第66話
マーガレットたちがリアの家に到着した次の日。マーガレット、アイ、リアの三人の姿はシャルロの町の外れにある集会場にあった。集会場の中にはマーガレットたちのほかにシャルロの町に住んでいるという十数人ほどのエルフが集まっており、それぞれ雑談を交わしている。
そうした中で待っていると、眼鏡をかけた長い黒髪が目を引く女性のエルフが壇上に上がる。
「……皆様。本日は同志リアの声掛けに寄り集まっていただきありがとうございます。私は本日の司会進行を務めさせていただくナノです。それでは今回の緊急集会について同志リアより説明をしていただきます」
ナノと名乗ったそのエルフが話をした途端に雑談はピタリとやみ、皆の視線がナノの方へと向けられる。そんな中でリアが壇上に上がり、それに続くような形でマーガレットとアイが壇上に上がる。
「みっ皆様。本日はお忙しい中、お集まりありがとうございます……ほっ本日は北の大陸出身の同志アイとその関係者である人間の魔女マーガレットさんから……その、皆様にお話があるとのことで、集まっていただきました……」
リアの言葉により、いったんは静まり返っていた会場は少々ざわつき始める。そのことについてはある種当然かもしれない。本来ならエルフたちが集まって情報交換をするような集会に人間の魔女であるマーガレットが参加しているのだ。事情を知らないエルフたちが動揺するのも仕方ないと言えるだろう。
「皆様。お静かに」
そんな中で先に話を聞いていた司会のナノが言葉を発する。すると、会場は再び静寂を取り戻す。
「そっそれではアイさん……どうぞ」
リアはそう言ってからアイの方へと視線を送り、それにこたえるような形でアイは集会場に集まっているエルフたちに向けて話をし始める。
「皆様、本日は貴重な時間を私たちのために割いていただきありがとうございます。皆様に集まっていただいた理由ですが……」
そこからアイは淡々と話を進めていく。自分たちは今、北の大陸にあるミカの大聖堂で隠し部屋が発見されたことをきっかけに五つの大陸にある各大聖堂で文献調査を行っていること、文献調査に関してはとある事情から秘密で行われていること、その文献調査の結果、南の大陸にあるザドの大聖堂でも隠し部屋が発見されたこと、隠し部屋が発見された直後に自分たちは大聖堂を追い出され、それとほぼ時を同じくしてそこに収められていたとみられる文献がザドで開かれている闇市で売りさばかれていると思われるということ……
「……最後になりますが、私たちはあくまでも文献調査について表ざたにすることはできません。ただし、隠し部屋自体は私たち以外も目撃することが出来ます。ですので、これ以上の流出を防ぐために皆様の力をお借りしたいという所存です。なので、例えばシスターから秘密で聞いたという形で隠し部屋があり、そこから文献が流出しているという『真偽不明のうわさ』を流していただきたいと思っています。皆様の協力をいただけるようどうぞよろしくお願いいたします」
一通りの話を終えたアイは深々と頭を下げる。その話を聞いて、マーガレットは少なからず感心する。アイがエルフという種族であり、自分よりはるかに長生きしているというのは承知していたつもりだったが、こうして聖書のことを隠しつつ堂々と周りのエルフたちに今回の件について協力を仰ぐという彼女の姿を見て自分はまだまだだななどと考えさせられてしまう。おそらく、今回の聖書の調査が自分一人で行うモノだとしたら、こういったことはまずできなかっただろう。
「それでは質疑応答の時間に移らせていただきます」
そうした中で司会進行役のナノがそう声をかける。そこからは集まっているエルフたちからアイに向けて様々な質問が飛んでいく。例えば、隠し部屋についてどこまで詳細を教えてもらえるのかだとか、闇市で売買されている文献が本当に大聖堂から流出している物かどうかどの程度確信を持てているのかなどといったところだ。その質問に対して、アイは一つ一つ丁寧に答えていく。隠し部屋については現状、きっちりと調査を行ったミカの大聖堂とルッシの大聖堂では貴重な文献が多数収められており、自分たちが隠し部屋を発見した後に専門家を呼んだうえで文献調査が行われているということ、闇市で売買されている文献に関してはザドの大聖堂の中にある文献をしっかりと調査できていない関係上、本当に大聖堂から流出したものか確信は持てないものの、これまでも大聖堂の関係者しか手にできないようなものが売買されていたことからその可能性が高いことなど、アイはそれぞれの質問に丁寧に答えていく。
そうして話をしているうちに時間はあっという間に過ぎて行き、質疑応答が終わりアイが再び協力を願って頭を下げるころには集会開始から三時間ほどが経過していた。
「……それでは今回の緊急集会を終了とします。皆様、ありがとうございました」
ナノのその言葉で緊急集会は終わり、エルフたちは集会場から去っていく。
「……これでうまくいくといいんですけれどね……」
去っていくエルフたちの姿を見ながらアイがそのような言葉を漏らす。それに対してマーガレットはアイの頭をゆっくりとなでながら言葉をかける。
「大丈夫よ。あなたはあれだけ頑張ったのだから。きっとうまくいくわ。さて、私たちはいったん森に戻りましょうか」
マーガレットの言葉に対してアイは小さくうなづく。その後、マーガレットたちは集会場を出て森の方へ向けて歩いて行った。




