第62話
魔道具店を出て大聖堂の周りをぐるりと半周ほど回ると、闇市が開かれているという路地裏のところまでたどり着く。闇市は常に開かれているわけではなく、不定期での開催とのことだが、そのことを利用して会場とされる場所周辺を念入りに調査していく。というのも、こういった調査では危険がつきものなのでもしものことがあったときに逃げるルートというのをちゃんと把握しておく必要があるからだ。
「それにしても思っていたよりも闇市が開かれる場所が広いですね……」
「そうですね。ついでに集まってきた情報によると、闇市では大聖堂関連の物品以外にもいろいろと怪しいモノも売買されているようですし、この町の闇は思っていたよりも深いかもしれませんね……」
「そうね。となると、これは私たちだけで解決できる問題なのかしら……」
自分たちの目的としては大聖堂から貴重な文献が流出しているという疑惑に対する対処だが、中途半端に首を突っ込むといろいろと面倒なことに発展してしまうような気もしてくる。しかし、マーガレットとしてはせっかく自分たちが苦労して発見された文献が闇市に流れ、特定の人間の私腹を肥やすことになっていくという点については納得がいかない。ともなれば、なるべく自分たちへの被害は減らしつつ、大聖堂に関する部分だけ調査をし、証拠を押さえ、犯人を特定するという流れになるのだろうが、そうもうまくいくものだろうか?
そこまで考えて、マーガレットは深くため息をつく。
「勢いで来ちゃったけれど、思ったよりも面倒なことに巻き込まれてしまったような気もするわね……」
「でも、私たちの発見でアルベルトが私腹を肥やしているのは許せませんよ」
「まぁ確かにそれはそうなんだけどね」
この調査の一番の問題は直接大聖堂のモノと思われる文献を売買している人間を特定し、捕まえるのもそうなのだが、その人物とアルベルトがかかわりがあるという証拠をつかむというのも一つの壁だろう。さすがにアルベルトほどの立場にある人間が直接自らの手を使ってこういったところに来るとは考えづらく、仮にここにモノを売りに来ている人間を捕まえたところでトカゲのしっぽ切りのような形で自分は関係ないと主張するだろう。いや、下手をすればこちらに非があるような主張をしてくるような可能性すらある。ともなれば、安全性を考えれてこの調査はかなり慎重に進める必要がある。
「さてと、会場は大体見終わったし、次の開催までいったん宿で待機しましょうか」
そんなことを考えている間に会場の下見は終わり、マーガレットはアイに声をかける。もちろん、マーガレットたちは闇市についていつ開かれるかという情報を持っていないため、この場所に毎日通うことになる。一応、魔道具店の店主にどの程度の頻度で開かれているのか知っているかと尋ねてみたが、そのあたりについてはわからないという回答だったからだ。もちろん、毎日のようにこのあたりをうろついていては怪しい人間だと思われるかもしれないが、今回の調査を行う上ではある程度のことはやむを得ないだろう。
「はぁなるべく早く終わるといいのだけど……」
これからこなすべき課題を考えるとこの調査を早急に終わらせるのは難しいだろう。まずは証拠集め、そこから元凶の特定……さらに懸念事項を上げるとすれば、今のところマーガレットたちとしてはアルベルトが犯人だと踏んで行動しているがそれが本当に正しいのか調査をするという段階も踏まなければならないだろう。
「とりあえず宿に戻りましょうか」
「そうですね」
マーガレットたちはそのような会話を交わした後、会場となっている通りを離れて宿へと向かっていった。
*
調査開始から約三日後。マーガレットたちは闇市に関する具体的な情報を手にしていた。通りに目立たないように張られていた案内によると次の闇市が開かれるのは二日後。時間は夜となっていた。となれば、その時間にこの場所に来て調査をするということになるだろう。念のために冒険者ギルドを通して町の衛兵や自警団にこのことを伝えてみたが、そちらの方は動く気配はない。おそらく、何かしらの形で買収をされているのかもしれない。
「なんだかこの町の闇を見ているような気分ね……」
「確かにそうとも言えるかもしれませんね」
衛兵や自警団が黙認している以上、闇市はやりたい放題ということだろう。となれば、もしも大聖堂からモノが流出しているという証拠をつかんだときはどういう風に立ち回るのが正解なのだろうか? 通常であれば、衛兵などに突き出すのだが今回の場合は証拠をつかんで通報したところで取り合ってくれない可能性がある。そう言う事情や自分たちの身の安全を考慮すると冒険者ギルドにそういった事実があったと報告するのが精いっぱいなのかもしれない。
「はぁ……なんだか、やる前から負け戦って感じがして悔しいわね……」
マーガレットがぽつりとつぶやく。
「大丈夫ですよ。こっちは冒険者ギルドからの依頼を受けて動いているんですから」
「まぁそうね。万が一の場合は冒険者ギルドに守ってもらいましょうか」
マーガレットたちはそのような会話をしながら二日後に向けて準備を進めて行った。




