第6話
闇オークション騒動の次の日。
マーガレットとアイの姿はフラン魔法大学校の旧校舎にあった。その主な目的はアイがどのような経緯であの場にいたのかということを説明してもらうためだ。
二人が教室に来てから十分ほど。最後の出席者であるアリス教授が姿を現す。
「さて、話を始めようか。アイ君がどのようにしてあの場からいなくなったのかについて」
「あーやっぱりその話はしなくてはいけないですか?」
真剣な表情を浮かべるマーガレットとアリス教授に対して、アイは気まずそうな表情を浮かべている。
「必要よ。今後、私たちが旅をしていくうえでどういった対策をするかという点で非常に重要だから」
マーガレットがそう言うと、アイは事の次第について話し始めた。
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二日前、アイは商店街でオレフに会ったときに感じた違和感というか恐怖感の正体を探るためにマーガレットに黙ってこっそりと宿を出ることにした。
本来であれば、マーガレットの許可の上でやるべきことだと思うのだが、オレフに関する違和感というのがほぼ直観に近いモノであり、具体的に説明しづらかったためそう言った形をとることにしたのだ。そして、もしものことがあったときのために日記帳を部屋に置き、窓を開け、魔力の痕跡を徹底的に消してまるで連れ去らわれたかのような状況を作り上げておいた。
そうしたのち、こっそりと宿を抜け出しオレフを探し始めたのだ。その結果、オレフが闇オークションを開催していること、そしてその闇オークションでは連邦法では禁止されている人身売買が行われているという情報を手に入れた……というところまでは良かったのだが、証拠をつかんで宿に帰ろうとした途中でオレフの手先につかまってしまったのだ。
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などというアイの話を聞いたマーガレットとアリス教授はどういった反応をしていいか困ってしまってお互いに顔を見合わせる。
「つまりは勝手にオレフのところに探りを入れに行って、勝手に捕まったと……まるでさらわれたかのような状況がなかったら勝手に去って行ったと判断して探されなかった結果、あなたがどこかに売り飛ばされていたところだったわよ」
「そうだな。それにマーガレットと師弟関係である以上、マーガレットに相談すべきだったと言えるだろうな。そのあたりをしっかりと相談できないとしっかりとした信頼関係のある師弟関係を維持することができないぞ」
二人の言葉を聞いてアイはますますと小さく委縮する。そんな彼女を見ながら、マーガレットは少々思考を巡らせる。アイの言う通りに事が進んでいたのだとすると、マーガレットではアイを探すことができないほど徹底的に自らの魔力の痕跡を消すことができるということになる。そうなると、下手な話アイはマーガレットよりも優れた魔法使いであるという可能性すら浮上してくる。その上でマーガレットに弟子入りをするという形をとったのはなぜだろうかという点だ。仮にマーガレットの素行調査を依頼されているのだとしたらマーガレットの本来の姿である水色の髪の姿でもアイはその人物をマーガレットだと認識できるはずだ。しかし、昨晩はマーガレットが壇上に上がったとき、彼女は本気でマーガレットのことを『魔女マーガレット』と同一人物だとちゃんと認識できていなかったように見える。となると、こちらが疑いすぎているだけで、彼女は本当に魔女マーガレットに一目ぼれして、純粋に一緒にいたいと考えて近づいてきたのだろうか?
「……その、次からは相談するように気を付けます……」
そのようなことを考えているマーガレットの隣でアイは反省の言葉を口にして、アリス教授は少々呆れ気味に返答をする。
「そうだな。そうした方がいい。ただでさえエルフは珍しいからな気を付けた方がいいぞ。さて、この話はこのあたりで終わりにしよう」
そう言いながらアリス教授はマーガレットたちの前に一つの新聞記事を差し出す。そこでマーガレットの思考はいったん中断され、目の前に出された新聞記事へと関心が向かう。その新聞記事には『聖都ミカで新たなマジックアイテム発見。聖都形成の歴史の解明へ一歩前進か』という記事が掲載されている。
「これが今日君たちを呼び出したもう一つの用事だ」
「いや、もう一つ用事があるとは聞いてないんですけれど」
マーガレットがため息をつく。
「まぁいいじゃないか。話を聞いて実際にやるかどうかは君たち次第だ」
そう言ってから、アリス教授は新聞記事と『もう一つの用事』の関連性について話をし始める。
現在、北部連邦メイヌース共和国の聖都ミカにある大聖堂で文献調査が行われており、その中で複数のマジックアイテムが発見されているとのことだ。その中でも本型のマジックアイテム……通称『ミカの聖書』と呼ばれているマジックアイテムの調査依頼がアリス教授のもとへと来ているそうだ。そのほかにも多数のマジックアイテムが発見されそうな雰囲気もあり、大聖堂に埋もれているマジックアイテムの調査と『ミカの聖書』の調査を行ってほしいというのが今回の経緯だ。
「なるほど。通常は立ち入れないミカの大聖堂でマジックアイテムの調査ですか……」
「どうだ? 興味は沸いてきたか? あぁただし、今回はメイヌース共和国からの文献調査の依頼だから見つけたマジックアイテムは全部国に預けることになる。ミカの聖書もこちらに持ってきてほしいと言われたのだが、それはできないと言われてしまってね。まぁ時間をかければ『ミカの聖書』がどんなものか君達でも調査できなくはないだろ?」
「なるほど。そういうことですか」
アリス教授の言う通り、マーガレットはある程度マジックアイテムの性質を調査できるだけの力を持っている。実際問題、ナギサ遺跡で発見したマジックアイテムもその気になればその場でどういったものか時間をかけて調査をするということができなくもない。今回、こうやってわざわざアリス教授のもとを訪れたのは弟子のアイをアリス教授がどう見るか気になっていたという点が大きい。さらに言えば、最終的にはメイヌース共和国の国庫に入るのだとしても、マジックアイテムがらみの調査だ。マーガレットとしては強く興味を惹かれるものがある。
「わかりました。やりましょう。アイもそれでいい?」
「はい。私はマーガレット様の行くところならどこへでもついていきます」
マーガレットたちの会話の後、アリス教授は二人分の切符をマーガレットの前に差し出す。
「うむ。これが無駄にならなくてよかったよ。まぁお前から受けた解析の依頼の方はミカでの調査が終わるまでにやっておくから安心していい」
「えぇ。よろしくお願いします」
そのような会話の後、マーガレットは切符を受け取り、アイと共にアリス教授のもとから立ち去って行った。




