第55話
五つの大陸にある大聖堂というのはある程度作りが似ているのか、マーガレットたちはアルベルトの案内でミカの大聖堂やルッシの大聖堂にもあったステンドグラスがいくつもあしらわれ、いくつもの長椅子が並ぶ礼拝堂を通り抜け、その奥にある回廊へとたどり着いていた。その間、マーガレットたちはひたすら無言で案内され、アルベルトが次に口を開いたのは回廊の端にある個室に入ったときだ。
「……まったく。神に選ばれし者だとかなんだとか聞いたが、エルフを連れた魔女だったとは……世の中はどうなっているかわからないものだな」
「それはどういう意味ですか?」
マーガレットが尋ねると、アルベルトはふんと鼻を鳴らして答える。
「そのままの意味だ。君たちのような人間に神の意志を代弁するような資格があるようには見えないということだ。まぁだからと言って私がどうこう言う資格はないのだろうがね」
どうやら、アルベルトは何か勘違いしているのかもしれない。マーガレットたちは偶然聖書に選ばれただけであり、その選別基準すらいまいちわかっていないような状況だ。そういった中で、特段神の意志を代弁するだとか、自分たちが特別な人間だとかそういったことは思った覚えはない。
「私は別に自分が特別だとは思っていませんよ」
なので、マーガレットは思ったことをそのまま口にする。しかし、アルベルトはその返答が気に入らないのかさらにマーガレットに突っかかって来る。
「そうか? 特別な者にしか開くことが出来ない聖書を開くことが出来るんだろう? だったら、特別な人間だと考えて間違いない。そんな特別な人間が得体のしれない魔女でしかもエルフを弟子だと言って連れまわしている。これほど不可思議なことはないと思うがね」
どうしてこの人間はこうもけんか腰なのだろうか? 最も、このままアルベルトとけんかをしてしまっては調査すらできなくなる可能性があるのでマーガレットはいろいろと思うところがあるのを引っ込めて話を前に進めようと試みる。
「……まぁあなたにどう思われていようが私たちがやることは変わりません。『文献調査』に関しては協力していただけるという点については理解いただいていると認識してもいいですか?」
「あぁもちろんだ。私としても神の意志に反するようなことはしたくない。だから、君たちのような人間でもこの大聖堂に出入りし、調査すること自体は許可してやろう」
どうしてこの人は徹底的に偉そうに話をしているのだろうか? 別にマーガレットとしては自分たちのことを敬えというつもりはないが、ある程度の礼儀は尽くしてほしいとは思うところだ。
「はい。そうですか。わかりました……それではさっそく調査に入らせていただきたいのですが、そのあたりについては大丈夫ですか?」
「……あぁ勝手にしろ」
怒りの感情に乗っ取られた言葉が出そうになるが、それを抑え込みながらマーガレットは会話に応じる。
「わかりました。それでは調査を開始させていただきます」
マーガレットはその言葉だけを残してアイを連れて個室を出る。
「……マーガレット様。あれだけ言われっぱなしでいいんですか?」
部屋を出るなり、アイがマーガレットに声をかける。
「そんなこと言っても仕方ないじゃない。私たちはあくまでも調査をさせてもらうようにお願いする立場なんだもの。ただ宿に関しては計画変更ね。街中の適当な宿に泊まりましょうか」
調査に没頭しているときならまだしも、そうでないときにアルベルトと接していると下手をすればけんかに発展しかねない。そうなれば、この大聖堂における聖書の調査というモノは難しくなってしまうだろう。下手をすれば、難しいどころか大聖堂の調査を禁止される可能性すらある。あのアルベルトという人間はルッシの大聖堂のダニエルとは違って自分が立場の高い人間だと考えていて、マーガレットたちのような普通の人間を……いや、もしかしたら前時代的な『魔女』という存在を下に見ているのかもしれない。なぜそのような人間がこの大聖堂を任せられているのかわからないが、相手がこの大聖堂の責任者で、なおかつザドの大聖堂にある聖書の調査が終わっていないという状況がある以上はこちらから反抗するような態度は見せない方がいいだろう。そのあたりについてはマーガレットやアイがどの程度アルベルトの言葉をかわすことが出来るのかという点にかかっているのかもしれない。
「まったく。この大聖堂での調査はなるべく早く終わらせたいものね……」
マーガレットはそう言って小さくため息をつく。
その後は本格的な調査に向けてこの大聖堂について理解を深めるために内部をしらみつぶしに歩き回り、アイと話し合いながらどのように調査を進めていくか話し合っていく。今のところ、ミカの聖書は回廊から秘密の階段を降りたところにある地下にあり、ルッシの聖書は広い空洞となっていた時計台の中にあった。そういったことを考えると、ザドの聖書が大聖堂の中のどこにあってもおかしくはないだろう。
前回の調査……ルッシの大聖堂での調査ではダニエルが大聖堂の内部の地図を渡してくれたのでそれを頼りに歩いていたのだが、今回はそういったこともないのでマーガレットは手書きで大聖堂の内部について記していく。
「……責任者があれだと今回の調査は難航しそうね」
「そうですね。どう考えても非協力的な態度でしたし……」
ある程度地図の作成を終えて、マーガレットとアイがそのような会話を交わすころには時刻はすっかり夜に差し掛かっていた。




