Day 1097
Day 1097
「2009年9月14日。Day 1095。——日和。明日はお前の三歳の誕生日だ」
パパの声は——いつもと同じだった。穏やかで、少し眠そうで。夜に録っている。
「三年分、毎日録った。1095日。よく続いたなあ。——でもあと十五年ある。お前が十八になるまで。先は長い」
笑っている。
「明日は——ケーキを買って帰る。いちごのやつ。お前はいちごが好きだから。——今から楽しみだ」
——パパは、明日死ぬことを、知らない。
ケーキを買って帰るつもりだ。いちごのケーキを、明日の帰り道に。
その帰り道で——トラックにはねられる。即死。
ケーキは——買えなかった。
「日和。パパはね——お前が十八になったとき、このボイスメモを全部渡す。お前と一緒に聞くんだ。『パパこんなこと言ってたんだ』って笑うんだ。——楽しみだな。十五年後。パパは五十歳か。お前は十八。——早く来ないかな」
——その日は来ない。パパは五十歳にならない。三十五歳で終わる。
「じゃあ——おやすみ、日和。明日、誕生日おめでとう」
ファイルが終わった。
ここまで聞いて——二時間泣いた。
パパの声。1095日分。三年間の、毎日の、パパの声。
パパは私を愛していた。毎日。一日も欠かさず。
『パパの声で、お前の毎日を伝える』——伝えてくれた。三年間。
パパの声を知らなかった私に——パパの声を教えてくれた。
泣きながら——次のファイルを見た。
Day 1096。2009年9月15日。
——私の三歳の誕生日。パパが死んだ日。
パパはこの日の夕方、ケーキを買いに行く途中で死んだ。夜の録音など、できるはずがない。
でも——ファイルがある。
再生した。
◆
「2009年9月15日。Day 1096」
——パパの声だった。
同じ声。同じ調子。——ただ、何かがかすかに違う。そのときはまだ、何が違うのか、わからなかった。
「日和。パパだよ」
——パパは死んでいる。この日の夕方に。交通事故で。
「今日、お前は泣いている。夜になってから、ずっと。ママも泣いている。パパが帰ってこないから。——ごめんな。誕生日なのに」
泣いている——合っている。ママに聞いた。パパが死んだ夜、私はずっと泣き続けていたらしい。理由もわからないまま。三歳になったばかりだったから。
「お前は——パパがどこに行ったかわからなくて泣いている。ママは——パパがもう帰ってこないとわかっていて泣いている。二人の涙は違う。でも——同じ部屋で、同じ夜に、泣いている——それだけで、十分だ」
パパの声が——穏やかだった。
死んだ翌日の自分の家族を描写している声が——穏やかだった。
◆
Day 1096以降
聞き続けた。
Day 1097。1098。1099。
毎日——ファイルがあった。パパの声で。
内容は——私の日常の描写だった。Day 1095までと同じ。
Day 1105。「今日、お前はママと公園に行く。ブランコの上で笑っている。——パパがいなくても、お前は笑えるんだな。よかった」
Day 1157。「今日は七五三。ママがお前に着物を着せる。ピンクの。お前は窮屈がって嫌がる。ママが困った顔をする。——パパがいたら、お前を抱っこして『かわいいよ』って言ってたろうな」
Day 1200。「保育園に友達がいる。名前は——あいちゃん。お前はあいちゃんのことが好きだ。毎日あいちゃんの話をする」
——全部、合っている。
あいちゃんがいた。保育園の友達。確かに。名前も合っている。
七五三。ピンクの着物。嫌がったこと。かすかに覚えている。
パパは——死んだ後も、私の毎日を知っている。




