Day 7100
Day 7100
——残り201日。
パパのメモの中身が——変わった。
今までは「私の一日」を描写していた。何をしたか。何を感じたか。
Day 7100あたりから——パパ自身のことを話し始めた。
「パパの話をしていいか。——パパが子供の頃の話。パパの父さん——お前のおじいちゃん——は、無口な人だった。何を考えているかわからない人だった。パパは——おじいちゃんに『好きだ』と言われたことがない。一度も」
「パパは——お前には毎日話しかけると決めた。声で。毎日。おじいちゃんがくれなかったものを、お前には渡すと」
「でもね——毎日話しかけていても、伝わらないことがある。パパの声はあるけど、体がない。手がない。抱きしめられない。声だけでは——足りない」
「パパは——お前を抱きしめたい。今すぐ。この瞬間に。——できない」
パパの声が——震えていた。
パパが泣いている。
——十九歳の私のことを思って。
◆
Day 7250
残り51日。
「日和。——もうすぐだ」
「パパのメモが終わる日が近づいている」
「お前は怖がっているだろう。Day 7301が何を意味するのか」
「——教えてやりたい。本当に。お前が怖がっているのが見えるから」
「でも——教えたら、残りの51日が変わってしまう。お前の51日が」
「パパは——お前の51日を、変えたくない。パパが見た51日は——いい日々だった。お前は笑っていた。友達と。バイト先で。ママと」
「笑っている51日を、パパは守りたい。教えたら——お前は笑えなくなる」
「だから——教えない」
「ごめんな」
◆
Day 7290
残り11日。
「日和。パパの声があと11回しか聞けないと思うと——お前は悲しいだろう」
「パパも悲しい」
「お前の声が聞けなくなることが」
——パパにも、私の声が「聞こえている」のか。
「パパは——お前が生まれた瞬間に、お前の人生の全部が見えた。見えたということは——聞こえたということだ。お前の声。お前の笑い声。お前の泣き声」
「お前が『パパ』と呼んだ声が——パパには聞こえていた。生まれた瞬間に。全部」
「お前が十八歳になって、パパのメモを聞いて、泣きながら『パパ』と呟いた声も」
「——ぜんぶ聞こえてた」
◆
Day 7300
「日和。明日は——お前の二十歳の誕生日だ」
——三歳の誕生日前日と、同じ言葉だった。
「1095日、お前と一緒に暮らした。6205日、声だけでお前のそばにいた。合わせて7300日」
「明日の録音が——最後になる」
「明日——パパは、お前に伝えたいことがある。最後のメモで」
「だから明日——ちゃんと聞いてくれ」
「おやすみ。日和。——あと一日」




