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魔女と汽車-人間の魔女とエルフの弟子-  作者: 白波
第12章 ザドの大聖堂

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第57話

 ザドの町の一角にある小さなカフェ。通り沿いのテラス席でマーガレットとアイはコーヒーを飲みながら一息ついていた。当初、マーガレットは手配書の件があるので店の奥の方の席に行こうとしたのだが、アイが『下手にこそこそするよりも堂々としていてもいいのではないか』という意見を出したため、ここに座ったという流れだ。実際問題、この町に到達してから一か月ほどが経過するが、誰かがマーガレットたちをつけていたりだとか、冒険者ギルドにマーガレットたちに関する手配書が貼られていたりだとかそういったことは今のところないからだ。最も、手配書に関してはついて以前はどうだったかはわからないが……

 現状のところ、一週間に一回アイが冒険者ギルドに行ってマーガレットに関する手配書が貼られていないか確認する以外は宿と大聖堂を往復するだけの生活を送っていたので、こういったゆったりとした時間はとても久しぶりに感じる。

「それにしても、この町に着いたくらいから手配書を見て追いかけてくるような輩……というか、手配書自体がなくなったようね……ルイス家は私のことをあきらめたのかしら?」

「そうですね。そうだといいのですけれど……」

 今のところ目の前の懸念はアルベルトに大聖堂の調査を拒否されることだが、それ以上に脅威なのはルイス家の手配書を見て、そこに書かれている賞金を狙った追手だと言えるだろう。もし仮にルイス家に連れ戻されるような事態になれば、聖書の調査どころの話ではなくなってしまう。ただ、これに関して一言いうならばルイス家がどういった事情で、もっと言えばマーガレットをどうしたいのかによってその先の対処は変わって来ると言えるだろう。本来なら、ルイス家がなぜマーガレットを連れ戻したいのか調べたいところなのだが、残念なことにここはルイス家がある北部連邦から一番遠く離れている南部連邦だ。そういったことを調査してくれるような知り合いもいないし、例えば数少ない信頼できる人間であるアリス教授にそれとなくルイス家の動向について調査を依頼しようにも、アリス教授は魔法以外のことに関しては専門外である上に彼女のそばにはルイス家の人間であるマリーがいる。そういった意味ではアリス教授に対しては現状報告すらできないと言えるだろう。

 一方で北部連邦で探偵をやっていたアイの情報網が使えるかと聞かれるとそれも微妙な状況だ。というのも、アイの情報網もまた北部連邦内に限られているし、下手に動いてルイス家にこちらの居場所がばれるようなことがあれば元も子もない。そうなれば、北部連邦に行く必要が出ない限りはこうしてのらりくらりとほかの国で過ごすことが最適解だと言えるのかもしれない。

「……あぁいや。せっかくの休みなのにこうしてもやもやすることを考えても仕方ないわね……切り替えましょうか」

 そこまで考えて、マーガレットはルイス家に関して考えることをいったんやめる。せっかくの休みなのだ。大聖堂の調査をこの先もスムーズに進めるためには余分なことを考えずにしっかりと休息をとることが大切だと言えるだろう。

 マーガレットは少し深呼吸をしてから少し冷めてしまったコーヒーを口に含む。

「……うん。ここのコーヒーはおいしいわね」

「確かにそうですね。お店の入り口にもコーヒーが売りだと書いてありましたし、自信があるのでしょうね」

 そう言ってからマーガレットは少し笑みを浮かべながら口を開く。

「……それにしても、今までいろいろとマジックアイテムや魔導書の調査のために遺跡に出入りしたりしていたけれど、これほど難航するのはなかなかないわね」

「そうなんですか? 私からすればそう言うのって一か月そこらで終わるようなイメージはないですけれど」

 アイの言葉に対してマーガレットは少し首を横に振ってから答える。

「あなたが文献調査にどういったイメージを持っているか知らないけれど、大体の遺跡は調査されつくしていて、あとに残ってるのはその場で価値がなしと判断されたマジックアイテムだったり魔導書だったりだから結構簡単に見つかるものなのよ。だから、私の感覚としては遺跡の調査にものすごく労力がかかったりするイメージはないわ。例えば、ミカの大聖堂での出来事のようなことがなければね」

「なるほど。確かに最近は一から調査しなければならない遺跡というのは少ないかもしれませんね。でも、せっかく調査するのならまだまだ秘密が隠されているような遺跡とか探ってみたいところですけれど」

「……そうね。そう言うのはロマンがあるかもしれないけれど、下手に手つかずの遺跡を調査して歴史的発見をしたとすれば、私の立場からすると厄介な事態になるのよ。実際問題、現在進行形でルイス家から追われているわけだし」

「……あー確かにそうかもしれませんね。そうなると、マーガレット様が経験している調査というのは比較的簡単なモノが多いということですか?」

「まぁそうとも言えるわね」

 その会話の後、マーガレットはコーヒーを飲み干してカップを机に置く。その後、アイがすでにコーヒーを飲み終わっているのを確認し、伝票を手に取って席を立った。

「さて。そろそろこの店を出ましょうか」

 マーガレットはアイにそう声をかけてから席を離れる。

「えーもうちょっとここにいてもいいんじゃないですか?」

「ちょっと行きたいところがあるのよ。それに付き合ってちょうだい」

 マーガレットがそう言うと、アイはしぶしぶ席を立ってマーガレットの背中を追うような形で歩き始めた。

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