第56話
ザドの大聖堂で調査を始めてから約一週間。今回も例にもれずマーガレットたちは調査に苦心していた。相変わらず手掛かりというほどの手掛かりはないし、さらに言えばアルベルトがあまりにも非協力的な態度をとっているという点も挙げられる。
前の調査では大聖堂の担当者であるダニエルがかなり強力的な態度をとってくれていたので手掛かりがないながらもある程度スムーズに事は進んでいたのだが、今回のように大聖堂の担当者の協力がないというのは調査の難易度を幾分か上げてしまっているのは確かな事実だ。
「はぁ困ったものですね……」
「調査自体が極秘の上に担当者の協力皆無ですからね……ここに来て大きな壁に当たっているような感じがします」
最も大聖堂の担当者とのやり取りと言えば大聖堂の中の案内だとか、大聖堂の中での各区域への立ち入り許可の申請だとかそういったことぐらいなのだが、彼は案内は全くしてくれないし、それぞれの区域への立ち入りについても許可はしてくれるものの、その区域の中に入ってからの自分たちの立場についての説明……つまるところ、『文献調査』で歩き回っているのだという点については自分たちで説明しなければならないという状況になっている。と言っても、アルベルトの態度は外部の人間だけではなく内部の人間に対しても同じようなモノなのか、たいていの人は『大変ですね』だとか『頑張ってください』だとかそう言った言葉をかけて具体的にどういった文献の調査(本当のことは言えないので大聖堂に歴史的に貴重な文献が眠っている可能性があることになっている)をしているかなどという細かいことは聞いてこないのでそのあたりについてはある程度助かっていると言えるだろう。
「はぁ当初の計画だったらある程度この大聖堂にいるつもりでしたけれど、こうなって来ると早く次に向かいたくなるわね」
「それはそうかもしれませんけれど、あまり焦ると大事なことを見落とすことになるかもしれませんよ」
「……まぁそれはそうかもしれないけれど」
マーガレットとアイは今日もそのような会話を交わしながら、壁や床を叩いてみたり天井に違和感がある個所がないか探してみたりという地道な調査を続けて行った。
*
大聖堂の調査の調査を始めてから三週間目の夜。今日も今日とて成果を得られずに宿に戻ったマーガレットは日記帳を熱心に書いているアイの隣で特大のため息をつく。
「はぁ……いつになったらザドの聖書は見つかるのかしら……」
ルッシの大聖堂での調査がかなり順調に進んだので、ここでもそうなるのだろうと少しばかりながら考えていたのだが、今回は前回に比べると大きく調査が難航している。
どうしてこういうときに限って手掛かりすらつかめないのだろうか? 案の定、アルベルトは大聖堂の中を探し回っても聖書が見つからないことに対して勝手にいら立ちを見せ始めているし、『すべての大聖堂に聖書があるなどということは本当なのか』などということを言い出している始末だ。マーガレットとしてもミカの大聖堂とルッシの大聖堂に置いてある聖書には共に五つの大陸にある聖書を集めなさいと書かれていたのでザドの大聖堂にも聖書があってしかるべきだという立場をそのたびに丁寧に説明するのだが、こんな様子ではいつ調査が打ち切られても不自然ではないだろう。まぁ最も今回の調査はマーガレットたちが勝手にやっているわけではなく国がかかわっているのでよほどのことがない限りはそこまではいかないだろうというのがある意味では救いなのかもしれないが……
「……にしても、根を詰めて調査というのは疲れるわね……明日はいったん休もうかしら……」
「それはアルベルトの許可がである前提ですよね? 私としてはまず出ないと思いますけれど……」
マーガレットの休みたい宣言に対して、アイは怪訝そうな表情を浮かべて返答をする。
「いいでしょ。いうだけならタダだし……まぁダメだった時に備えて今日はそろそろ寝ましょうか」
「えぇいいですよ。そうしましょうか」
マーガレットがベッドに寝転がるころにはアイは日記を書き終えていて、彼女も共にベッドに寝転がる。
その姿を確認したマーガレットは灯りを消して眠りについた。
*
次の日。マーガレットから調査を一日か二日程度休みたいという申告を受けたアルベルトはある種予想通り怪訝そうな表情を浮かべた。
「休みだと? 何の成果も得られていないのにか?」
「成果を得るためですよ。疲れてへとへとの状態が続けば見つかるべきものも見つからなくなるじゃないですか」
マーガレットの言葉に対して、アルベルトは少しだけ考えるような表情を浮かべてからこちらをにらみつける。
「……ふん。まぁいいだろう。ただし、休むからにはちゃんと成果を出せよ」
「わかりました。いつになるかはお答えできませんがちゃんと成果を出せるように努力は欠かさずしますよ」
そういった会話の後、マーガレットはアイを連れて大聖堂を出る。大聖堂の入り口付近で待機していた御者に声をかけて事情を話し、マーガレットたちはそのまま大聖堂を離れた。




