第7話
聖都ミカへ向かう列車の中。マーガレットとアイは向かい合わせで座り、車内販売で購入した弁当を食べていた。
フランの町での一件以降、マーガレットはアイにある程度の信頼を置くようになっていた。自らに相談せずに事件の解決を目指したことはいただけないが、令嬢マーガレットの姿を知らないという点で実家からの追手ではないという可能性が高いという判断を下したからだ。もし仮にあの場で彼女が『令嬢マーガレット』と『魔女マーガレット』が同一人物だと認識していたらその結果は変わっていただろう。下手をしたら、アリス教授が最初に言った通り、怪しい人物だとして自分から離れるようにと言っていた可能性すらある。いや、仮に怪しい人物だと判断したところで、彼女はどこまでも付きまとってくる可能性が高いため、結局一緒にいることになるのかもしれないが……
「おいしいですね。このお弁当」
一人物思いにふけるマーガレットに対してアイが声をかける。その表情はまるで見た目相応の子供みたいで、少し愛おしいとさえ思えてくる。
「えぇ。そうね」
そんなアイに対して、マーガレットは小さく笑みを浮かべて返答をする。そんな中、列車はフラン周辺の山岳地帯を抜け国境となっている河川を越えてまもなく聖都ミカに到達しようとしている。
聖都ミカは町の中心部にあるミカの大聖堂を中心に形成されている町で、古くからたくさんの巡礼者が訪れている場所として知られている。しかしながら、肝心の大聖堂は建物の保護の観点から現在は一部関係者以外は立ち入りを禁じられており、通常であれば立ち入ることのできない場所だ。そのような場所でのマジックアイテムがらみの文献調査となれば、かなり興味深いものとなる。最も、一つ残念な点を挙げるとするならば、どのようなモノが出ても国庫に納める関係上、自らの手に入ることがないということだと言えるかもしれない。
そんな中でマーガレットはふと考える。なぜ、アリス教授はこの依頼を自分たちにまかせたのだろうかと。アリス教授は特に理由は言っていなかったが、アリス教授もまた、珍しいマジックアイテムや魔導書、論文があると聞くとすぐに飛びついてあちらへこちらへと飛び回っているような人だ。最も、教授という立場があるため、学校の講義と両立しなければならないという事情があるので活動範囲は限られている。そのため、大体、活動できる範囲から離れたところにあるマジックアイテムの調査を代わりにしてほしいという依頼は何度かあった。しかし、今回はフラン共和国の隣にあるメイヌース共和国での調査依頼である。普段であれば、アリス教授自らが何回かその場に通いながら調査をするという形をとるだろう。
「まもなく、聖都ミカに到着いたします。ミカでお降りのお客様はお手荷物などお忘れ物ないようにご注意ください」
そんなことを考えている間に車掌がミカに到着する旨を案内し始める。
「おっと、のんびり弁当を食べている場合じゃないですね。早く降りる準備をしないと」
そう言って、マーガレットは残っている弁当をかきこんでいく。それに対して、アイはすでに食事を終えており荷棚から荷物を下ろし始めていた。
「……食べるの早いわね」
「いや、マーガレット様が途中で食べるのをやめたからじゃないですか?」
そのような会話を交わしているころには車窓には丘の上にある大聖堂と丘の周りに広がるミカの街並みが見え始めていた。
*
ミカの町の近くにある駅から馬車で約三十分。
マーガレットたちは聖都ミカの象徴ともいえる大聖堂の前に立っていた。この大聖堂が建築されたのは今から数百年前。完成まで200年を要したとされるこの大聖堂はその存在感もさることながら、どこか神聖な雰囲気と共に古くから紡がれてきた歴史を感じる。最も、ミカの町そのものが産業革命前の雰囲気を保っているため、町全体が歴史遺産のようになっているといっても過言ではないだろう。鉄道の駅は町から少し離れた場所にあり、駅と町の移動は馬車が主流、町の中心部は狭く入り組んだ道が多く、大聖堂のある丘から伸びる目抜き通り以外は下手に入ると迷子になってしまいそうな状況である。
そう言った事情から大聖堂を望む大通りは外部から来た人に向けた宿や店が多く軒を連ねており、常に馬車や人でごった返している。そう言った道をゆっくりと馬車で通り抜け、丘を登り、やっとたどり着くのがこの大聖堂である。
「さて、さっそく中に入ってあいさつと行きましょうか」
マーガレットはカバンから調査許可証を取り出して、アイの手を引き大聖堂の中へと入って行った。
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この話から第2章に突入しました。
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