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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第3章 他のダンジョンと繋がったんですが、相手が強すぎます

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第17話 強い奴を倒したんですが、勝利報酬の方が気になります


第三層へ入った瞬間、俺は足を止めた。


第二層より狭い。ただ、ここは明らかに麻耶奈のために用意された場所だった。壁一面には鉱石が埋め込まれ、床には金属板が敷かれ、加工途中らしい素材まで大量に積まれている。


そして最奥には、大きく光る《模擬核》。


その手前に、麻耶奈が一人で立っていた。


息は荒く、長い黒髪も乱れている。黒銀の軽装鎧にはいくつも亀裂が走っていたが、それでも金色の目だけは真っ直ぐこちらを睨んでいた。


「……来たわね」


「ようやくな」


「セシルを倒したくらいで、勝った気にならないで」


「まだ勝ったつもりはない」


本当に、そのつもりはない。


むしろ、この部屋を見たせいで警戒はさっきより強くなっていた。


壁の鉱石も、床の金属も、積まれた素材も、全部こいつの武器になり得る。


麻耶奈が片手を上げる。


すると周囲の素材が一斉に組み替わり始め、剣、槍、盾、鎖、短剣と、用途の違う武器へ次々と形を変えていく。その中央で、麻耶奈自身の両手には黒銀の双剣が収まった。


普通に格好いい。


何で俺の固有能力は、こういう方向じゃなかったんだろう。


俺の右手にはトング。


……考えるのやめよう。


「ここが最後よ」


麻耶奈が双剣を構える。


俺は彼女ではなく、その後ろにある《模擬核》を見た。


模擬戦の勝利条件は、相手を倒すことじゃない。


あれを壊すことだ。


ただ、そのためには目の前にいるこいつをどうにかしないといけない。


「リュネリア、前に出すぎるな」


「でも、麻耶奈さんを倒さないと」


「いや、狙うのはあっちだ」


《模擬核》を指すと、リュネリアもようやく奥を見る。


「あ」


忘れてたな、こいつ。


「麻耶奈と正面から勝負する必要はない。あれを壊せる位置まで進めれば俺たちの勝ちだ」


「なるほど!」


麻耶奈の眉が僅かに動いた。


「本人の前で随分堂々と作戦を話すのね」


「別に隠すようなことでもないだろ」


「それもそうね」


「それに俺があんたと正面から戦うわけないじゃん」


「そこは少しくらい格好つけなさいよ」


「死ぬよりマシ」


ほんの少しだけ、麻耶奈の口元が緩んだ。


「嫌いじゃないわ、その考え方」


「どうも」


その言葉が終わるより先に、麻耶奈が床を蹴った。


速い。


一気に距離を詰めてくる本人に合わせて、左右から槍まで飛んでくる。リュネリアが光弾でそれを迎撃し、爆発で視界が塞がれた。


その煙の中から、麻耶奈が抜けてくる。


狙いは――俺。


「やっぱ俺!?」


「指示役から潰すのは当然でしょう!」


双剣の一撃目を身体ごと引いて避ける。


二撃目は間に合わない。


俺は反射的に右手を突き出した。


銀色の万能トングが現れ、その先端が迫っていた剣身を挟み込む。


ガチンッ!!


「それはもう見たわ!」


「知ってる!」


麻耶奈は驚きもしなかった。


剣を引き抜こうともせず、挟まれたまま俺ごと押し込んでくる。


腕が負ける。


足も負ける。


だったら力比べなんてしない。


トングを収納する。


剣を押し返していた抵抗が一瞬で消え、麻耶奈の身体が前へ流れた。


――はずだった。


もう片方の双剣が、最初からそれを待っていたみたいに横から振られる。


まずい。


「マスター!」


間へ光弾が飛び込んだ。


麻耶奈は即座に攻撃を捨てて後ろへ跳び、俺との間で床が爆ぜる。


「助かった!」


「はい!」


返事を聞く頃には、麻耶奈はもう次の武器を手にしていた。


双剣を構成していた金属が解け、一本の鎖へと組み替わる。その先端が低い軌道で走り、リュネリアの足へ巻きついた。


「わっ!」


強く引かれ、リュネリアの身体が崩れる。


俺もトングを呼び出して鎖を挟み、反射的に踏ん張った。


「うおおおお!?」


普通に俺まで引っ張られた。


「マスター!?」


「俺の筋力忘れてた!」


万能トングは絶対に離さない。


だから何だ。


俺の身体まで固定してくれるわけじゃない。


だったら鎖そのものを引っ張る必要はない。


俺は引きずられながらトングを滑らせ、麻耶奈が握っている鎖の柄へ先端を伸ばした。


ガチンッ!


「また――!」


挟んだ瞬間、収納する。


さっきまで引き合っていた抵抗が急に消え、麻耶奈の腕が僅かに流れた。


「今!」


その一瞬でリュネリアが鎖を振りほどき、そのまま光弾を撃ち返す。


麻耶奈はすぐに金属を盾へ変えて受け止めたが、衝撃までは殺しきれない。石床を削りながら数メートル押し戻され、《模擬核》との距離が縮まった。


「リュネリア」


「はい!」


「焦らなくていい」


ここでようやく、進み方が見えた。


麻耶奈は強い。


たぶん俺一人なら十秒も持たないし、トングの使い方だって一度見せればすぐ対応してくる。


でも、今の麻耶奈は一人だ。


こっちは二人。


そしてリュネリアには、まだ十分すぎるほどの火力が残っている。


だったら無理に一気に抜く必要はない。


一歩ずつでいい。


俺が進める場所を見つける。


リュネリアがそこまでの邪魔を壊す。


俺は一歩だけ前へ出た。


麻耶奈が槍を作り、投げる。


リュネリアの光弾が空中で撃ち落とす。


さらに一歩踏み出そうとしたところで、床の継ぎ目が僅かに動いた。


「止まれ。そこ撃って」


「はい!」


ドンッ!!


光弾が着弾し、せり上がりかけていた刃ごと石床が抉れる。


「……雑だな」


「安全になりました!」


「否定できない」


罠を解除するんじゃない。


罠がある場所ごとなくす。


第一層でトングを片手にちまちま解除していた俺は何だったんだと思わなくもないが、あれはあれで必要だった。


今は状況が違う。


麻耶奈が盾を作れば、リュネリアが壊す。


押し戻された分だけ俺たちは前へ進み、別の場所から罠が動けば、発動する前にその一帯を吹き飛ばす。


「右壁!」


「はい!」


轟音。


壁から飛び出そうとしていた槍の機構が、石材ごと消し飛んだ。


「左は撃つな! 足場残せ!」


「はい!」


今度は中央へ光が走る。


麻耶奈は新しく作った盾を斜めに構え、真正面から受けずに光を逸らした。


上手い。


そして、その一瞬で俺へ向けて鋭い金属片を投げてくる。


「危なっ!?」


首を引く。


金属片が耳のすぐ横を抜けた。


「ちっ」


「今舌打ちした!?」


「気のせいよ」


「絶対しただろ!」


返事の代わりに槍が飛んでくる。


「話し合いを放棄するな!」


「戦闘中よ!」


正論!


リュネリアが槍を弾く。


その間に俺は次の床を見る。


右は罠。


左は使える。


正面には麻耶奈。


「左から行く!」


「はい!」


二人で動く。


麻耶奈もすぐに合わせて位置を変え、左側を塞ぐように長槍を作った。


俺が進路を変える。


麻耶奈も変える。


そこへリュネリアが撃つ。


麻耶奈が守る。


守った分だけ、また俺たちが進む。


第二層みたいに何でも吹き飛ばせばいいわけじゃない。


奥には《模擬核》がある。


あれを壊せば勝ちだが、天井まで崩して近づけなくなったら意味がない。


だから、撃つ場所だけは俺が決める。


「天井近くは駄目! 麻耶奈の左!」


「はい!」


光が走り、麻耶奈が盾を差し込む。


爆発。


砕けた金属が散る。


「次、右床!」


今度は罠ごと石床が抉れ、その向こうに安全に踏めそうな場所ができた。


そこへ進む。


俺が次に立てる場所を探し、リュネリアが道を作る。


麻耶奈はそれを読んで塞ぎ、俺たちはまた別の道を作る。


それを何度か繰り返すうちに、最初は遠くに見えていた《模擬核》が、いつの間にかかなり近くまで迫っていた。


それでも麻耶奈は止まらない。


壊された武器をその場で別の武器へ作り直し、盾が砕ければ破片まで再利用する。リュネリアへ近づけないと判断すれば俺を狙い、俺へ届かないなら射線を塞ぎ、進路を変えさせて罠へ誘導する。


一度見せた手は、ほとんど二回目が通じない。


強い。


普通に、めちゃくちゃ強い。


さっきまではセシルもいた。


魔物もいた。


罠も大量に残っていた。


今は全部なくなり、一人になっているのに、それでも俺たち二人をここまで足止めしている。


「……本当に、あなた自身は弱いのね」


盾越しに、麻耶奈が俺を見る。


何で今それ言う?


「知ってるよ!」


「なのに、どうしてこんなに面倒なのよ!」


「俺に聞くな!」


こっちだって必死なんだよ!


でも。


ちょっとだけ嬉しい。


俺が強いわけじゃない。


そこは事実だ。


剣も使えないし、魔法も使えない。麻耶奈に近づかれたら逃げるしかないし、リュネリアがいなければとっくに負けている。


それでも。


面倒だと言わせた。


俺はリュネリアの後ろで守られているだけじゃない。


ちゃんと、この戦いの中にいる。


その麻耶奈を少しずつ押し込んでいる隣の少女へ視線を向ける。


銀髪が魔力に揺れ、赤紫の瞳は真っ直ぐ前を見ている。周囲には無数の光が浮かんでいるのに、これだけ撃った後でも呼吸は大きく乱れていない。


《星浴》。


《星泪泉》で魔力を取り戻したリュネリアは、召喚した直後とはもう違う。


魔力切れを恐れて、小さく戦う必要がない。


俺が撃っていい場所を作れば。


こいつは遠慮しなくていい。


……やっぱ怖いな。


味方で本当に良かった。


「マスター?」


「何でもない」


絶対敵に回したくないと思っただけ。


《模擬核》まで、もう十メートルもない。


麻耶奈もそれを分かっているらしく、そこで初めて攻撃の手を止めた。


代わりに、部屋中に残っていた素材が一斉に動き始める。


床の金属。


壁際の鉱石。


砕けた武器の破片。


さらには、自分が身につけている鎧の一部まで。


黒銀の素材が《模擬核》の前へ集まり、巨大な防壁へと組み替わっていく。一枚目を作った後ろに二枚目を重ね、その隙間をさらに別の金属で埋める。


もう人一人を守る盾じゃない。


壁だ。


その最前面へ麻耶奈自身が立つ。


「……これなら」


肩で息をしながら、それでも彼女は笑った。


「さっきの攻撃でも、防げる」


俺は完成した防壁を眺める。


厚い。


かなり厚い。


麻耶奈の能力が素材の質と量で強くなるなら、ここまで残していた分をほとんど注ぎ込んだんだろう。


確かに、さっきまでリュネリアが撃っていた攻撃なら止められるかもしれない。


さっきまでなら。


「リュネリア」


「はい!」


「まだいけるよな!?」


「もちろんです!」


即答だった。


頼もしい。


怖いけど。


「どれくらい?」


リュネリアは少し考えてから、両手を大きく広げた。


「いっぱい!」


分からん。


でも十分。


俺は後ろへ下がりながら、改めて射線を確認する。


俺は入らない。


左右の壁も距離がある。


天井も、おそらく大丈夫。


そして正面には、麻耶奈、防壁、その奥の《模擬核》。


全部一直線。


最高じゃん。


「……何?」


俺の動きに気づいた麻耶奈が眉を寄せる。


答える必要はない。


俺は十分に距離を取り、リュネリアへ視線を向けた。


「最後だ」


「はい!」


光が集まり始める。


その瞬間、麻耶奈の表情が変わった。


「……待って」


遅い。


さっきまでとは、集まっている光の量が明らかに違う。


俺も見て、ちょっと引いた。


「お前、まだ上あったの?」


「ありますよ?」


先に言って。


いや、知ってたけど。


知ってたはずだけど!


麻耶奈もすぐに防壁へ素材を追加し始めた。


「嘘でしょう……」


気持ちは分かる。


俺も昨日、同じようなこと思った。


リュネリアの周囲から溢れた光が、第三層全体を白く照らしていく。


それを見ても麻耶奈は逃げなかった。


《模擬核》の前から動かず、残った素材を防壁へ送り込みながら、最後までこちらを見ている。


格好いいな。


本当に。


俺には無理だ。


俺なら逃げる。


でも、勝つのはこっちだ。


「やっちまえ」


「はい!!」


リュネリアが撃った。


視界が一瞬で白く染まり、次の瞬間には轟音が第三層全体を揺らす。


光が黒銀の防壁へ正面から叩きつけられた。


最初の一瞬。


止まった。


「おお……!」


耐えた。


マジか。


麻耶奈すげぇ。


そう思った直後、防壁の中央へ一本の亀裂が走った。


それが一気に広がる。


麻耶奈は即座に反応し、新しい金属を流し込んで亀裂を塞いでいく。だが、補修する速度よりも光が削る方が速い。


一枚目が砕ける。


二枚目が歪む。


三枚目まで押し込まれる。


「まだ……!」


麻耶奈が腕を伸ばした。


床に残っていた最後の金属が浮かび上がり、盾へ、防壁へと形を変える。ついには自分の鎧まで剥がし、それすら防壁へ重ねた。


持っているもの全部。


文字通り、全部使って止めようとしている。


それでも、光は止まらない。


「……マジか」


今度は麻耶奈じゃない。


リュネリアを見ていた。


本当に何なんだ、こいつ。


俺が「やれ」って言った。


盛大に撃てとも言った。


それでも横から見ていると、やっぱりおかしい。


最後の防壁に亀裂が走り、中央から大きく砕けた。


その向こうに、麻耶奈の姿が見える。


ほんの一瞬。


金色の目は悔しそうに細められていた。


それでも最後まで逸らさず、こっちを見ていた。


そして、光へ呑まれる。


《敵対ダンジョンマスターの戦闘不能を確認》


その表示が出ても、まだ終わらない。


勝利条件は麻耶奈じゃない。


光は砕けた防壁を抜け、そのまま最奥の《模擬核》へ直撃した。


甲高い音が響く。


大きな結晶の中央に亀裂が入り、そこから枝分かれするように一つ、二つと全体へ広がっていく。


そして。


砕けた。


《敵対ダンジョンの《模擬核》破壊を確認》


《勝敗判定中》


光が消えると、それまでの轟音が嘘みたいに静かになった。


耳鳴りだけが残る中、俺はゆっくり顔を上げて第三層を確認する。


壁は結構なくなってる。


床もかなり抉れてる。


でも。


天井は残ってる。


よし。


最低条件クリア。


最奥にあった《模擬核》は粉々になり、麻耶奈の姿も消えている。


隣を見ると、リュネリアが期待に満ちた顔でこっちを見ていた。


「マスター!」


「何」


「ちゃんと天井残しました!」


「そこ褒められ待ちするところ?」


「頑張りました!」


「……まあ、偉い」


「はい!」


ものすごく嬉しそうだ。


俺はもう一度、壊れた第三層を見る。


第一層では、トングを使って罠を一つずつ解除した。


第二層では、それをやっている暇がないと判断して、リュネリアの火力でまとめて突破した。


第三層では麻耶奈が最後まで抵抗し、その防御を崩しながら、罠と射線を見て少しずつ進んだ。


俺一人なら絶対に無理だった。


そんなことは分かっている。


俺は弱い。


でも、リュネリア一人だったら第一層の魔力障壁で止まっていたかもしれないし、どこかの罠に引っかかっていた可能性もある。第二層で何も考えずに撃てば俺まで巻き込まれただろうし、第三層で全部まとめて吹き飛ばせば天井まで落ちていたかもしれない。


俺が見て、進む場所を決める。


リュネリアが道を作る。


それなら。


少なくとも、後ろで守られていただけじゃない。


ちゃんと俺にも役割があった。


ヒモ男からシーフにジョブチェンジしたと思っていたけど。


もしかしたら、もう一個くらい別の何かに変わり始めてるのかもしれない。


……何かは分からんけど。


「マスター?」


「いや」


俺はリュネリアを見る。


「お前、すげぇなと思って」


「え?」


目を丸くする。


「いや、本当に」


昨日までは、火力高すぎ、危ない、部屋壊すな、そんなことばかり考えていた。


もちろん今も思ってる。


絶対に自分の家では好き勝手撃たせたくない。


でも、撃っていい場所ならここまでできる。


「助かったよ」


リュネリアは一瞬だけ黙った。


それから、ものすごく嬉しそうに笑う。


「はい!」


その時、視界いっぱいに文字が浮かんだ。


《ダンジョン接続模擬戦終了》


《勝者――ダンジョンマスター・大隅詩》


「よっしゃ!」


思わず拳を握る。


勝った。


普通に嬉しい。


めちゃくちゃ嬉しい。


肩は痛いし、何回も死にかけた。対戦相手の固有能力は俺の百倍くらい格好良かったし、俺の武器は最後までトングだった。


でも、勝ちは勝ちだ。


そして。


俺が本当に気になっているのは、ここからだった。


《勝利報酬を算出しています》


来た。


通常の勝利報酬。


そして、もう一つ。


頼む。


来い。


来てくれ。


視界の表示が切り替わった。


《固有能力《勝者特権》》


《発動条件を確認》


「っしゃあ!!」


「マスター!?」


拳を突き上げる。


来た。


ダブルだ。


模擬戦そのものの勝利報酬。


さらに《勝者特権》。


二重取り。


最高。


《勝者特権》


《勝利に対する追加報酬を三種生成します》


《報酬候補を選定中――》


並び始める文字を見た瞬間、さっきまでの疲れがかなりどうでもよくなった。


やっぱり。


勝利報酬って最高だ。

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