそうなことくらいだ。


……それ結構大きな問題だな。


「とりあえず座れ。まだ決めてないから」


「分かった」


ネイラが素直に戻る。


俺はもう一度ケインへ向き直った。


「あと一つ。俺たちがここで何もしなかったら、どうなると思う?」


「何もしない?」


「お前ら八人をここに置いたまま、向こうが次に来るまで待つ」


ケインは少し考えた。


「……俺たちが戻らなければ、次はもっと慎重になると思います。入口を探して見張るかもしれませんし、人数も増やすでしょう。冒険者を雇う可能性もあります」


やっぱりか。


ダンジョンの中なら罠も地形も使えるから、待ち構えること自体は悪くない。


でも、その間に向こうも準備する。


入口を見つけられて監視までされたら、ボルドとの行き来にも影響が出る。


「……待ってるだけだと、向こうに好きなだけ準備させることになるな」


「じゃあ、攻めるんですか?」


リュネリアの声が少し弾んだ。


「まだ攻めるとは言ってない」


「そうですか……」


「だから何で残念そうなんだよ!」


「活躍できそうなので!」


やっぱりそれか。


「今度はちゃんと撃っていい場所を確認します!」


「それはさっき聞いた!」


こいつを活躍させる場所だけは、本当に慎重に選ぼう。


その時、ケインが拘束された両手を少し上げた。


「俺も、何かした方がいいですか?」


「お前捕虜だろ」


「そうなんですけど、このまま何も知らないよりは……協力した方が安全かなと」


「でも、お前の仲間は?」


俺が七人の方を見ると、ケインもそちらへ視線を向けた。


「仲間を売るつもりはありません」


その答えは早かった。


前にも同じだった。


こいつは自分が捕まっても、仲間を騙して罠へ誘い込むことだけは拒否した。


「別に売れとは言わないよ」


「……いいんですか?」


「そこ無理やりやらせても、後でお前のこと信用できないだろ」


ケインが少し黙った。


仲間を平気で売る奴をこっちへ引き込んだところで、次は俺たちを売るかもしれない。


だったら、そこは曲げない方がいい。


「ただ、知ってることは聞く。俺たちも死にたくないからな」


「それは……分かります」


「よし。じゃあ残りの七人とも話す」


「交渉ですか?」


「そう」


グレゴールとの話し合いは、おそらく無理。


でも護衛たちは別だ。


仕事でここへ来ただけの連中まで、レイドルの仇討ちに命を懸けるとは限らない。


だったら条件を付けて解放する。


俺たちのことを話さない。


ここへ戻ってこない。


ボルドにも手を出さない。


それを守るなら、八人をずっとここで養うよりよほどいい。


「ネイラ、七人連れてきて」


「分かった」


立ち上がったネイラへ、俺は一応付け加える。


「普通に連れてきてくれよ」


「普通に?」


「叩いたり脅したりしないで」


「分かった」


一瞬考えたのが怖い。


しばらくして、拘束された七人がネイラに連れられて戻ってきた。


先頭のバルドは俺の前まで来ると、警戒したまま足を止める。


「何のつもりだ」


「取引しよう」


「取引?」


七人の視線が集まった。


「約束を守るなら、お前らをここから出す」


空気が変わった。


バルドだけでなく、後ろの六人まで互いの顔を見る。


「……本気か?」


「条件次第」


「何をさせる」


「別に難しいことじゃない。俺たちのことを商会に話さない。ここへ戻ってこない。ボルドにも手を出さない。それだけ」


バルドが眉を寄せた。


「俺たちが戻れば、商会は何があったか聞くぞ」


「何も見つからなかったで通してくれ」


「八人でか?」


「そこは頑張って」


「雑だな、お前」


「俺だって全部考えてやれるほど親切じゃないんだよ!」


命まで取らずに帰すんだ。


言い訳くらい自分たちで考えてほしい。


バルドは後ろの仲間たちを見ると、しばらく小声で話し始めた。


俺は口を挟まずに待つ。


七人全員をここで抱える必要がなくなるなら、その方がいい。


殺しても何も増えない。


生かして帰せば、少なくとも今は戦わなくて済む。


しばらくして、バルドがこちらを向いた。


「分かった」


「守る?」


「ああ。俺たちは何も見つけなかった。ボルドにも手を出さない。それでいいんだな?」


「それでいい」


思っていたより簡単にまとまった。


そこで俺は、まだ返事をしていない一人を見る。


「ケインは?」


「……俺は」


ケインは七人を見る。


バルドも、他の護衛たちもケインの返事を待っていた。


しばらく迷ったあと、ケインは俺へ向き直る。


「もう少し考えさせてください」


「別にいいけど」


「すみません」


「命かかってんだから、そのくらい考えろよ」


俺としては、八人全員帰ってくれても構わない。


約束さえ守るなら。


拘束具を外す準備をしながら、俺はそんなことを考えていた。


七人は帰る。


ケインだけは、まだここに残る。


そして。


この時交わした約束を最後まで守るのも、結局そいつ一人だけになることを。


俺はまだ知らなかった。

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