第69話
シャルロの森へと到着したマーガレットたちはカノンに挨拶をした後、さっそくと言わんばかりにリアの家を訪れていた。
マーガレットたちから事の次第を聞いたリアは小さく笑みを浮かべている。
「わっ私が少しでも助けになったならよかったです」
「少しなんかじゃないわ。今回の件はあなたの協力がなかったら解決できなかったもの」
「そう言われると、その……すごくうれしいです」
今回の件は南の大陸に住んでいるエルフの力で解決したわけだが、そのエルフたちとのつながりを作ってくれたのは間違いなくリアだ。そう考えれば、彼女の力がなければ解決しなかったというのもあながち間違ってはいないだろう。
「そう言えば、前は言わなかったんですけれど、気になっている情報がありまして……」
「気になっている情報?」
リアからの唐突な言葉にマーガレットは首をかしげる。すると、リアは少し空を仰いでからその『気になる情報』について話始める。
「その、実は少し前に北の大陸のエルフから『マーガレットという魔女を知らないか?』という連絡が来てまして……その、あの集会の後もマーガレットさんについてそのエルフに伝えるかという議論もあったんですけれど……とりあえずは保留になっている状況で……その、どうするのがよいかというのが、わからなくてですね……」
「北の大陸のエルフがですか? それはまた気になる話ですね」
リアの話に一番最初に反応したのはアイだ。
「そっそうなんですよ。それで……理由を聞いても答えてくれなくてですね……一応、心当たりがあるかだけ聞いてもいいですか?」
そう言って、リアはマーガレットの方へと視線を向ける。
心当たりがあるかと聞かれればルイス家のことだが、革新派であるルイス家の人間が保守的な勢力であるエルフを頼るだろうか? それとも、どこかのエルフがマーガレットの存在を利用してルイス家をつぶそうとして探し回っているのだろうか? いずれにしてもマーガレットにとって面倒な事態になるであろうということは間違いないだろう。もしも、エルフによって本当にルイス家が没落させられようとしているのならマーガレットはこそこそ隠れる必要はなくなるのだが、もしそうするためにマーガレットの存在を利用しようとしているのなら変な事態に巻き込まれたくはない。一番厄介な状況としてはルイス家が何かしらの理由でマーガレットを必要としており、なりふり構わずエルフに頼っているという事態だ。こうなると、下手に居場所を明かすと聖書集めの旅に支障が出ることは間違いないだろう。
「……あの、やっぱり何かあるんですか?」
リアを前にして深々と考え込むマーガレットを前にしてリアは不審そうな目をこちらに向ける。それに対してマーガレットはもう少しだけ間をおいてから返答をする。
「……いえ、何もないわ。こうしてアイを連れていることも彼女が希望してこうしていることだし……それ以外で何かあったのか考えていたのよ」
「そう、ですか……何もないのならいいですけれど……」
とりあえず、北の大陸のエルフがなぜ自分の居場所を探っているのかわからない以上は下手に情報を与えるわけにはいかない。そう判断してマーガレットは答えをはぐらかす。仮に自分を探している北のエルフが害を与えようとしているわけではないとしても、聖書を集めることに関して何かしらの支障が出ることはできる限り避けたい。そうなると、何も情報を与えないというのが正しい選択になるだろう。
「ただ、私がわからないだけで何かあるかもしれないから……その、できれば情報は渡さないようにしてほしいっていうのが私からの意見ね。ちょっと事情は言えないけれど、私もいろいろとやらないといけないことがあるから」
「……そうですか……わかりました」
なので、とりあえずリアに北の大陸のエルフに情報を渡さないようにお願いをする。と言っても、それを強制することはできない。なので、マーガレットたちとしてはリアが私たちについて北のエルフに情報を提供する可能性があると考えて行動した方がいいかもしれない。
「とにかく、今回の件は本当に感謝しているわ。それじゃあ、私たちはツリーハウスに帰るわね」
いずれにしても西の大聖堂に向かうまでの路銀は必要だ。なので、この森にこもって薬を売るという方針に変更はない。そもそも、この話を聞いてこの森を足早に離れるような行動をとれば彼女に『やはり何かあるのではないか』と思われたとしても文句は言えないだろう。
そう考えながらマーガレットは席を立つ。
「はい。また、何か用事があったら、その、気軽に来てください」
「えぇ。そうさせてもらうわ」
マーガレットはリアとそう言った会話を交わした後、アイと共にリアの家を出てツリーハウスに向けて歩き始めた。




