第8話
聖都ミカの大聖堂の内部。たくさんの長イスと、双方の壁から光を取り入れるステンドグラスが印象的な礼拝堂の奥にある扉の向こうにある回廊をマーガレットたちはシスターの案内で歩いていた。
「いやはやまさかこうしてミカの大聖堂をしっかりと見れる日が来るとは思ってもみなかったですよ」
アイは興味深そうにあちらこちらをきょろきょろと見ながらそう言った言葉を口にする。
「アイはここには来たことはないの?」
「まぁないわけではないですけれど、巡礼者ではないのでこういった奥の方までしっかりと見たことはありませんね」
「……なるほどね……」
こういった会話をしていると、改めてアイは自らよりもはるかに年上なのだと実感する。ミカの大聖堂はかつては礼拝堂を開放していたものの、今から五十年ほど前からその礼拝堂すらも関係者以外の立ち入りを禁じていて、基本的には建物を外から見ることしかできないという状態になったということを聞いている。しかし、18歳のマーガレットならともかく、約800歳のアイであれば、この大聖堂の建設が始まる前から生きている可能性もあるので、今のような答えになるのだろう。
そこまで考えてから、マーガレットは先を歩くシスターに声をかける。
「……ところで今回は大聖堂の奥で文献調査が始まったと聞いたのですが、そのきっかけは何かあったんですか?」
「依頼書の方に『ミカの聖書』について書いてあったと思いますが、それがきっかけです。偶然発見された隠し通路の奥にあったミカの聖書がどのようなモノかというところをミカに住む専門家の方に鑑定を依頼し、ここまで来てもらったところほかにもマジックアイテムが眠っているのではないかという話になったと聞いています」
「なるほど……そういうことなんですね」
長い歴史のある大聖堂だ。今更、『ミカの聖書』なるマジックアイテムに関しての鑑定依頼が来ることについて少々疑問を抱いていたのだが、それがつい最近発見されたとなれば話は変わって来る。シスターが偶然発見された隠し通路にあったというぐらいなのだから、何かしらの役割を持ったそれは人の目にさらされないようにひっそりと保存されていたのだろう。それを調査し、どういった役割があるのか明らかにする。なんともロマンがある話だ。
「この先が先ほどお話しした隠し通路の入り口です」
この先の調査について考えている間にどうやら隠し通路の入り口に到着できたらしく、シスターがマーガレットたちに声をかけ立ち止まる。しかし、そこにあるのはどう見ても石で作られた壁しかないように見える。
どうやって隠し通路とやらに入るのか疑問に思っているマーガレットたちの前でシスターが壁を構成している石を一つ一つ叩き始める。そうやって数分が経過すると、ゴゴゴッという音が鳴り、壁の一部がゆっくりと下に沈み始めた。
「なるほど。特定の場所を叩くと通路が出現するということですね」
「はい。その通りです。この先は暗くなっていますので足元に注意してください」
壁が沈み切ってから、シスターは手に持っていたランタンに火を灯し、目の前に現れた階段を下っていく。それに続くような形でマーガレットたちも隠し通路の中へと入って行った。
*
隠し通路の入り口からしばらく階段を下り、その先にある入り組んだ通路を進んでいくと、ようやく今回の文献調査の現場となっている広場にたどり着いた。
その広場にはまるで図書館のように多数の本が壁際に置かれた棚いっぱいに納められており、複数の関係者と思われる人々がそれを手に取り中身を調査していた。その中でも真ん中にある机の上に置かれたひときわ大きな本にマーガレットの視線が向かう。
「もしかして、あの机の上に置いてあるのは……」
「そうです。あれが『ミカの聖書』です」
「なるほど……」
そう言いながらマーガレットは『ミカの聖書』の前に立つ。
「この聖書の内容はどういったものになっているんですか?」
マーガレットの質問にシスターは申し訳なさそうな表情を浮かべながら答える。
「……それが、今のところ誰も見れていないんですよ。なので、これが本当にマジックアイテムなのか、それとも何かしらの魔導書なのか、はたまた魔力を帯びているだけのただの本なのか判別がついていないというのが現状でして……」
「……中身を『見てない』ではなく『見れていない』というのはどういうことでしょうか?」
マーガレットが質問すると、シスターは表紙の下の方を指さす。その先にはある文言が書かれていた。
『この本は、神の導きを受け、願いをかなえることができる者にのみ開かれる』
その文言を見て、マーガレットは小さくため息をつく。
「なるほど。まるで伝説の勇者の剣みたいですね……」
かつて、魔族との戦いにおいて活躍した勇者は『選ばれしものしか抜けない剣』を持ち、魔族との戦いに挑んだとされている。その結果、人類が劣勢だった戦いの構図は一気に変化をし、人類と魔族の戦いは人類の勝利で終わることができた。というのが約200年前の出来事だ。
「そうですね。まさしくそのような状況が当てはまるかと思います。一応、開けるかどうか確認してみますか?」
「えぇまぁダメもとでやってみましょうか」
その会話の後、マーガレットはミカの聖書を手に取る。ずっしりとした重さのある本だ。それをマーガレットはゆっくりと開く……というより、開けてしまったという表現の方が正しいのかもしれない。
ミカの聖書が開いた瞬間、マーガレットとアイ、シスターの間に沈黙が広がる。
「……あの、開いたんですけど……」
マーガレットがそういうまで沈黙が数分続いていた。そうなると、今度は周りにざわめきが広がり始める。
「ミカの聖書が開いた?」
「本当に開ける人がいたのか?」
「いったいどうなっているんだ」
周囲で調査をしていた人たちの視線が一気にマーガレットに集中し、マーガレットは一気に注目の的になる。
「せっかく開いたなら読んでみてほしいのです」
そんな中で一人アイだけが本の内容について尋ねてきた。
「えっと、そうね……とりあえず、読んでみましょうか」
そう言って、マーガレットはミカの聖書に視線を落とした。




