第27話 迎撃用の通路を作ったんですが、使う前から壊れそうです
迎撃用の通路を作る。
言葉にするとそれだけだけど、実際にやってみると想像以上に面倒だった。
「……ここ、もう少し曲げた方がいいな」
管理画面の上で通路を修正する。
今はリュネリアとネイラにも同じ画面が見えていた。少し前に情報板で、設定を変えれば配下にもシステム表示を共有できると知ったので試してみたら、普通にできた。
もっと早く知りたかった。
「マスター、ここは広くするんですか?」
リュネリアが画面上の分岐を指す。
「そっちはお前用。ここなら思い切り撃ってくれていいぞ」
「本当ですか!? 全力でも大丈夫ですか?」
「全力でいい! その代わり、ここから先だけにしてくれよ!」
「はい! 任せてください!」
「……何でそんな嬉しそうなんだよ。今から壊す場所決めてるだけだからな?」
「でも、最初から壊していい場所なら安心して撃てます!」
「まあ、お前の場合はその方が安心だよな……」
問題は、狙った場所の周辺まで一緒になくなることだ。
前回だって俺が左の通路ごと潰していいと言った結果、本当に通路が使い物にならなくなった。
だったら最初から、なくなっても困らない場所を作ってしまえばいい。
敵が入ってきたら、ここでリュネリアに撃ってもらう。通路ごと消えても問題なし。むしろ、そのためにわざわざ広い区画を作る。
「ここから奥なら、最悪全部潰れてもいい。撃つなら敵を引き込んでからだな」
画面上に目印を置く。
リュネリアもそれを見ながら頷いた。
「この辺りまで来てからですね?」
「そうそう。そこまで入ったら遠慮なく撃ってくれ!」
「分かりました!」
今まではリュネリアの威力に合わせて、その場で撃たせる場所を考えていた。
今回は逆だ。
最初から、全力で撃っても困らない場所を用意する。
なんとも頭の悪そうな解決法だけど、少なくとも俺たちには合っている。
その隣では、ネイラが細い方の通路をじっと見ていた。
「こっちは?」
「ネイラ用。見た感じどうだ?」
ネイラは画面を眺めてから、通路の奥を指した。
「真っ直ぐすぎる。奥まで見える」
「やっぱりか。じゃあ、もう少し曲げよう」
通路を折る。
ネイラはその形をしばらく見てから、さらに奥を指した。
「そこも」
「ここ?」
「もう少し手前」
「この辺か?」
「うん。そこなら隠れられる」
「よし、それでいこう」
修正を確定する。
DPが減った。
……必要経費。
今はそういうことにしておこう。
細い通路の途中には、足止め用の罠を置いていく。
目的は敵を倒すことじゃない。
十人で来るなら、十人まとめて戦わせなければいい。
先頭だけ通して後ろを止める。
あるいは真ん中で分断する。
一人でも孤立させられれば、そこから先はネイラの得意分野だ。
「避けられたら?」
ネイラが罠の位置を見ながら聞く。
「それでもいい。罠を警戒して足元を見てくれるだけで十分だ。その間に近づけるだろ?」
「うん」
「ただ、一人は生かして捕まえたい。やれそうなら殺さず止めてくれ!」
「分かった」
ガルガン商会の向こうに、本当に古参のダンジョンマスターがいるのか。
いるなら、どこまで商会と繋がっているのか。
こっちは分からないことが多すぎる。
次に来る連中には、できれば色々と喋ってもらいたい。
一通り形を作ったところで、俺たちは実際の通路へ移動した。
まずはリュネリア側。
管理画面では十分広くしたつもりだったけど、実際に立ってみるとかなり大きい。
俺が奥まで歩いて振り返る。
「そこから奥まで見えるか?」
「はい! ちゃんと見えます」
リュネリアは立ち位置を少し変え、通路の奥へ手を向けた。
視線の先を確認してから、俺も壁際へ移動する。
「じゃあ敵がさっき決めた位置まで来たら、ここで撃ってくれ! ただし、こっち側には絶対向けるなよ!」
「分かってます!」
「壁ごといっていいからな。ただ、俺たちがいるところまで崩すなよ!」
「できるだけ抑えます!」
「そこはもうちょっと自信持ってくれよ!?」
リュネリアが困ったように笑う。
「全力で撃って、壁を壊さないのは難しいです」
「知ってるよ! だから壊していい場所作ってんだよ!」
狙った場所にはちゃんと当てられる。
そこは本当に完璧なんだ。
威力がおかしいだけで。
実際に撃たせたら迎撃区画が完成前に消えかねないので、位置だけ確認して次へ移る。
ネイラ用の通路は、さっきよりかなり狭くなっていた。
「一回動いてみてくれ」
「分かった」
ネイラが奥へ入っていく。
一つ目の角を曲がり、二つ目の角へ入る。
そこで姿が消えた。
俺も後を追って角を覗く。
誰もいない。
「……ネイラ?」
「いる」
真横から声がした。
「うわっ!? そこにいたの!?」
壁際の影からネイラが顔を出す。
「ここなら見えにくい」
「見えにくいどころか全然分からなかったぞ!」
ネイラはそのまま通路を往復し、壁との距離や曲がり角を確かめていく。
「もう少し狭くても動ける」
「まだいけるのか?」
「うん」
なら、敵にとっては狭い方がいい。
武器も振りにくくなるし、複数人で横に並ぶこともできない。
ネイラが問題なく動けるぎりぎりまで幅を削り、角度も少し調整する。
またDPが減った。
さっきから数字が順調に小さくなっている。
戦う前から金が飛んでいく。
つらい。
でも、ここでケチって突破されたらもっとつらい。
「じゃあ、実際に試してみるぞ!」
「誰が入る?」
「俺が敵役やるから、二人はさっき決めた場所で待っててくれ!」
ネイラが俺を見る。
「すぐ捕まえていい?」
「試す意味なくなるから、ちゃんと俺が入ってからにしてくれよ!?」
「分かった」
危ない。
始める前に終わるところだった。
リュネリアは広い区画へ、ネイラは細い通路の奥へ移動する。
俺は一度入口まで戻った。
罠の位置も、二人がいる場所も知っている。
それでも使えるなら、何も知らずに入ってくる敵にはもっと効くはずだ。
最初はわざと拘束罠を踏む。
直後、床から飛び出した拘束具が足へ絡みついた。
「うおっ!?」
思ったより勢いが強い。
身体が傾いた、その瞬間。
首筋に冷たい感触が触れた。
「…………」
横を見る。
ネイラがいる。
「早くない!?」
「遅い」
「俺が!?」
「うん」
「知ってるよ!!」
でも、これは使える。
罠にかかってからネイラの接近に気づいたところで、もう遅い。
拘束を解除して、もう一度入口へ戻る。
「次は罠を避けて進むぞ! そのまま逃げた先で止めてくれ!」
「分かった」
二回目。
今度は拘束罠を跨ぎ、そのまま奥へ進む。
曲がり角を抜けた瞬間、正面にリュネリアが立っていた。
片手がこちらへ向いている。
「…………」
「マスター?」
「撃つなよ!?」
「撃ちませんよ!?」
「分かってるけど怖いんだよ!!」
実戦なら、ここで撃たれる。
なら逃げるしかない。
俺は横の細い通路へ飛び込んだ。
一つ目の角を抜け、そのまま二つ目へ入ろうとした瞬間、横から腕を取られる。
「捕まえた」
「うわぁっ!?」
勢いごと壁へ押さえ込まれた。
「どこにいたんだよ!?」
「さっきと同じところ」
「分かってても見えなかったぞ!?」
ネイラが俺から手を離す。
「これなら使える?」
「ああ。かなり嫌な通路になった!」
正面に残ればリュネリア。
逃げればネイラ。
罠に引っかかれば、その時点で捕まる。
さらに隊列まで崩せれば、後ろの連中がすぐ助けに来ることもできない。
敵側からすれば、相当面倒なはずだ。
「……俺なら絶対ここ通りたくないな」
「マスターが作ったんですよ?」
リュネリアが笑う。
「だから成功なんだよ! 作った本人が嫌なら十分だろ!」
実際に動いてみると、管理画面だけでは分からなかった問題もいくつか見つかった。
ネイラが隠れにくい角度を直し、リュネリアから奥が見えにくい場所を少し広げる。罠も一つ移動して、敵が自然に細い通路側へ逃げたくなるよう位置を調整した。
最初に作った形からはだいぶ変わったけど、実際に使う二人の意見を聞きながら作った方が早い。
「マスター」
広い区画を見ていたリュネリアが手を上げる。
「ここ、もう少し広げてもいいですか?」
「何か問題あった?」
「全力で撃つなら、壁の破片がこちらまで飛んでくるかもしれません」
俺は言われた場所を見る。
リュネリアの立ち位置と、俺たちが退避する側。
確かに近い。
「……危なっ! それ先に気づいてよかったな!」
「なので、この辺りまで広げれば大丈夫だと思います」
「よし、広げよう。撃つ前にこっちが死んだら笑えないからな!」
最後にそこだけ修正する。
DPがまた減った。
もう数字を見るのはやめた。
一通りの調整が終わった頃、入口側から足音が聞こえてきた。
振り返ると、大きな鞄を背負ったボルドが立っている。
「そろそろ出るぞ」
「もう行くのか?」
「ああ。戻るなら今日のうちの方がいい」
レイドルが消えた以上、ボルドまで姿を消せば余計な疑いを招く。
外へ戻って普段通りに動きながら、ガルガン商会の様子を探る予定だった。
「捜索が始まったか分かれば十分だ。深追いはするなよ!」
「分かってる」
「危なくなったら情報なんか捨てて戻ってこい!」
「おう」
それ以上は言わなかった。
ボルドも自分が何をしに行くのか分かっている。
短く手を上げると、そのまま外へ続く通路へ歩いていった。
姿が見えなくなるまで見送ってから、俺は管理画面を開き直す。
外はボルドに任せる。
こっちは、まだやることがある。
「出口側にも一つ仕掛けておこう」
ネイラが画面を見る。
「逃げるところ?」
「ああ。ここまで抜けた奴に、そのまま外まで走られたら困るからな」
完全に塞げば警戒される。
だから逃げ道があるように見せて、その先で止める。
拘束罠を一つ追加して、細い通路から出た先へ配置する。
「ネイラ、逃げた奴がいたらここで止めてくれ! 捕まえられそうなら殺すなよ!」
「分かった」
「リュネリアも、こっちへ逃げた奴には撃つなよ! 捕まえる場所ごと消えたら意味ないからな!」
「はい!」
これで大体の形はできた。
敵が何人で来るかは分からない。
どんな装備を持っているのかも、どれくらい強いのかも分からない。
だったら、人数も装備もまともに使わせなければいい。
まとまって来たら分ける。
正面に残ればリュネリアが撃つ。
逃げた相手はネイラが止める。
その中から一人でも生かして捕まえられれば、次に必要な情報も手に入る。
俺は完成した迎撃区画を管理画面で眺めた。
「……よし。あと何回か試して、問題なければこれでいこう!」
二人が頷く。
あとは敵が来るまでに、できるだけ慣れておけばいい。
――その頃。
俺たちから離れた場所では、すでに別の動きが始まっていた。
ガルガン商会の跡取り、レイドル・ガルガンが戻らない。
連れていた護衛四人も、一人として帰ってこない。
最初は単なる遅れだと思われていた。
だが、夜になっても戻らず、翌朝になっても連絡すらないとなれば、さすがに話は変わる。
商会の人間たちは、レイドルが最後にどこへ向かったのかを調べ始めた。
誰と会っていたのか。
何を追っていたのか。
そして最後に確認された足取りは、ある一人の行商人へ繋がっていく。
――ボルド。
俺たちがたった今、外へ送り出したばかりの男の名前が。
ガルガン商会側でも、浮かび上がり始めていた。




