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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第二章 地下世界を生き残りたいんですが、勝つほど変なものが増えていきます

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第9話 可愛いウサギだったんですが、額から凶器が生えました

「俺の癒し返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


俺の叫びが森に響いた。


その声に驚いたのか、二匹の穿角兎が同時に地面を蹴る。


速い。


「うおっ!?」


さっきまでの愛らしい姿はどこへ行った。


額から黒い角を突き出した二匹が、ほとんど矢みたいな速度でこっちへ飛んでくる。


「マスター!」


リュネリアが俺の前へ出た。


「任せてください!」


「待て! 食えそうだから消し飛ばすな!」


「はい!?」


リュネリアの手の中に集まりかけていた光が、ぴたりと止まった。


穿角兎は止まらない。


「マスター、来ています!」


「分かってる!」


「撃ってもよろしいですか!?」


「原形残るくらいで!」


「難しい注文です!」


「さっき植物で練習しただろ!」


「動いています!」


「敵は普通動くんだよ!」


一匹が飛ぶ。


リュネリアは横へ身体をずらし、その突進を避けた。


穿角兎はそのまま背後の木へ――。


――ドゴッ!


「…………」


黒い角が、幹へ深々と突き刺さった。


木が揺れる。


葉がばさばさと落ちてきた。


俺とリュネリアは揃ってそれを見る。


「……あれ俺に刺さったら?」


「大変なことになります!」


「知ってる!」


何でこいつら危険度低なんだよ。


この世界の低って何基準?


もう一匹が方向転換する。


俺は慌てて果実を地面へ置いた。


両手が塞がったまま戦闘とか無理だ。


「リュネリア、あっち!」


「はい!」


二匹目が跳ぶ。


リュネリアの指先に小さな光が浮かび――。


「…………」


消えた。


「何で消した!?」


「どこを撃てば食べられる状態で倒せるのか分かりません!」


「そこ!?」


「頭は角がありますし、お腹はお肉ですよね!?」


「知らないよ!」


「ではどこを!?」


「俺に聞くな! 狩猟経験ゼロだよ!」


大学生にウサギの急所を聞かないでほしい。


いや、二十一歳だから大学生とは限らないけど、とにかく現代日本で普通に生きてきた人間に要求する知識じゃない。


二匹目が迫る。


「もう足! 足狙え!」


「分かりました!」


細い光が走った。


穿角兎のすぐ前の地面が弾ける。


「外した!?」


「マスターが急かすからです!」


「俺のせい!?」


穿角兎が軌道を変え、そのまま俺へ向かってくる。


「ちょっ――」


避ける。


必死に横へ転がる。


黒い角が服の裾を掠めた。


ぞわっと背筋が冷えた。


洒落にならない。


こいつら見た目は可愛いけど、普通に俺を殺せる。


「マスター!」


「大丈夫!」


立ち上がろうとする。


その時。


目の前を白い光が通過した。


――パシュッ!


穿角兎の後ろ脚を掠める。


「キュッ!」


小さな鳴き声。


穿角兎が地面を転がった。


「当たりました!」


「よし!」


倒れてはいない。


でも片方の後ろ脚を傷めたらしく、明らかに動きが鈍っている。


「そのまま――」


言いかけて。


俺は止まった。


もう一匹。


さっき木に角を突き刺した奴は。


「……あれ?」


まだ抜けていなかった。


必死に後ろへ下がろうとしているが、角が幹へ深く刺さりすぎたらしい。


じたばた。


じたばた。


長い耳が揺れている。


「…………」


リュネリアも見る。


俺も見る。


「マスター」


「言うな」


「少し可愛いです」


「言うなって」


敵だぞ。


俺たちを殺そうとしてきたんだぞ。


でも。


じたばた。


じたばた。


「…………」


「…………」


「助けてあげたいですね」


「駄目だよ!」


何言ってんのこの子!?


「でも、抜けないようです」


「抜いた瞬間また俺たちに突っ込んでくるから!」


「そうでしょうか?」


「絶対来る!」


「ですが……」


「そんな顔するな!」


何で俺が悪い奴みたいになってんだ。


「いいか。あれは敵」


「はい」


「俺たちを刺そうとした」


「はい」


「しかも食料になるかもしれない」


「はい……」


最後だけ明らかに返事が弱くなった。


「何でそこだけ嫌そうなんだよ!」


「先ほどまで撫でようとしていましたので……」


「俺だって複雑だよ!」


数十秒前まで果物あげようとしてた相手だぞ。


まさかそこから夕飯候補になるとは思わないだろ。


異世界、情緒どうなってんだ。


そんなことをしている間に、脚を傷めた方の穿角兎が立ち上がった。


「来るぞ!」


「はい!」


リュネリアが構える。


今度は迷わない。


小さな光が指先に集まり、飛び出そうとした穿角兎の前脚を正確に撃ち抜いた。


「キュッ!」


転ぶ。


「うまい!」


「はい!」


「じゃあ次――」


俺は言葉を止めた。


倒れた穿角兎。


木に刺さった穿角兎。


二匹とも、まだ生きている。


これ。


倒す必要ある?


「……リュネリア」


「はい?」


「殺さなくてもいいかも」


「え?」


俺は倒れている方へ慎重に近づく。


敵性個体。


だから敵なのは間違いない。


でも、今は動けない。


だったら。


「持って帰れないかな」


「生きたままですか?」


「うん」


食料としてなら、今殺して持ち帰る方が簡単だ。


でも、それだけじゃない。


こいつらが何を食べるのか。


飼えるのか。


増えるのか。


角が素材になるのか。


そもそもダンジョンの中で生き物を飼育できるのか。


分からないことが多い。


だったら、試してみる価値はある。


「捕まえて飼えたら、毎回森まで狩りに来なくて済むかもしれない」


「なるほど!」


「まあ、俺に飼育経験ないけど」


「私にもありません!」


「そこは知ってた」


「なぜですか!?」


何となくだよ。


リュネリアが動物の世話に詳しかったら逆に驚く。


「問題はどうやって持って帰るかだな」


俺は穿角兎を見る。


額には立派な黒角。


あれを抱えて帰るのは怖すぎる。


「角、切る?」


「私が切りましょうか?」


「……できる?」


「はい!」


リュネリアが嬉しそうに指を立てる。


「先ほど蔓を切ったのと同じ要領で!」


「おお」


成長が早速役立つ。


「じゃあ角だけ――」


俺が言いかけた、その時。


木に刺さっていた方の穿角兎から。


――バキッ。


嫌な音がした。


「ん?」


角が抜けた。


「…………」


穿角兎がこちらを見る。


俺も見る。


リュネリアも見る。


「逃げ――」


地面を蹴った。


「うわっ!」


俺ではない。


穿角兎は反対方向へ跳び、そのまま森の奥へ逃げていく。


「あ!」


「逃げました!」


「追う!?」


「追いますか!?」


数秒迷った。


でも、知らない森の奥だ。


深追いするほどの相手じゃない。


「いや、いい!」


「分かりました!」


一匹は残ってる。


まずこいつを持ち帰る。


そう思って振り返る。


脚を傷めた穿角兎が。


いない。


「…………」


「…………」


地面に血の跡。


そこから茂みの奥へ、小さな足跡が続いている。


「……逃げた?」


「逃げましたね」


「両方?」


「はい」


「…………」


捕獲。


失敗。


俺はしばらく茂みを見つめた。


「俺たち何しに来たんだっけ」


「食料を探しにです!」


「食料、全部逃げたんだけど」


「果物があります!」


「そうだった」


危ない。


成果ゼロみたいな気分になるところだった。


赤い果実。


蔓。


十分だ。


むしろ初探索としては大成功。


なのに、何だろう。


目の前で夕飯候補が二匹逃げたせいで、妙に負けた気分になる。


「……次見つけたら捕まえる」


「はい!」


「絶対」


「はい!」


「可愛くても油断しない」


「はい!」


「撫でない」


「……はい」


「今ちょっと間があったな?」


「ありません!」


あった。


絶対あった。


「帰るか」


「はい!」


これ以上欲張って、もっと危険な奴に遭遇しても困る。


初探索で食料と素材が手に入った。


それで十分だ。


俺たちは果実と蔓を抱え、来た道を戻り始めた。


森を抜け、斜面を上がり、分岐に積んでおいた小石を確認しながら洞窟を進む。


やがて見慣れた石の入口が見えてきた。


「……帰ってきた」


たった数時間も経っていないはずなのに、妙に安心する。


穴の開いた石壁。


罠の跡。


岩殻大亀の死体。


奥には星泪泉。


相変わらず狭い。


相変わらずボロい。


でも。


ここはもう、俺が最初に目覚めた時の「知らない石の部屋」じゃなかった。


「マスター!」


リュネリアが果実を抱えたまま笑う。


「たくさん持って帰れました!」


「そうだな」


水がある。


食料がある。


素材がある。


仲間がいる。


一つずつ増えている。


「これで、とりあえず今日明日は――」


そこで。


《通知》


表示が浮かんだ。


「ん?」


《一定条件を達成しました》


《候補者間通信機能が解放されました》


「……通信?」


新しい画面が開く。


《ダンジョンマスター候補者共通通信》


「…………」


嫌な予感がする。


画面の中で、文字が高速で流れ始めた。


《誰か水の確保方法分かる!?》


《初期地点の外に出た奴いる?》


《こっち巨大な虫いるんだけど!!》


《食料どうしてる?》


《ゴブリン召喚したら俺の飯食われた》


《誰か日本人いるか?》


《現在生存候補者数:47,903》


俺の目が、最後の数字で止まった。


最初に見た数字。


四万八千二百十六人。


今。


四万七千九百三人。


「…………」


三百十三人。


もう、減っている。


さっきまでの穿角兎との馬鹿みたいなやり取りが、一瞬で遠くなった。


俺は画面を見つめたまま、息を吐く。


「……始まってるんだな」


俺たちだけじゃない。


この世界のどこかで、何万人もの候補者が同じように生き延びようとしている。


そして。


もう死んだ奴もいる。


リュネリアが俺の顔を見る。


「マスター?」


「いや」


俺は流れ続ける文字へ目を戻した。


知らない名前。


知らない言葉。


助けを求める奴。


情報を交換している奴。


ふざけている奴。


怒鳴っている奴。


その全部の向こうに、人間がいる。


味方になるかもしれない。


敵になるかもしれない。


俺を殺しに来るかもしれない。


「……面倒なの増えたな」


それでも。


俺は画面を閉じなかった。

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