第72話
シャルロの森を旅立ってからしばらく。マーガレットたちは南の大陸から西の大陸へと向かう船が出る港町であるハーフェン共和国のハーフェンに到着し、西の大陸へと向かう船が出る港へと向かって歩いていた。そうしていると、背後から声がかかる。
「もし、そこのあなた方……魔女のマーガレット殿とその弟子のアイ殿ですか?」
マーガレットたちが振り向くと、そこには背が高くて、黒い帽子をかぶり、金髪と青い瞳が目を引くエルフの男が立っていた。
「……あの……どちら様ですか?」
「あぁ失礼。私はこの町で探偵業を営んでおりますライという者です。少々お話よろしいでしょうか?」
「探偵? 探偵が私に何の用事ですか?」
マーガレットの質問にライと名乗った探偵はただ単に笑顔を浮かべて返答する。
「そのあたりも含めて私の事務所で話をさせてもらいたいのです。もちろん、私はあなた方に敵意を向けているわけではありませんよ」
「……どういうつもり?」
相手の意図が読めない。それがマーガレットの感想だ。そもそも、エルフの探偵という時点でいろいろ怪しいし、公の場ではなくわざわざ探偵事務所で話をしたいというあたり相手が何かを隠し持っているのではないかとすら感じてしまう。
「……事務所の場所を教えてください。そこに行くかどうかは私が後で判断します」
「そうですか。私もいろいろと仕事があるので不在だった場合は待っていただくことになりますがよろしいですか?」
「えぇ。それはもちろん大丈夫です」
マーガレットの要求に対して、ライと名乗った探偵はあくまでも笑顔を崩さずに対応する。事務所の場所を教え、小さく頭を下げた彼はそそくさとこの場から立ち去っていく。
「……マーガレット様。どうするんですか?」
その後ろ姿を見送った後、アイがマーガレットにたずねる。
「そうね。いったん宿に戻ってから考えましょうか」
その会話の後、マーガレットたちは足早にその場を離れて宿へと向かった。
*
ライに声をかけられた次の日。マーガレットたちの姿はライの探偵事務所にあった。
当初、マーガレットとしては怪しいからそそくさと西の大陸へと向かってしまおうかと考えていたのだが、アイがいったん話を聞いてみたらどうなのかという提案をしたためだ。
アイの考えとしてはもしも自分たちに何かしらの危害を加えようとして近づいたのなら、頃合いを見計らって最初から襲い掛かっていたのではないかとのことだ。
マーガレットとしては少々納得のいかない答えではあるが、アイの主張を全面的に無視するのも良くないし、確かに完全に敵だとは限らない相手に対してそそくさと逃げるような行動をとれば何かしらの隠し事があるのではないかと思われてもおかしくはない。そう考えると、ある程度注意しながらもライと接触するというのはありなのだろうか?
そこまで考えてマーガレットは深くため息をつく。
「お待たせしました」
ライが部屋に入ってきたのはちょうどそんなタイミングだった。彼は昨日と同じように笑顔を浮かべながらこちらの方へと歩み寄ってきて、こちらに一礼してからマーガレットたちの向かいへと座る。
「お急ぎかと思いますのでさっそく本題から話をさせていただきます」
ライはこちらの雰囲気を察したのかさっそくと言わんばかりに本題へと足を踏み込む。
彼が話をした内容はいたって単純でとある事情によりルイス家が貴族の位を剥奪されたということと、北の大陸ではすでにマーガレットの追手はいなくなっているという話だった。
マーガレットとしてはそう単純に『はい。そうですか』と受け入れられるようなことではないのだが、仮に本当だとすれば朗報だと言えるだろう。
「証拠が欲しそうな雰囲気ですね」
そんなマーガレットの考えを読み取ったかのようにライがニヤリと笑う。それに続いて彼は一枚の紙をマーガレットの前に差し出した。
「これは?」
「単純に言ってしまえばエルフの間で流通している情報誌の一部です。そちらにいるアイ殿なら見かけたことがあると思いますよ」
その言葉を受けてマーガレットがアイの方へ視線を送ると、彼女は小さくうなづく。
「確かにこれはエルフの間で流通している物ですね。私が知っているものと魔力のパターンが一致しています」
「そう言うのがあるの?」
「はい。ありますよ。これは結構特殊なモノでして、魔法で嘘が書けないようになっているんですよ。もう少し言うと、エルフ以外が読めないというのも特徴の一つですね」
そう言いながらアイはライから渡された情報誌を手に取ってじっくりと読み始めた。




