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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第四章 二人目を召喚したんですが、群れの外では問題児でした

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第22話 群れの外にはルールが必要らしいです


「私は人の物を勝手に取ったら駄目だと思います!」


リュネリアが、珍しくものすごくまともなことを言った。


ネイラは手に残った干し肉を見て、それからリュネリアを見る。


「どうして?」


「どうしてって……人の物だからです!」


「でも、リュネリアのじゃない」


「私のじゃなくてもです!」


「じゃあ関係ない」


「関係あります!」


何だろう。


今日のリュネリア、すごく頼もしく見える。


普段なら壁を消したとか、火力を出しすぎたとかで俺が止める側なのに、今だけは完全に社会常識を教える側に回っている。


……いや、比較対象がネイラだからか。


「ネイラ」


俺が呼ぶと、琥珀色の瞳がこっちへ向いた。


「ちょっと確認するぞ」


「何?」


「俺とかリュネリアの物は勝手に取る?」


「取らない」


「何で?」


「群れの物だから」


即答だった。


「じゃあ、何でボルドの干し肉は取ったんだ?」


ネイラは少しだけ考える。


「お腹が減ったから」


「理由が素直すぎるだろ」


しかも悪びれる様子が一切ない。


「腹が減ってたら、人の物でも取っていいの?」


「群れじゃないし、弱そうだったから」


「そこもセットなの!?」


ボルドの眉がぴくっと動いた。


「おい嬢ちゃん。さっきから聞いてりゃ、随分な言われようだな」


「弱くないの?」


「少なくとも、お前に干し肉盗られて黙ってるほど弱くはねえぞ」


ネイラがボルドを見る。


頭から足元まで一度眺める。


「でも、私より弱い」


「お前なあ!」


「まあまあボルド」


「何で盗られた俺が宥められてんだ!」


それはそう。


でもネイラに悪意がないのも分かってきた。


こいつはボルドを馬鹿にしたいわけでも、困らせたいわけでもない。ただ腹が減っていて、目の前に食べ物があって、その持ち主が自分より弱そうだった。


だから取った。


たぶん本当に、それだけだ。


「つまりお前の中では、群れじゃない相手の物なら、腹が減ってて相手が弱そうなら取っていいんだな?」


「うん」


迷いがない。


嫌になるくらい迷いがない。


「相手が強かったら?」


「取らないと思う」


「何で?」


「取り返しに来るかもしれないから」


完全に野生だ。


善悪じゃない。


できるか、できないか。


群れの中か、外か。


こいつの中では、それで話が完結している。


「ネイラ」


「何?」


「これから一個、ルール追加な」


黒い耳が俺へ向く。


「群れの外でも、人の物は勝手に取るな」


ネイラが少し考えた。


「お腹が減ってても?」


「減ってても」


「相手が弱くても?」


「弱くても!」


「絶対に勝てる相手でも?」


「強さは関係ない!」


「分かった」


早い。


本当にそこだけは話が早い。


「あと、欲しい物があったら先に俺に聞け。俺がいいって言ったらいい」


「マスターが決める?」


「そう」


「なら分かった」


ネイラは素直に頷いた。


納得したというより、俺が群れの長だから従っただけなのは顔を見れば分かる。


でも、それでいい。


今ここでネイラに人間社会の倫理を一から教え込もうとしたって、たぶん話がややこしくなるだけだ。


守るルールさえ決めておけば、とりあえずは事故を防げる。


「ネイラさん、ちゃんと分かったんですね!」


リュネリアが嬉しそうに笑う。


ネイラが彼女を見る。


「マスターが駄目って言ったから」


「そうじゃなくて、取ったら相手が困るからですよ!」


「でもボルドは干し肉一枚なくても困らないと思う」


「そういう問題じゃないです!」


「じゃあどういう問題?」


「えっと……」


止まった。


リュネリア、頑張れ。


今だけはお前がこっち側なんだ。


「その人の物だからです!」


「それは聞いた」


「だから勝手に取ったら駄目なんです!」


「同じこと言ってる」


「うっ……」


ネイラ強いな。


論破しているわけではない。


単純に前提が違いすぎて、リュネリアの説明が一切刺さってない。


俺は横から口を挟む。


「もういい。ネイラは俺に聞く。それで十分」


「分かった」


「リュネリアも無理して教えなくていい」


「でも私、ちゃんと説明できます!」


「今できてなかっただろ」


「あと少しでした!」


「何が?」


「何かが!」


それはもう駄目だろ。


ボルドが腹を抱えて笑っている。


「いやあ、大隅。面白え仲間が増えたな」


「俺は面白さ求めて召喚したわけじゃないんだけど」


「だが、強そうではある」


「それは間違いない」


「索敵もできるんだったか?」


「かなりできる。匂いと音で、こっちが気づけないところまで分かる」


ボルドが感心したようにネイラを見る。


「そりゃ商売でも役に立ちそうだな。危ない道を先に見つけられるだけでもでかい」


「でしょ」


思わず胸を張りたくなる。


俺がやったのは選んだだけだけど。


「それで、ボルド」


「ん?」


「今日は土産持ってきただけ?」


「ああ、そうだった」


完全に忘れていたらしい。


ボルドが袋の口を閉じながら、少しだけ表情を変えた。


さっきまでの笑いが消える。


「一つ、話しておこうと思ってな」


その声で、俺も自然と姿勢を正した。


「何?」


「最近、この辺りで見慣れない奴らの痕跡が増えてる」


「奴ら?」


「人間か、それに近い何かだ。少なくとも魔物の動きじゃない」


俺は眉を寄せる。


「候補者?」


「そこまでは分からん」


ボルドは首を横に振った。


「俺も直接見たわけじゃねえ。ただ、少し離れた通路で焚き火の跡があったり、道具を使った痕が残ってたりする。今まであまり人が通らなかった辺りにな」


模擬戦が終わったばかりだ。


そこで他の候補者の話を聞かされると、嫌でも意識する。


麻耶奈みたいな奴が、他にもいる。


当たり前のことではある。


俺たちだけがこの地下にいるわけじゃない。


「近い?」


「何とも言えん。ただ、少なくとも無関係ってほど遠くはない」


嫌な距離だな。


「こっちに向かってる可能性は?」


「それも分からん」


「分からないばっかだな」


「だから教えに来たんだよ。分かってからじゃ遅いかもしれんだろ」


それはそうだ。


俺は腕を組む。


もし本当に別の候補者が近くにいるなら、放っておくのも怖い。


向こうが敵対的かどうかも分からないし、こっちの位置を知られているかもしれない。


問題は情報が少なすぎることだ。


……今までなら。


「ネイラ」


「何?」


「こういうの、追える?」


ネイラがボルドを見る。


「匂いが残ってれば」


「足跡でも?」


「分かると思う。新しければもっと分かりやすい」


やっぱり強い。


ここで早速出番が来るとは思わなかった。


「じゃあ今度、その痕跡がある場所まで連れてってもらえる?」


俺がボルドに聞くと、彼は少し考えてから頷いた。


「いいぞ。ただし危険かもしれんから、俺は途中までな」


「十分」


「マスター」


ネイラが呼ぶ。


「何?」


「その前に」


「ん?」


ネイラはボルドへ少し近づくと、鼻先をわずかに動かした。


耳も動く。


さっきまでとは違う。


何かを探している時の顔だ。


ボルドが眉を上げる。


「何だ嬢ちゃん。今度は俺の匂いでも気になるのか?」


「違う」


「じゃあ何だ?」


ネイラは答えず、もう一度だけ空気を嗅いだ。


それからボルドの服、背負っていた袋、靴へと順番に視線を落としていく。


「ネイラ?」


俺が呼ぶと、黒い耳がぴくっと動いた。


「ボルド」


「何だ?」


「今日、知らない人の近く通った?」


ボルドの顔が止まった。


「……何でだ?」


「匂いがついてる」


俺も思わずボルドを見る。


「一人?」


ネイラは少し考える。


「違う」


「じゃあ何人?」


「たぶん、何人か」


さっきまで笑っていたボルドの表情が、完全に消えた。


「嬢ちゃん。それ、本当に分かるのか?」


「うん」


「どれくらい前の匂いだ?」


「まだ新しい」


ネイラは迷わず答える。


それから通路の奥へ顔を向けた。


「たぶん、そんなに遠くない」


さっきまで聞こえていたボルドの笑い声が嘘みたいに、通路が静かになった。


俺はその暗がりを見つめる。


召喚してまだ半日も経っていない。


なのにネイラはもう、俺たちが今まで拾えなかったものを見つけ始めている。


それがありがたいのか。


それとも、知らない方が幸せだったのか。


今の俺には、まだ分からなかった。

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