第64話
冒険者ギルドで報酬金を受け取った後、マーガレットとアイは互いに無言で宿へと向かっていた。頭にあるのは今回の件に関して何とか解決できないかということだ。しかし、聖書のことを話すことが出来ない以上、大聖堂の隠し部屋について公にすることはできないし、この問題にかかわりすぎるとこの先の旅路に影響を及ぼすことは目に見えている。
「……どうしたものかしらね……」
マーガレットがようやく口を開いたのは宿の手前に差し掛かったころだった。
「どうしたもこうしたも解決できなくないですか? 衛兵や自警団、冒険者ギルドまで味方をしてくれないとなると、どうしようもありませんよ」
「まぁそう言う話になるわよね……」
そこまで話をしてマーガレットは深くため息をつく。今回の件に関して思うところはあるが、実際問題どうやって対処していいのかわからないというのが現状だ。いや、この場合何も対処しないというのが正解だと言われてしまえばそれまでなのだが……
「残念だけど、この件に関しては何も聞かなかったことにしてこの町を離れるしかなさそうね」
気が付けば、マーガレットはそうやってあきらめの言葉を口にしていた。それに対して、アイは少しうつむいたままで言葉を放つ。
「……手段。ないことはないかもしれないです」
「そうよね……手段なんて……」
『ない』と言いかけて、マーガレットは一旦言葉を飲み込む。
「手段がないことはないっていうのはどういうこと?」
マーガレットの言葉に対して、アイは少し周りを見回してから返答をする。
「とりあえず宿の部屋で話しましょう」
そう言ってからアイは宿に入り、マーガレットもそれに続くような形で宿へと入って行った。
*
「エルフの情報網を活用する?」
アイから『手段』について一通りの説明を受けたマーガレットは意外そうな表情を浮かべながらそう答える。
アイ曰くエルフというのは同種同士のつながりが強く、北部連邦ほどでもないにしても、南部連邦の中でもそれなりに情報網が成立しているはずだとのことだ。なので、その情報網にアクセスし、今回の件に関して情報を流せば少なからず協力してくれるエルフが出てくるだろうとのことだ。
「でも、南部連邦でエルフの知り合いって言うと……」
「シャルロの森に住んでいるリアですね。彼女がどの程度ほかのエルフとかかわっているのかはわかりませんが、彼女を通して大聖堂に眠っている文献が危機にさらされているという情報をエルフの間で流してもらうのがいいと思います。もちろん、聖書のことは伏せて話をすることになるのでどういう形で話をするのかは考えなければいけませんけれど……」
「なるほどね……でも、情報が流れたところで何か動きはあるのかしら?」
マーガレットの疑問に対してアイは自信ありげな表情で返答する。
「そこらへんは大丈夫ですよ。彼女がほかのエルフとかかわりがあるのなら上手に『うわさ』を流してくれるはずです。闇市というのは知る人ぞ知るという状態だからこそ成り立つのであって、多くの人が知ってしまえば衛兵や自警団も動かざるを得なくなると思います。そうなれば、闇市を開いている主催者が誰かというのも白日の下にさらされるはずです。まぁ最も、高い確率で黒幕はアルベルトでしょうけれど」
「なるほどね……確かに『うわさ』が広く広がるという状況はあちらにとっては避けたいことかもしれないわね……」
アイの作戦に対してマーガレットは一程度の理解を示す。確かにあのような闇市の存在が一般市民に向けて広がれば広がるほどあちらにとっては動きにくくなるだろう。となれば、闇市の摘発まではいかなくても闇市自体をやめさせることぐらいはできるかもしれない。そこまで考えて、マーガレットはアイの目をまっすぐと見て言葉を紡ぐ。
「とりあえず、その作戦に乗りましょうか。だとしたら、まずはシャルロの森に戻らないといけないわね」
「はい。あとはリアに動いてもらうにあたってそれなりの報酬を用意しなければいけないと思いますけれど……」
「あぁ大丈夫よ。そのあたりについては少し考えがあるわ」
マーガレットはそう言ってからアイに自らの考えについて話をしていく。闇市をつぶしてもらうぐらいだ。それなりの報酬は用意すべきだろう。と同時に自分たちには持ち合わせがあまりない。しかし、私たちと同じく闇市を何んとないてほしい人……冒険者ギルドに調査を依頼した魔道具屋の店主がいる。マーガレットとしては魔道具屋の店主と話をして今回の件に関するギルドからの報奨金を元手に何かしらの『手土産』を用意しようという魂胆だ。
「なるほど。確かにあそこの店にはいろいろな魔道具がありますし、私たちエルフからすればほしいものというのも少なからずありそうですね」
「でしょ? ただ単に現金を持っていくよりも効果的だと思わない?」
その会話の後、マーガレットたちはギルドから受け取った報奨金の額を確認し、大聖堂近くの魔道具店へと向かっていった。




