第58話
ザドの大聖堂の近くにある裏通り。マーガレットはとあるシスターに教えてもらった場所へと向かっていた。
「それにしても、休日に魔道具店に行くだなんて本当に魔法が好きなんですね」
地図を見ながら上機嫌な様子を見せるマーガレットに対して、アイは少々呆れたような表情を浮かべながら対応する。
「別にいいじゃない。もともと私の趣味はマジックアイテムや魔導書の収集なんだもの」
「まぁマーガレット様がそれで休まるのならいいですけれど……」
そのような会話を交わしながら歩いていると、マーガレットは裏路地にひっそりと看板を出している店を視界に収める。
「ようやく着いたわね」
そう言うと、マーガレットは小走りで店の前まで行き、何も躊躇することなく店の扉を開ける。
「いらっしゃい」
マーガレットが店に入ると、店主とみられる白髪で背の低い老婆がマーガレットを出迎える。
「どうも。大聖堂のシスターさんにここに珍しいマジックアイテムが売っていると聞いてきたんですけれど……」
そこまで会話を交わしたところで路地で置いてけぼりになっていたアイが追い付いてくる。
「待ってください……いきなり走らないでくださいよ……」
マーガレットに続くような形で入ってきたアイを視界に収めた店主は驚いたのか、少々目を丸くする。
「おやおや。その子はエルフかい? このあたりでは珍しいねぇ」
「えぇ。私の弟子なんですよ」
マーガレットの説明を聞いた店主はますます目を丸くする。
「ほほぅ人間の魔女とエルフの弟子……長く生きていると変わったものを見るもんだねぇ。まぁかわいいお嬢様方、ゆっくりと店内を見て行っておくれ」
「はい。ありがとうございます」
マーガレットは店主にお礼を言った後、店内の散策を始める。店の中には所狭しと棚が置かれており、そこには数々の魔導書やマジックアイテムが収められている。その中でマーガレットはふとある魔導書に目線を持っていかれた。
「『探し物をすぐに見つけられる魔法』?」
表題に書いてあることが本当なら今すぐにでも欲しい魔法だ。マーガレットが店主の方を見ると、彼女はにっこりと笑顔を浮かべながら返答をする。
「それが欲しいのかい?」
「はい。ぜひ。お値段を聞いてもいいですか?」
そこからマーガレットは店主から魔導書の値段を聞いて、この先の路銀のために取っておいたお金の中からそれを支払う。路銀としてのお金も大切だが、目標を達成するためにも必要なお金としてみても大切なものだという判断からだ。
「マーガレット様。それ、本物ですか?」
あまりにもべたというか、都合の良すぎる魔導書にアイは眉をひそめているが物は試しだ。魔導書を買って、読んで、試してみる。それだけの価値があるとマーガレットは判断したのだ。
「それじゃありがとうねぇ。またいつでも来ていいよ。ただし、返品は受け付けないからね」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
ニコニコと笑う店主を背にしてマーガレットは店を出る。
「さて、さっそく宿に戻ってこの魔導書の中身を確認してみましょうか」
マーガレットはアイにそう声をかけて宿の方へと歩き始めた。
*
路地裏の店で魔導書を買った次の日。マーガレットはさっそく『探し物をすぐに見つけられる魔法』を使って大聖堂の中を探索していた。
「……あの魔導書の説明通りならこの光のさす方向に『例の本』があるはずですけれど……」
魔導書に書いてあった魔法というのはいたって単純なもので、自分が探している物を頭の中で思い浮かべながら付属品となっているマジックアイテムの青い石を持っていると、それがある方向に導いてくれるというモノだ。マーガレットはその青色の石から放たれている光線を真剣に見つめながら大聖堂の中を歩いて行く。
「大体の場所の目安をつけるのにはいいかもしれませんが、次に問題になるのはその場所にどうやって行くかですよね……それが本当に探し物を見つけてくれればですけれど」
「まぁやれるだけやってみましょう」
実際問題、この魔法で聖書の代替の位置が分かったとしても次にそこへとたどり着くための通路を探さなければならない。しかし、何の手掛かりもなく大聖堂の中をぐるぐると歩き回るよりは幾分か効率がいいのは確かな事実だ。
そうして歩いていると、石から放たれる光線がある壁の周りをまわるような形で放たれていることに気が付く。
その場所は一見すると壁に囲まれていて何もない場所なのだが、おそらくここを囲う壁の中に何かしらの空間があるのだろう。
「ほら。ちゃんと位置を絞り込めましたよ……後は入り方ですね。このあたりを徹底的に調査してみましょうか」
そう言ってからマーガレットとアイは空間を囲う壁やその周りの床を叩いてみたり、何かしらの変化がないかじっくりと観察していく。
そうすると、南側の壁を叩いたときにほんの少しではあるが音が変化する場所を発見することが出来た。
「おそらく、このあたりの壁を順番通りに叩ければ発見できそうですね」
「……そうですね。やるだけやってみましょうか」
その会話の後、マーガレットたちは徹底的に周囲の調査を行っていった。




