幕間1-1
マーガレットとアイが聖都ミカでの調査のために出発したすぐ後、アリスは深くため息をつく。
「まったく。何がどうなっているんだか……」
彼女の頭の中にあるのはマーガレットが弟子をとったという報告から昨日の闇オークションの件までの間に起こった出来事についてだ。
最初、マーガレットから手紙が来たとき珍しいこともあるものだなと思いながらそれを開封した。まず最初に驚いたのはその内容で、ちょっとしたマジックアイテムの解析依頼と弟子をとったという報告だった。おそらく、マジックアイテムがどうだというよりも弟子について報告をしたいのだろうと解釈し、日時を指定して学校まで来てもらったのだが、その弟子がエルフだった時は何が起こったのかと少々混乱すらしたものだ。
いや、強いて言えばそこまでは問題ない。問題はその先の闇オークションの一件だ。
どのような流れでオレフと出会ったかまではどうでもいいのかもしれないが、偶然出会ったオレフにおびえ、その原因を調査するために自らがさらわれたかのように見せかけ姿を消し、その少し前にアリスやその関係者以外ほぼ出入りしない旧校舎で学生が闇オークションのチラシをほかの生徒に見せびらかす。その一方でアイ自身はオレフの手先に捕まりそのオークションに出品される……あまりにも話が出来すぎてはいないだろうか?
そもそも、マーガレットはまだまだ未熟なところがあるとはいえ魔法使いとしては優秀な部類に入る。そんなマーガレットの目を完璧に欺きながら姿を消せるほどの実力を持っているアイがそう簡単にオレフの手先に捕まるなどという事態はあり得るのだろうか? 一応、仲のいい衛兵にオレフをはじめとした闇オークションの関係者に魔法に長けたものはいたのかと聞いてみたが、それはないという返答だった。そうなると、アイはマーガレットが救出に来る、もしくは衛兵が会場に突入し、救出されるということが分かった上でわざと捕まったのではないかとすら推測できる。
つまるところ、事前に学生を金か何かで買収しておいて、わざと旧校舎で闇オークションの存在が明るみになるように仕組んで置く。もっと言えば、オレフの手先の一人や二人ぐらいを買収しておいて、その闇オークションに自身が出品されるように仕向けるなんて言うこともやっているかもしれない。
そうなると、次に来るのはアイがどういった意図でそのような行動を起こしたかという点だ。ここに関してはあまり深く考える必要はないだろう。『マーガレットに自身は無害だと認識させる』という一点に尽きるだろう。
マーガレットは最初こそアイのことを警戒している様子だったが、闇オークションの一件では本来は表に出したくない『令嬢マーガレット』の姿すら出している。そこに関してはこの事件解決のためにはやむを得ないところがあったかもしれないが、仮にそこでアイが『魔女マーガレット』の姿ではないマーガレットを見てちゃんとマーガレットだと認識できていないような態度をとってみるとどうだろうか? そうすると、マーガレットはこう考えるだろう『アイは令嬢マーガレットの自分を知らないから安心してもいい相手なのかもしれない』と……そのあたりについてはあえて触れていないが、もし仮に彼女の中でそのような認識が出来てしまっていると、マーガレットがアイに対してある程度の信頼を置くきっかけになるかもしれない。ただでさえ良くないうわさを聞くエルフだ。自分自身を信頼させるためにそこまでやったとしてもおかしくはない。
「……考えすぎか? いや、そんなことはないのか?」
そこまで考えて、アリスは空に向けて言葉を放つ。一体全体、自らの弟子に何が降りかかろうとしているのだろうか? そもそも、マーガレットの実家がエルフにマーガレットの発見およびその素行調査の依頼をしたとしよう。なぜ、今更そのようなことをしているのだろうか? 自身が知る限り、マーガレットに魔法を教え始め、独り立ちさせ、旅をしてという過程に数年という時間を要している。その間、自らが知る限りはマーガレットを実家に連れ戻そうとする追手がやってきたなどという話は聞いていないし、むしろ向こうからすれば厄介者を追い出せて清々したとすら思っている可能性がある。あまり詳しい話は聞いていないが、マーガレットは実家ではあまりよく思われていなかったようだし、マーガレットもまた貴族社会という存在を嫌っていた。
そういった今回の件に関する考えを整理し、アイという不穏分子をいったん遠ざけるために適当な依頼を押し付けて彼女からいったん離れたというのが今までの流れだ。
そこまで思考を巡らせた後、アリスは再び深くため息をつく。いづれにしても、自らの大切な弟子であるマーガレットはしっかりと守りたい。その一方でマーガレットが自らの選択として弟子に取ったという行動は普通ならば歓迎すべき事柄だろう。だが、どうしても素直にそれを歓迎できない自分がいる。
「こういう時、どうしたらいいのか……私にも師匠という存在がまだあればよかったかもしれないな……」
アリスはかつて自らに魔法を教授してくれ、今は亡き存在となっている師匠に思いをはせながら、教室の窓から見える空を見つめていた。




