Day 2400
Day 2400。小学一年生。
「今日、初めて一人で学校に行く。ママが心配して、後ろからこっそりついていく。お前は気づく。振り返って『ママ帰って!』って怒る。——お前は強い子だ」
ママに確認した。
「ママ、私が小一のとき、こっそりついてきたことある?」
ママが目を丸くした。
「……ある。一回だけ。バレて怒られた」
「パパが知ってたよ。ボイスメモに入ってる」
ママの顔から、血の気が引いた。
Day 3387。小学三年生。
「今日、お前は通知表をもらう。算数が3。国語が4。理科が5。——理科が好きなんだな。パパも理科が好きだった。遺伝かな」
通知表の中身が——合っている。小三の二学期。算数3、国語4、理科5。
——パパは、私の通知表の点数を知っている。死んでから六年後の通知表を。
Day 4650。中学一年生。
「好きな人ができたな。——言わなくていい。パパにはわかる。最近お前の声が変わった。電話のとき、声が少し高くなる。誰かのことを考えているときの声だ」
——中一のとき、好きな人がいた。同じクラスの男の子。誰にも言っていなかった。
パパに——バレていた。死んだパパに。
Day 5615。中学三年生。
「受験。第一志望の高校。——受かるよ。パパは知ってる。大丈夫だ」
受かった。第一志望に。
パパは——結果を知っていた。
◆
千日分ほど聞いた時点で——気づいたことがある。
Day 1095まで、つまりパパが生きていた頃のボイスメモと、Day 1096以降のボイスメモには——決定的な違いがあった。
生前のパパは、一日の終わりに、その日の出来事を思い出しながら話していた。言い直しがある。思い出す間がある。笑って言葉に詰まることがある。
死後のパパには——それがない。迷いなく、淀みなく語る。振り返りではなく——すでに知っていることを、語っている。
しかも、しばしば現在形で。
「今日、お前は泣いている」
「今日、お前は公園に行く」
まるで——その日がまだ始まってもいないうちに録られたかのように。
——微妙な違いだけど。
もう一つ——気づいたことがあった。
Day 1096以降の録音には——背景音がなかった。
生前の録音には背景音があった。電車のアナウンス。テレビの音。風の音。ママの声が遠くに聞こえることもあった。
死後の録音には——何もない。パパの声以外、完全な無音。反響すらない。
どこで録っているのか——わからない。
自宅ではない。反響が違う。外でもない。環境音がひとつもない。
——どこにもない場所で、録っている。




