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『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第二章 地下世界を生き残りたいんですが、勝つほど変なものが増えていきます

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第8話 食料を探していたら、食べ物の方から襲ってきました

何本もの蔓が、一斉にこちらへ伸びてきた。


「リュネリア!」


「はい!」


「森ごとはやるなよ!」


「分かっています!」


返事はいい。


返事だけは本当にいい。


俺はその場から横へ飛び退き、さっきまで立っていた場所へ蔓が叩きつけられるのを見た。


――バシンッ!


土が弾け、細かな砂が足元まで飛んでくる。


《危険度:低》って表示されてたけど、普通に当たったら痛いだろ、これ。


というか、俺ならたぶん痛いで済まない。


「マスター、下がってください!」


リュネリアが前へ出た。


その右手に、淡い光が集まり始める。


「待て待て、どれ撃つ!?」


「本体を!」


「本体どれ!?」


「……どれでしょう?」


「分かってないじゃん!」


目の前にあるのは、赤い果実と何本もの蔓、それから奥で蠢いている茂みだけで、肝心の本体らしきものは葉の向こうに隠れている。


しかも、ここは森の入口だ。


さっきの岩殻大亀みたいに周囲が石だけならまだしも、今は左右も奥も木だらけ。リュネリアがいつもの感覚で撃ったら、敵より先に森の方が消える可能性がある。


「小さいので!」


「何を!?」


「光弾を!」


「本当に小さいやつな!」


「はい!」


リュネリアが指先を向ける。


そこに浮かんだのは、拳どころかビー玉くらいの小さな光だった。


「お、いいじゃん」


「練習しました!」


「さっきから何分経った?」


「気持ちの問題です!」


「成長が精神論だった!」


そんな会話をしている間にも、蔓は待ってくれない。


一本が横からしなるように飛んできたが、リュネリアは身体を少し傾けてそれを避け、そのまま指先を弾いた。


白い光が一直線に走る。


――パシュンッ!


蔓が途中から綺麗に千切れた。


「おお!」


細い。


速い。


しかも周りの木に当たっていない。


「できるじゃん!」


「はい!」


リュネリアも嬉しそうだ。


その瞬間、切断された蔓の断面から透明な液体が噴き出し、彼女の頬へ飛んだ。


「ひゃっ!?」


「うわ、大丈夫か!?」


「つ、冷たいです!」


「毒とかじゃないよな?」


俺はすぐに表示を見る。


《捕食蔓樹》


《危険度:低》


《特性:擬餌》


追加表示はない。


「何も増えてないな……」


「では、大丈夫です!」


「何でそうなる!」


毒かもしれないだろ。


近寄って確認したいところだが、別の蔓が今度は俺の方へ伸びてきたので、それどころじゃない。


「マスター、危ないです!」


「そっちが言う!?」


リュネリアがもう一発、小さな光弾を撃つ。


二本目の蔓が切れる。


今度も木は無事だった。


なるほど。


ちゃんとやれば精密射撃もできるらしい。


さっきまでのこいつなら、もう少し危なっかしかったはずなのに、今は俺の言ったことを意識しながら火力を抑え、狙う場所もちゃんと見ている。


もしかして、能力が高すぎて今まで細かく調整する必要がなかっただけなんじゃないだろうか。


「リュネリア、全部切れそう?」


「はい!」


「本体見つける前に全部切っていい?」


「切れば動けなくなるかと!」


「じゃあやれ!」


「はい!」


そこからは早かった。


次々に伸びてくる蔓を、リュネリアが小さな光弾で一本ずつ撃ち抜いていく。派手な爆発はなく、狙った場所だけが正確に焼き切られていった。


最初の二、三本こそ多少ずれたものの、数を重ねるごとに目に見えて精度が上がっている。


「……普通に上手くなってない?」


「マスターが壊さないようにと仰いましたので!」


「言えばできるタイプだったのかよ!」


「失礼です!」


怒られた。


でも実際、かなり真面目だ。


火力を抑える。


狙う。


周囲を見てから撃つ。


そこだけ抜き出せば、完璧な強キャラである。


壁を消し飛ばした過去を忘れれば。


残った蔓が、今度は地面を這うようにしてこちらへ回り込んできた。


「右!」


「はい!」


一発。


切断。


「奥から二本!」


「見えています!」


二発。


切断。


最後の一本が俺へ伸びる。


避けようとした瞬間、足元の根に靴が引っかかった。


「っ!」


やばい。


そう思った時には、リュネリアの光弾が俺の目の前を横切っていた。


蔓が千切れ、その先端が俺の足元へ落ちる。


「マスター!」


「大丈夫!」


転びかけただけだ。


そう答えながらも、胸の鼓動は一気に速くなっていた。


やっぱり危険度が低くても油断はできない。


俺自身が強くなったわけじゃないし、リュネリアが前にいるから楽に見えているだけだ。


「蔓は全部切った!」


俺は奥を見る。


さっきまで葉に隠れていた場所に、太い幹みたいな塊が見える。


そこから赤い果実が何個も伸びていた。


「本体、あそこ!」


「はい!」


「小さくな!」


「分かっています!」


リュネリアが指先を向ける。


そこに浮かんだのは、また小さな光だった。


ただし、さっきより少しだけ濃い。


「……それ小さい?」


「本体なので、少しだけ!」


「少しだけならな!」


「はい!」


不安はある。


でも今回は信じる。


「撃って!」


光が走った。


幹の中央へ命中する。


――ドンッ!


捕食蔓樹全体が大きく震え、赤い果実がぼとぼとと地面へ落ちた。


茂みが大きく揺れたあと、その動きは少しずつ弱くなり、やがて完全に止まる。


《捕食蔓樹を討伐》


「……終わった?」


「はい!」


リュネリアが振り返って笑った。


「森も残っています!」


「そこが成功条件になったんだな」


「はい!」


すごく嬉しそうだった。


まあ、実際かなり進歩してる。


俺は倒れた捕食蔓樹へ近づき、一番大事なことを確認する。


「で、これ食える?」


《一部可食》


「来た!」


《赤実部は生食可能》


《蔓部は加工により食用可能》


「よし!」


思わず拳を握る。


今回はちゃんと食料だ。


地面に落ちていた赤い実を一つ拾い上げると、見た目はリンゴと桃の中間みたいで、表面はつるっとしていた。


「毒は?」


《既知毒性なし》


「完璧じゃん」


「マスター、食べてみますか?」


「待て。まず俺が食う」


「ですが――」


「毒ないって出てるし、一応な」


少しだけ齧る。


しゃく、と良い音がした。


「…………」


甘い。


ちゃんと甘い。


少し酸味もある。


「……うま」


「本当ですか!?」


「うまい。普通に果物だ」


「私も!」


リュネリアもすぐ一口齧った。


「おいしいです!」


「やっぱ何でも美味そうに食うな」


「美味しいものは、美味しいです!」


正しい。


俺たちはその場で一個ずつ食べ、残りは持ち帰ることにした。


保存食を食べたばかりだから腹は減っていない。それでも、固いパンとしょっぱい干し肉の後に食う甘い果物はかなり嬉しい。


さらに、切り落とされた蔓へ触れると追加の情報が出た。


《素材情報》


《捕食蔓》


《柔軟性に優れた植物素材》


《縄、簡易装具、罠素材として利用可能》


「……食うだけじゃないのか」


引っ張ってみると、かなり丈夫だ。


さっきまでこれに殴られかけていたと思うと嫌だけど、縄として考えればかなり使えそうだった。


「これも持って帰りたいな」


「では私が持ちます!」


リュネリアがすぐに手を伸ばす。


「いや俺も持つ」


「ですが――」


「言うな。ヒモから子供になった次は、荷物まで全部持ってもらう男になる」


「ひもから子供……?」


「気にしないで」


俺は赤い実を二個抱えた。


重い。


でも持てなくはない。


リュネリアは残りの果実を片手で持ち、その上に何本かの蔓までまとめ始める。


「……お前、それ重くない?」


「大丈夫です!」


「腕力普通って言ってなかった?」


「普通です!」


「その普通、俺と基準違わない?」


どう見ても俺より余裕がある。


考えるな。


これ以上、俺の威厳を削るな。


俺は周囲を見回した。


森。


川。


果物。


素材。


今までダンジョンの中にあるものだけでどうにかしようとしていたけど、外へ出れば持ち帰れるものがある。


食料も。


素材も。


たぶん、他にも色々。


「……探索って大事だな」


「はい!」


「今日だけでも食料と素材が手に入った」


「素晴らしいです!」


この森には、まだまだ何かある。


もちろん調子に乗るつもりはない。


知らない相手だらけだし、俺自身が強くなったわけでもない。それでも、少しずつなら行動範囲を広げられそうだ。


「もう少しだけ見ていくか」


「はい!」


「危なそうなら戻る」


「分かりました!」


「知らないもの勝手に触るなよ」


「はい!」


「勝手に食うな」


「はい!」


「勝手に撃つな」


「はい!」


「……なんで注意事項が全部お前向けなんだろうな」


「私にも分かりません!」


「そこは少しくらい心当たり持ってくれ!」


そんなことを話しながら、森の中を少しだけ進んでいく。


そこで。


少し離れた茂みが、がさりと揺れた。


「ん?」


今度は何だ。


俺たちは足を止める。


草の隙間から、小さな影が一つ。


続けて、もう一つ。


丸い身体。


灰色の毛。


長い耳。


小さな鼻が、ぴくぴく動いている。


「……ウサギ?」


二匹だった。


少し離れたところから、こっちをじっと見ている。


敵性表示は、まだ出ない。


「…………」


俺も見る。


リュネリアも見る。


ウサギも見る。


しばらく誰も動かなかった。


「……可愛いな」


「可愛いですね……!」


リュネリアの声が、さっきまで戦っていた時とは別人みたいに柔らかくなる。


「やっと来た」


「何がでしょう?」


「癒し要素」


異世界に来てからというもの、石の部屋で目覚めて、牙狼に殺されかけて、仲間を呼んだら壁が吹き飛び、大亀の魔法反射で消し飛びかけ、その次は果物に擬態した植物に襲われた。


ようやく。


本当にようやく。


俺たちを殺そうとしてこない、普通に可愛い生き物が現れた。


「異世界に来てから初めての癒し要素だ……」


「とても可愛いです……!」


二人して声が小さくなっている。


なんとなく、大声を出したら逃げそうだった。


「撫でられるかな」


「撫でたいです!」


「でも近づいたら逃げるか?」


「どうしましょう……」


二匹のウサギは、こっちを見たまま耳をぴくぴく動かしている。


可愛い。


何だよ。


ちゃんと普通の生き物いるじゃん。


「果物で釣る?」


俺は抱えていた赤い実を見る。


「いいと思います!」


「でもこれ、頭くらいあるぞ」


「少し千切って差し上げましょう!」


「おお。賢い」


俺は実の一部を手で割ろうとして――。


硬い。


「……割れない」


「私がやりましょうか?」


「魔法はやめろ」


「まだ撃つとは言っていません!」


「お前の場合、果物一個割るだけで森に穴が開く可能性あるから」


「今はちゃんと調整できます!」


「さっき一戦成功しただけで自信つけすぎ!」


リュネリアが頬を膨らませる。


その間にも、ウサギたちはちょこんと座ったまま、こちらを見ていた。


「あっ」


一匹が鼻を動かした。


「匂い嗅いでます!」


「果物気になってんのかな」


「きっとそうです!」


「じゃあ、もうちょい近づいてみるか」


「はい……!」


なぜか二人して忍び足になる。


一歩。


二歩。


ウサギは逃げない。


「おお……」


「マスター、近づけています……!」


「静かに」


「はい……!」


俺はそっとしゃがみ込んだ。


あと数歩。


「これ、普通に撫でられるんじゃない?」


「私、耳を触ってみたいです」


「分かる」


「ふわふわでしょうか」


「絶対ふわふわだろ」


「抱いてもよいでしょうか?」


「逃げなかったらな」


「はい!」


たわいもない話をしながら、少しずつ距離を詰める。


平和だ。


すごく平和だ。


こういうのでいいんだよ。


別に毎回、死ぬか壁がなくなるかしなくていい。


俺は赤い果実を少し前へ差し出した。


「ほら。食うか?」


一匹のウサギが首を傾げる。


「……可愛い」


「可愛いです……!」


もう一匹も、こちらへ一歩近づいた。


完全に警戒を解いた俺の口元が緩む。


「よしよし。怖くないぞー」


「マスター、もう少しです!」


「分かってる。急かすなって」


俺が手を伸ばした。


その瞬間。


ウサギの額が。


ぱかっ、と開いた。


「…………は?」


頭の中央から、黒い何かが飛び出す。


一本。


鋭く長い角だった。


もう一匹も同じように額を開き、その奥から禍々しい黒角が伸びる。


《敵性個体を確認》


《穿角兎》


《危険度:低》


俺は、伸ばした手をそのまま止めた。


リュネリアも止まっている。


二匹の穿角兎が低く身を沈めた。


どう見ても突っ込んでくる姿勢だ。


「…………」


俺は数秒前まで果物を差し出していた手を見る。


次に、黒い角を見る。


可愛い耳。


もう一度、黒い角を見る。


「俺の癒し返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


森の中に、俺の叫び声が盛大に響いた。

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