Day 6200
Day 6200
高校二年生の、ある日の分。
「日和。今日はちょっと、大事な話をする」
パパの声のトーンが——変わった。いつもの穏やかさの下に、緊張があった。
「お前は今、このボイスメモを聞いていない。まだ十六歳だから。十八歳になるまで、ママが渡さない」
「でも——いつかお前はこれを聞く。十八歳の誕生日以降に」
「聞いて——驚くだろう。パパが死んだ後も録音が続いていることに。パパが死んだ後のお前の日常が、正確に描写されていることに」
「なぜか——説明する」
「パパは——お前が生まれた瞬間に、全部見えた」
「産院でお前を抱き上げた瞬間。生まれたばかりのお前を——抱き上げた瞬間に。お前の人生が、全部見えた」
「最初の笑顔。最初の一歩。最初の言葉。ブロッコリーを投げたこと。保育園のあいちゃん。七五三のピンクの着物。通知表。好きな人。受験。——全部」
「お前の人生の、最初から最後まで——パパの目に、一瞬で、全部映った」
「なぜかはわからない。他の人間のは見えない。お前のだけ——お前を抱いた瞬間に、見えた」
「パパは——見えたものを、毎日一日分ずつ、録音した。見えていたのは全部だけど、録音するのは一日に一日分。お前が今日を生きているのと同じ速度で」
「パパが生きている間も、死んだ後も。——同じ速度で。毎日」
「パパが生きていた1095日間は——見えているものと、実際に起きていることが、同時だった。だから不自然じゃなかった。パパは見えているものを『今日あったこと』として録音した」
「パパが死んだ後は——見えているものだけが残った。パパの体はもうない。でも——見えたものは消えない。毎日一日分。だからパパは——死んだ後も、毎日、お前の一日を語っている。どこにもない場所で」
「日和。一つだけ——聞いてほしいことがある」
「パパは——お前の人生の全部が見えた。最初から最後まで」
「つまり——パパは知っている。お前の人生が、いつ終わるか」
——呼吸が止まりそうになった。
「パパは——それを、このボイスメモに録っていない。Day何番で何が起きるか——言わない」
「なぜか。お前が怖がるから? ——違う」
「お前に、毎日を普通に生きてほしいからだ」
「いつ終わるか知っていたら——お前は、毎日を『残り何日』で数えるようになる。カウントダウンで生きるようになる」
「パパは——お前に、カウントダウンではなく、カウントアップで生きてほしい。Day 1。Day 2。Day 3。一日ずつ、足していく」
「だから——言わない」
「ただ——一つだけ。これだけは伝えておく」
「Day 7301」
「この日は——パパが、このボイスメモの中で、初めてお前に会えなくなる日だ」
「Day 7301までは、毎日、録音がある。Day 7301以降は——ない」
「理由は——言えない」
「お前がこれを聞くのは、十八歳になってすぐの頃だ。Day 7301までは——そこから、ほぼ二年ある」
「パパは——Day 7301まで、毎日、お前のそばにいる。——声で」
「Day 7301以降は——いられない。ごめんな」




