幕間13-2
マリーと一通り話をした後、アリスは旧校舎の中でも特に使われていない奥の教室を訪れていた。普段、アリスを含め誰も出入りしないため、ほこりまみれになっているその場所でアリスはある人物を対面していた。
「……待たせてすまないな」
アリスはギルドの知り合いに紹介してもらったエルフの探偵……カイに言葉をかける。
「いえいえ。こちらはいくらでもお待ちするので大丈夫ですよ」
待ち合わせ時間を過ぎていることを謝罪するアリスに対してカイはあくまでも笑顔を崩さずに返答をする。
「それで? 私からの依頼はこれで終わりだと思うのだがこれ以上に何か用事でもあるのか?」
「そう警戒しないでくださいよ。あくまでもちょっとしたお話をしたいだけですから」
アイが特別素直なだけでやはりエルフというのは簡単には計り知れないものがある。そう考えながらアリスはカイに視線を向ける。
「実はですね。マリーさんについて私からの進言がございまして……」
「進言? マリーの扱いについてということか?」
「はい。そうです。実はですね……」
そこからカイはゆっくりと話をし始める。最初に現状のルイス家は『表に明かすことのできないとある勢力』の影響で本当に没落使用になっているということ。二つ目はアリスの心が許すのならマリーを助手としてそばに置いておいてほしいということ。最後にルイス家はマーガレットを捕まえるために全世界に『魔女マーガレット』手配書を発行した実績があるということだ。
その話を聞いてアリスは深く考え込む。一つ目の情報に関して言うのなら、ルイス家が本当に没落するのならマーガレットはこれまで以上に動きやすくなるだろうし、魔法の研究についてルイス家の影を恐れることなく没頭することが出来る。二つ目の話については没落していくであろうルイス家からマリーを保護するのであればある種自然なお願いになるのかもしれない。ただし、看過できないのは最後の情報。ルイス家が『魔女マーガレット』の存在を認識していることはマリーが直接接触してきた時点で判明済みだが、その捜索範囲が全世界に及んでいるとなるとあまりにも厄介な状況だ。その情報をそのままうのみにすると、マーガレットは北部連邦の外に出るためにメアリで高い金を積んで新しい身分証を作った意味がなくなってしまったということを意味するからだ。マーガレットがそのことについて情報を得ているのかどうかは不明だが、仮にそのことが事実である場合、マーガレットの聖書集めの旅に支障が出ることは間違いないだろう。
「ふむ。なるほど……念のため聞いておくがルイス家がマーガレットの動向を把握している可能性は?」
「それは低いと思いますよ。もし仮にルイス家がマーガレットさんの行方をしっかりと把握していれば今すぐにでも捕まえて連れ戻そうというぐらいの勢いのようですからね。それに全世界に手配書をばらまいたのは二回か三回ぐらいで、その後は今まで通り北部連邦の中に捜索範囲を絞っているようです」
「そうか……」
カイの言葉を聞いてアリスは少し安心する。もちろん、二回か三回ぐらいばらまかれた手配書が原因でマーガレットが発見され、ルイス家に無理やり連れ戻されるという可能性が完全になくなったというわけではないのだが、仮に手配書を手にした人間がマーガレットを捕まえようとしたところで彼女はそう簡単には捕まることはないだろう。それにマーガレットはアリスに対しても自らがどこで何をしているかという手紙を一切よこしていない。それに関して別に思うことはないが、そのぐらいマーガレットは聖書集めに関して慎重に行動しているともいえるのかもしれない。
「……有用な情報感謝する。これに関しての報酬は……」
「あぁそのあたりは結構ですよ。私が勝手に調べて勝手に付け足して話をしただけのことですので……私は部外者なのであくまでもお願いをするだけですが、マリーさんについて再考のほどよろしくお願いします」
そう言ってからカイは少しだけ頭を下げる。別段、単なる探偵である彼からすればマリーのことはどうでもいいのか、はたまた仕事に情を挟みすぎるのは良くないと考えているのかもしれない。
「まぁそうだな。仮にルイス家がこれから本当に没落するのなら彼女は本当に路頭に迷うことになる。ただ、ルイス家と私の助手としての立ち位置。どちらを選ぶかは彼女自身がするべきだ。だから、そのあたりについては保証はできないよ」
「えぇそれはもちろんです。私は情報を提供するだけであなたの行動を制限しうる立場にはありませんから。それでは、私はこのあたりで失礼させていただきます」
そこまで言ってからカイは席を立ち、アリスの方に深々と頭を下げてから部屋を出ていく。その姿を見送ったアリスは深くため息をつく。
「……『表に明かすことのできないとある勢力』ねぇ……ルイス家が革新派であることを考えれば高確率でエルフだろうな」
そうつぶやいてからアリスは席を立ち、部屋を後にした。




