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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第五章 どうやら商会に喧嘩を売られたみたいです

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第31話 七人で来たんですが、こっちは待ち伏せ済みです


迎撃区画へ戻る途中で、捕虜の名前を聞いた。


別に仲良くなるためじゃない。


「お前、名前は?」


「ケインです!」


「元気だな」


「ありがとうございます!」


「褒めてねえよ」


ケイン。


ガルガン商会に雇われている護衛で、今回の八人の中では一番若いらしい。年齢は二十四、俺より三つ上だ。


それなのに、さっきから俺の後ろを驚くほど素直についてきている。


「ネイラ」


「何?」


「ちゃんと来てる?」


「来てる。七人とも」


その言葉を聞いた瞬間、ケインの足がわずかに鈍った。


「どうした?」


「い、いえ!」


「仲間だろ。心配じゃないのか?」


「心配です!」


「じゃあ何でそんな元気なんだよ」


「生意気な態度を取らないようにしています!」


「何されたんだよお前!?」


ネイラを見る。


いつも通り。


リュネリアを見る。


こっちも普通に笑っている。


……もういい。今は七人だ。


迎撃区画へ戻ると、昨日決めた通りすぐ配置についた。リュネリアは左側の広い通路、ネイラは右側の細い通路。俺はその中央で両方を見られる位置につき、ケインだけはさらに奥へ下がらせる。


「ここから動くなよ」


「はい!」


「あと大声出すな。仲間にこっちのことを教えようとするのもなし」


「はい!」


「……本当に素直だな」


「ありがとうございます!」


「だから褒めてねえって!」


何だこいつ。


数分前まで敵だったよな?


その時、ネイラの耳がぴくりと動いた。


「近い」


俺も黙る。


まだ距離はあるが、複数人の足音が少しずつ近づいてくる。


「ケイン」


「はい」


「お前らの中で一番強いの誰?」


「バルドさんです。大剣を使います。正面から戦ったら、俺では勝てません」


「他は?」


「弓が二人、魔術師が一人。残り三人は剣です」


思ったより構成がしっかりしている。


こっちを攻めるために編成された部隊ではないとはいえ、正面からまともにぶつかる理由はますますなくなった。


「マスター」


リュネリアが小声で呼んでくる。


「私、誰を狙えばいいですか?」


「まだ誰も狙うな」


「はい」


返事と同時に、両手の間へ光が集まり始めた。


「……何してんの?」


「準備です」


「まだだって」


「撃ってません!」


「そういう問題じゃないんだよ!」


「大丈夫です。今度は出ません!」


「その『今度は』何!?」


リュネリアが黙る。


ネイラも目を逸らす。


ケインだけが、ものすごい勢いで壁際へ寄った。


「お前は何で隠れた!?」


「念のためです!」


「何があったんだよ!!」


後で絶対聞く。


今は無理だけど。


足音が近づいてきたところで、俺は声を落とした。


「リュネリア、いったん消してくれ。撃つ時は俺が言う」


「……はい」


ものすごく残念そうに光を消した。


何で残念そうなんだ。


遊びじゃないぞ。


やがて入口側から男の声が響いた。


「ケイン!」


呼ばれたケインが反応し、俺を見る。


「返事していいですか?」


「駄目」


「分かりました」


素直すぎる。


「ケイン! 聞こえるか!」


返事がないと分かると、向こうの足音も止まった。


まあ、当然だ。


仲間一人がこの辺りで消えているんだから、そのままぞろぞろ入ってくるほど馬鹿ではないらしい。


「……面倒だな」


「来ませんね」


「そりゃ来ないだろ」


このまま待てば向こうが引く可能性もある。


それは困る。


ここまで来て入口の位置だけ覚えて帰られるのが一番まずい。


少し考えたところで、後ろからケインが口を開いた。


「俺が呼びましょうか?」


「……何て?」


「見つけた、と言えば来ると思います」


俺はケインを見る。


「いいの?」


「え?」


「仲間騙すことになるけど」


ケインはそこで初めてすぐに答えなかった。


少し迷ったあと、首を横に振る。


「すみません。それはできません」


「そっか」


「……怒らないんですか?」


「何で?」


「いや……」


ケインがネイラを見る。


「俺じゃなくてそっち見んな」


ネイラが首を傾げた。


「生意気?」


「違う! 今のは違うから!」


「分かった」


ケインが明らかにほっとする。


何だこの関係。


「別にいいよ。仲間売れって命令する気はない」


むしろ断ってくれて少し安心した。


今後こいつから聞いた情報を信用するなら、何でも簡単に裏切る奴じゃない方がいい。


となると、やっぱり向こうから入ってきてもらうしかない。


その時だった。


入口側で、小石が転がるような音がした。


一つ。


続けて、もう一つ。


そして知らない男の声が響く。


「下がれ!」


直後、何かがこちらへ投げ込まれた。


床へ転がったのは、小さな筒だった。


「何これ」


「マスター、下がって!」


リュネリアが前へ出る。


次の瞬間、筒から白い煙が一気に噴き出し、視界があっという間に真っ白になった。


「うわっ!?」


毒かと思ったが、喉に少し刺激がある程度で、身体が痺れるような感じはない。


後ろからケインの声が飛んでくる。


「毒じゃありません! 煙幕です!」


「先に言えよ!」


「今気づきました!」


「役に立つのか立たねえのかどっちなんだよ!」


煙の向こうから足音が重なる。


来る。


しかも、一気に。


「ネイラ!」


返事はない。


でも、それでいい。もう動いている。


「リュネリア、まだ撃つなよ!」


「見えません!」


「だから撃つなって言ってんの!」


「はい!」


怖すぎる。


煙の中でこいつに撃たせるくらいなら、七人と殴り合った方がまだマシ……いや、それは嘘だ。


俺は絶対殴り合わない。


複数の足音が入口を越え、煙の中で広がっていく。


俺には姿は見えないが、罠の位置なら昨日何度も確認してある。


さらに一歩。


その瞬間、奥で金属音が弾けた。


「ぐっ!?」


一人かかった。


「罠だ!」


怒鳴り声と同時に別の場所でも作動音が響き、二人目が引っかかる。


だが、向こうも素人ではない。


「散れ!」


煙の中で一斉に左右へ分かれ始めた。


固まってくれた方がリュネリアには都合がいいのに、そう簡単にはいかないらしい。


「ネイラ、右!」


「分かった」


煙の向こうから短い返事が返る。


その直後、何かがぶつかる鈍い音と、短い悲鳴。


右へ逃げた一人が消えた。


さらにもう一度、足音が乱れたかと思うと、二人目の声も途切れる。


速い。


殺してはいないはずだ。


ネイラには可能なら生け捕りと伝えてある。


少しずつ煙が薄れ、ようやく前方の人影が見え始めた。


先頭には大剣を持った男。


その後ろに剣士と、杖を持った魔術師。


ケインの情報通りなら、あの大剣がバルドだ。


「リュネリア!」


「はい!」


待ってましたと言わんばかりの返事。


「左の通路! 人じゃなくて奥の壁を狙え!」


「壁ですか?」


「通路ごと潰して逃げ道塞げ!」


「分かりました!」


リュネリアが両手を前へ出し、星の光を集める。


それを見たケインが、ほとんど反射で後ろへしゃがみ込んだ。


「お前判断早いな!?」


「一度見ましたので!」


「何を!?」


聞く前に光が放たれた。


轟音が響き、左側の通路そのものが砕け飛ぶ。


狙いは完璧だった。


敵には誰一人当たっていない。


ただし、壁は抉れ、床は砕け、天井の一部まで崩れ落ちた。


「できました!」


「うん! 狙いは完璧!」


「ありがとうございます!」


「威力がおかしいだけで!!」


昨日作ったばかりなんだけどな、そこ。


いや、壊していい場所として作ったんだけど。


実際に壊されるとちょっと悲しい。


でも、これで左は塞がった。


逃げ道は中央と右。


右にはネイラ。


中央には拘束罠。


「ふざけやがって!」


大剣の男が前へ出た。


踏み込みを見ただけで、他の連中より明らかに速い。


そのまま一直線に俺へ向かってくる。


「マスター!」


リュネリアが動こうとする。


「待て!」


ここで撃たせたら俺まで死ぬ。


大剣の男は一つ目の罠を避け、二つ目も見切った。


「マジかよ!」


速い。


しかも、ちゃんとこっちへ来る。


俺は反射的に後ろへ下がった。


「お前が頭か!」


「違います!」


咄嗟に嘘をつく。


「マスターです!」


リュネリアが即座に訂正した。


「何で言うんだよぉぉぉ!!」


大剣の男の視線が完全に俺へ向く。


「やっぱりお前か!」


「今のなし! こいつ何も分かってないから!」


「分かってます!」


「黙っててくれ!!」


大剣が振り上げられる。


受ける?


無理。


俺は迷わず横へ飛んだ。


男が追ってくる。


さらに一歩踏み込んだ、その瞬間。


床が沈む。


「――なっ!?」


拘束罠が男の足首へ食いつき、前へ出ていた身体が大きく崩れた。


「よっしゃ!」


男は大剣を床へ突き立てて何とか転倒を防ぎ、そのまま拘束具を力任せに引き剥がそうとする。


金属が嫌な音を立てた。


「うそだろ!?」


壊す気かよ!


「リュネリア!」


「はい!」


言いかけて、止める。


近すぎる。


俺が。


「撃つな!」


「はい!」


リュネリアは即座に止まった。


その代わり、大剣の男の背後へ黒い影が滑り込む。


ネイラだ。


男が振り返るより早く、短剣が首筋へ触れた。


「動かないで」


「……っ」


「動いたら?」


男が低く聞く。


ネイラは少しだけ考えた。


「叩く」


「そこ!?」


殺すじゃないんだ!?


大剣の男も意味が分からない顔をしている。


後ろからケインが叫んだ。


「バルドさん! 大人しくした方がいいです!」


「ケイン!?」


「本当に大人しくした方がいいです!!」


必死だった。


何なんだよその説得力。


周囲を見ると、右へ逃げた二人はネイラに倒され、中央では二人が拘束罠に捕まっている。


魔術師はリュネリアの光を警戒し、弓持ちは狙う相手を決めきれずに止まっていた。


思っていたより、かなり有利だ。


八人まとめて来られていたら面倒だった。


最初に一人取れた。


その一人から構成を聞けた。


罠へ誘導できた。


リュネリアが逃げ道を消し、ネイラが孤立した相手から潰した。


結果、一番強い奴の首にはもう短剣がある。


「武器を捨ててくれ!」


誰も動かない。


俺は少し考えてから、横を見る。


「リュネリア」


「はい!」


「ちょっと光らせて」


「分かりました!」


両手の間へ星光が集まった。


ケインが即座に両手で頭を守る。


「そこまでしなくていい!」


「念のためです!」


その動きを見た敵側の顔が一斉に引きつる。


一人が剣を落とした。


続いてもう一人。


弓も床へ落ち、最後に魔術師が杖を手放した。


「……よし」


勝った。


今のところ、誰も殺していない。


少しだけ息を吐く。


その時。


リュネリアの光が、さらに一段強くなった。


「……リュネリア?」


「はい?」


「もう消していいぞ」


「はい!」


光が消える。


何も起きない。


俺はもう一度、今度こそ安心して息を吐いた。


「よし」


今回は出なかった。


横を見ると、ネイラも小さく頷いている。


ケインだけが、しばらく頭を抱えたまま動かなかった。

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