第53話
リアの家で長い時間を過ごしたマーガレットたちは彼女に家の前で見送られたのち、自分たちが拠点としているツリーハウスに向けて歩いていた。
「それにしても、こんな森の中で同胞に会うことになるとは思わなかったのです」
「そうでしょうね。私もこの森にほかの住民がいるだなんて思わなかったもの」
そういった話をしているうちに二人はどんどんと森の中を進み、気が付けばツリーハウスを視界に収めるぐらいの場所までたどり着いていた。
「あっ魔女さんたちが帰ってきた。そう。帰宅した!」
カノンの声が聞こえてきたのはちょうどそんなころだった。自分たちの上空をぐるぐると回るカノンに対して、マーガレットは声をかける。
「ただいま。カノン」
「うんうん。はーい」
マーガレットたちの姿を確認したカノンはそのままツリーハウスの方へ向けて飛んでいく。ということは何か話したいことでもあるのだろうか?
「カノンは私たちに用事がありそうですね」
同じようなことを考えていたのか、アイはマーガレットの横でそうつぶやく。
「そうね。変な話じゃなければいいけれど」
マーガレットはその会話に応じてから再びツリーハウスへ向けて歩き始めた。
*
ツリーハウスの中に入ると、カノンはすでに家の中に入っており我が物顔で椅子に座っていた。
「何か用事でもあるの?」
その向かい側にある椅子に座りがてらマーガレットが尋ねると、カノンは笑顔のままマーガレットの問いに答える。
「うん。用事があるの。そう。とっても大切な用件。あのね。森の周りに昨日から変な人がいるの。そう。来ちゃったの」
「変な人?」
マーガレットの質問にカノンは小さくうなづく。
「それでね。この森で何をしているのって聞いたの。そう聞いちゃった。そしたらね、『マーガレットっていう魔女を知らないか?』って言われたの。そう。言われちゃった」
「えっ?」
あまりにも衝撃的な内容にマーガレットもアイも一瞬、思考が止まってしまう。しかし、それはすぐに焦りという形で再開される。
「私のことを聞いてきたの?」
「そう。だからね。『私は知らないって』って答えておいたよ。そう。答えたの」
「なるほどね……ありがとう」
この森の中にしばらくこもっていれば大丈夫かと思っていたが、その考えには少々無理があったようだ。よくよく考えれば魔女という存在が珍しくなっている中、魔女とエルフという珍しい組み合わせで行動している人間など限られてくるだろう。そう考えると、薬を作り、それを『魔女の作った薬』としてエルフが売りさばくというのは少々目立ちすぎる行動だったかもしれない。これに関しては完全に失策だったと言わざるを得ないだろう。
「うーん。となると、ここからは早急に離れた方がいいかもしれないわね……」
そう言いながら、マーガレットは手元の路銀について考える。一応、アイの努力やカノンの協力があってザドの大聖堂があるザドの町までたどり着けるぐらいには路銀は集まっているように感じる。となれば、あとは目立たないようにこの森を抜け出して西へ向かってしまうのがよいのかもしれない。
「……ねぇカノン。ちょっと、一つ頼まれてくれないかしら?」
「うん。どうしたの? 私ができる事だったらするよ。そう。協力しちゃう」
カノンの承諾を得た後、マーガレットは自分の考えている作戦について彼女に話し始めた。
*
その日の夜中。マーガレットたちはカノンの案内で森の外……もう少し具体的に言えばシャルロ東駅がある方向へ向けて歩いていた。
マーガレットが考えた作戦というのは単純明快で、夜のうちに森を抜け出してそのまま駅に向かい、夜行列車に乗り込んでザドへ向かうというモノだった。列車にさえ乗り込んでしまえば、夜行列車は個室の中で過ごすことになるし、ザドにさえ無事にたどり着けば『文献調査』の間は大聖堂にかくまってもらうことが出来る。そういった考えからの行動だ。
そう考えているうちにマーガレットたちは森の外のすぐ近く……目の前に森の周りをぐるりと取り囲んでいる街道が見える位置までたどり着いていた。
「じゃあ、私が案内できるのはここまでだから。そう。この先には行けないの。だから、さようなら。うん。別れの挨拶をしなきゃ」
「そうね。いろいろとありがとうね。カノン。状況が許せばまた会いに来るわ」
カノンからの別れのあいさつにマーガレットは笑顔で応じる。
「うん。また会おうね。そう。再会したい。それじゃ、さようなら」
それだけ言うと、カノンは森の奥の方へ向けて飛び立っていく。その背中を見送ったマーガレットたちは、周りに注意しながら森を抜け出して駅の方へと向かっていった。




