第74話
アイがライに問いかけたのち、ライは笑顔を浮かべて小さくうなづいてから口を開く。
「えぇ『あなた方が集めているモノ』についてはエルフの間で話題になっていましてね。ただ、どこを掘り下げても正確な情報が出てこないような状況でして……ルイス家が多額の資金をかけてマーガレット殿を探し回るほどの品がどのようなモノなのか……それが全く見えてこない。そんな中で偶然町でお二人の姿を見かけたので声をかけさせていただいたという次第です」
これは完全にはめられてしまったとしか言えないだろう。そもそもなぜルイス家が『聖書に選ばれた魔女マーガレット』と『行方不明になっている令嬢マーガレット』が同一人物であるということを突き止められたのかなど謎が残るが、もし仮に行方不明になっている自分の娘が『どんな願い事でもかなえることが出来る聖書』を持っていると知ったら血眼になって探すのもわからないでもない。
しかしながら、そのことに関して素直に目の前にいるライに話してしまってもいいのだろうかという懸念が残るのは確かな事実だ。聖書に関しては関係者以外に話してはいけないことになっている。だとすれば、そのことを素直に伝えればいいのかもしれないが、そうなるとエルフの間での疑問はとどまることを知らないだろう。
「……すみません。私にはルイス家がどうしてそのような行動をとったのかはわかりかねます」
マーガレットはとりあえずお茶を濁しながら状況の改善を狙う。
「そうですか……それは残念です。しかし、ルイス家があなたを捕まえる。もしくは行方を追って何かをしようとしたのは事実。そこに何か覚えはありますか?」
こちらが何か隠していると確信したのかライはさらに質問を続ける。
「先ほどと似たような回答になりますが、私には身に覚えがないのでわかりかねます」
とりあえず、聖書について話すわけにはいかないのでなんとなしらを切りとおす。すると、ライは少々残念そうな表情を浮かべて返答をする。
「まぁわからないならしょうがないですね。お時間いただいてしまって申し訳ありません」
「いえ。こちらこそ力添えできなくてすみません」
とりあえずそこで会話を切り上げてマーガレットたちは会話を終える。
「もしよろしければこの後お茶でもいかがですか?」
「いえ。私たちはこの後予定があるので失礼させていただきます」
これ以上会話を続けていると何を言われるのかわからないのでマーガレットたちはライからの申し出を断って席を立つ。
「そうですか。それではこのあたりで……何か心当たりを思い出すようなことがあれば私まで手紙を頂けると幸いです」
「えぇ。多分ないと思いますけれどそうさせていただきます」
その会話の後、マーガレットたちはライに頭を下げてから部屋を出る。
「……少し安易にいきすぎましたかね?」
「いえ。あなたの判断は間違ってはいないわ。ルイス家が存在していないということを知れただけ十分な収穫よ……確かにいろいろと気になるところはあるけれど……」
そう答えるころにはマーガレットたちはライの探偵事務所から外に出て表通りへと足を進める。
「……それにしてもライはどこまでつかんでいるのかしら? そのあたりが全く見えないわね」
「そうですね。確かに『魔女マーガレット』と『令嬢マーガレット』が同一人物だと知っている時点でかなり怪しいと言えば怪しいですよね……」
アイが指摘する点はある意味もっともなことだ。いくら北の大陸から離れたとはいえ、マーガレットは基本的に『魔女マーガレット』として振舞っている。そもそも、ルイス家が『魔女マーガレット』を探しているからと言ってそれが『令嬢マーガレット』と同一人物だと確信するには材料が少し足りないように感じる。いや、もしかしたら先ほどまでの話は『魔女マーガレット』と『令嬢マーガレット』という二つの存在が本当に一つのモノなのかという確認作業だったという可能性も捨てきれない。ライもしくはエルフの目的がどこにあって、こちらに何を仕掛けようとしているのかわからないが、今後はエルフの動向に関してはある程度の注意が必要だと言えるかもしれない。いや、それともエルフ全体について注意するのは考えすぎだろうか?
「マーガレット様。大丈夫ですか?」
表通りに出てからしばらく黙り込んで考え込むマーガレットの様子を見てアイが心配そうに声をかける。
「あぁごめんなさい。大丈夫……とりあえず、西の大陸に向かう船のチケットを買いに行きましょうか」
マーガレットは今後のことについて心配を募らせながらも、いったん頭の中を聖書集めのことに置き換えて西の大陸へ向かう船が出る港の方へ向けて歩いて行った。




