第67話
集会場での話を終え、シャルロの森の手前でリアと別れたマーガレットたちは再びザドの町を訪れていた。最も、今回の作戦は成果が出るまで時間がかかるのでザドの町で待っている意味はないのだが、手元の路銀からしてこのあたりで路銀を稼ぐのが一番いいとの判断からの行動だ。
「……『シスター独白。最近発見された秘密の部屋から流出する貴重な書籍』ねぇ……」
しかしながら、時間がかかるという感想は思ってもいない方向で打ち消されていた。マーガレットが手に取っているのはザドの町で人気の情報誌。そこに今回の件についての特集が載っていたのだ。
「いくらなんでも早すぎない?」
「まぁエルフはその気になればそれなりの情報網を持っていますからね。おそらく、私たちが移動している間にザドで活動しているエルフに情報が伝わったんじゃないですか?」
雑誌の内容をしっかりと読んでみると、実際にザドの大聖堂のシスターに取材をしたらしく、最近発見された隠し部屋からアルベルトの指示で文献を持ち出しているという証言を中心に記事は書かれている。マーガレットたちがシャルロを出発してからザドに到着するまでそこまで日数はかかっていないのでかなりのスピードで情報が出回っているということなのだろう。
「……こうやって見ると、エルフはできるだけ敵に回したくはないわね……」
これだけのスピードで情報を回せるとなると、いざ敵になった場合……よほどのことがなければないと思うが、不利な情報を流されてしまうと厄介なことになるのは間違いないだろう。それこそ、北部連邦におけるエルフの存在はその典型かもしれない。
「そうですか?」
そんなマーガレットの思考を知ってか知らずか、アイは無邪気な表情を浮かべて首をかしげている。それを見て、マーガレットは少し安心したような表情を浮かべる。
「まぁそんなに気にしなくてもいい問題かもしれないけれどね」
仮にマーガレットがエルフを敵に回すとしても、アイは味方でいてくれるだろう。それだけでもマーガレットからしたら十分だ。なので、この問題について深く考えることはやめた方がいいかもしれない。
そう考えながら、マーガレットは大聖堂近くの闇市が開かれていた場所を訪れる。
そこにはかつてとは違って、闇市を告知するビラはなく、怪しい商人の代わりに衛兵や自警団の姿があった。これはあまり長居してはこっちが怪しまれてしまうだろう。そう考えて、マーガレットはアイを連れてそのまま通りを抜けて大聖堂の周りを移動して魔道具店を訪れる。その理由はもちろん、ここの店主に今回の顛末について説明をするためだ。
「こんにちわ」
「あぁいらっしゃい」
マーガレットが魔道具店の扉を開くと、店主は上機嫌でマーガレットたちを出迎える。その手元には先ほどまでマーガレットたちが持っていた情報誌と同じものがあった。
「いやぁこれを手に衛兵と交渉してみたら、発信源がエルフだっていうこともあってようやく動いてくれてね……」
そこから魔道具店の店主からの話が始まる。彼女が言うには最初こそ、単なる情報誌に書いてあるだけのことで本当のことではないだろうと取り合ってくれなかったそうだが、シスターの実際の証言が載っているから本当のことである可能性が高いため、調べるだけ調べてほしいと懇願したのだとか。そうすると、衛兵も分が悪いと思ったのか、『調べるだけですよ』と言って渋々ながら動いてくれて今回のような状況につながったようだ。おそらく、彼らとしては町の衛兵や自警団が黙認しているという事実が広がる前に火消しに走ったのではないかということだ。今回の件で事件の首謀者であるアルベルトはその立場を追われることになり、一応今回の件は一旦は終了ということになる。最も、闇市を通して文献が多数流出してしまったことは事実であり、そのすべてを回収することははほぼ不可能であろうというのが残念なところであるのだが。だが、これ以上の流出を防げただけでも十分だというのが店主の見解だ。
その会話の後、マーガレットたちは魔道具店を離れてザドの大聖堂へと向かう。その理由はいたって単純で、流出していない文献に関して国から文献調査を依頼されたためだ。今回の文献調査についてもそれなりの報酬が出ると聞いている。なので、マーガレットとしてはこの先、西の大陸の大聖堂に至るまでの路銀を稼ぐためにその依頼を受けたという形だ。
「さてと……大聖堂にどれだけ文献が残っていますかね……」
「そうですね。さすがにある程度早い段階で止めたのでまったくないということはないと思いたいですけれど……」
マーガレットたちはそのような会話を交わしながらザドの大聖堂へと向かう馬車へと乗り込んだ。




