第63話
闇市が開かれる当日。マーガレットたちの姿は闇市の会場にあった。
「さてと……話を聞いた限りではもう少しこそこそとやっているイメージでしたけれど……」
「結構堂々とやってますね」
肝心の闇市は思いのほか堂々と行われていた。闇市では普通の市場には出回らないような怪しい品が当然のように売買されており、よくよく見てみるとその中には魔導書なども含まれている。
「うーん……これは諸悪の根源を捕まえようというのは難しいかもしれないわね……」
「そうですね。ここまで堂々とやられると逆にこの町に深く根付いているという見方もできますからね……」
「そうなのよね……衛兵や自警団も動かないみたいだし、どうしたものかしら……」
一瞬、マーガレットの頭の中に今回の件に関してはあきらめた方がいいのではないかという考えが浮かぶが、それは選択肢としてよくないだろう。別に普通の支給品が出回るぐらいならいいのだが、大聖堂の貴重な文献が出回っているとなると話が変わって来る。もし、聖書が収められていたあの部屋にあった文献が不当な形で流出しているとなれば、その流れを止めるぐらいのことはしなければならない。
「よお。そこの魔女さん。俺の店で魔導書を買っていかないかい?」
考え事をしながら通りを歩いているマーガレットに声がかかったのはちょうどそんなタイミングだった。その声に反応するような形でマーガレットが振り向くと、少し年老いた男性がふらふらと手を振っていた。
「……魔導書ですか。それはどこから仕入れたものですか?」
「くくっ魔女さんはここに来るのは初めてかい? だったら親切に教えてやるがそう言うことは聞かないのがここのルールだぜ。それで? この魔導書は買うのかい? それとも買わないのかい?」
そう言いながら店主の男性は分厚い魔導書をマーガレットの方へと差し出す。
「……そうですね。せっかくの機会ですし、購入したいところですが手持ちがないんですよ……興味本位で見てるだけなので気にしないでください」
「ほう。そうかいそうかい。まぁ買う気になったらまた声をかけてくれ」
そこまで話をして店主との話は終わり、マーガレットたちはその出店を離れる。
「うーん。これは私たちの力だけでは解決できそうにありませんね……」
「そうね。でも、誰に助けを求めればいいのかもわからないわね」
結局、その日はマーガレットたちは闇市で怪しげな取引が行われていることをただただ見るだけで、時間がどんどんと過ぎていく。
「はぁ……どうしたものかしら……」
マーガレットは大きなため息をつきながら、闇市が行われている会場から離れて行った。
*
闇市の現場を確認した次の日、マーガレットたちは魔道具店の店主に確かに魔導書や古文書の取引が行われているという報告をし、その後に冒険者ギルドに足を運んでいた。
「……なるほど。闇市ですか……確かにこの町では少々前から闇市自体は存在していますが、そこで売買されているとなると厄介ですね……」
マーガレットから一通りの顛末を聞いた受付嬢は眉をひそめながら返答をする。
「……どうして闇市がこうも堂々と開かれるようになったのかはわからないんですか?」
「うーん。そうですね……ここだけの話、闇市に関しては主催者が衛兵や自警団を買収していて、そのあたりの勢力から邪魔が入らないようになっているんですよ……なので、国の方に通報したところで無駄ということになってしまうんですよね……実際問題、この案件が闇市がらみとなると冒険者ギルドとしても首を突っ込むことが出来なくなってしまいますし……」
そう言ってから受付嬢は大きくため息をつく。
「ギルドが首を突っ込めないというのは?」
マーガレットが質問をすると、受付嬢は声を潜めて返答をする。
「……実はギルドマスターの方から闇市には関わるなと言われてまして……なので、闇市がらみとなると今回の依頼はなかったことになる可能性が高いかと……」
「つまり、闇市で売買されているとなるとギルドも関われないという認識で良いですか?」
「はい。残念ながら」
闇市がかなり堂々と開かれている時点でこの問題は根深いだろうと感じていたが、冒険者ギルドにまで根回しがしてあるとなると相当だ。となれば、この町でほかに味方がいないマーガレットたちとしては『あきらめる』ということが真剣に選択肢に入ってくる。本音としてはどうにか魔導書や古文書の流出を食い止めたいところだが、自分たちの本来の目的は聖書を集めることだ。ここで下手に個人でこの問題に首を突っ込んで大きな問題となってしまった場合、聖書集めの旅に支障が出ると考えられる。
「……となると、これは問題を把握しながらも放置という形になるんですかね?」
「そうですね……残念ながらそうなるかと。あとでギルドマスターに確認を取りますが、一応報酬金の方はギルドで用意して支払わせていただきますので、どうかこれ以上は首を突っ込まないようにしていただきたいというのがギルドの立ち位置になるかと思います」
マーガレットの質問に対して受付嬢はより明確な答えを提示する。こうなると、マーガレットたちは知らない土地で完全に味方がいないという状況になってしまう。
「……わかりました。では、その方向でお願いします」
誰も支援してくれない以上は闇市をやめさせることなどできないだろう。マーガレットはそう考えてギルドからの提案を受け入れざるを得なかった。




