第52話
シャルロの森の中。マーガレットとアイは普段行動しているよりも少し北の方へとやってきていた。
「それにしても、この森に住んでいるエルフはどこにいるんですかね?」
「……そう言えば、詳しい場所を聞き出すのを忘れていたわ」
自分の縄張りにいるエルフに会いに来てほしいというだけ行って去って行った昨日の妖精もまた威厳のあるような雰囲気を放ちながらもカノンと同様に自由な存在なのかもしれない。これだけうっそうとした森だ北の方とは言ってもどれくらい北まで行けばわからないし、正しい場所の付近にたどり着いたとしてもこっそりと暮らしているとなると、そのエルフの家はかなり見つけづらい場所にある可能性が高い。
「はぁ会ってほしいというなら地図ぐらいは用意してほしかったわね……」
さすがにこれ以上森の中をむやみに探すのはあきらめてツリーハウスに帰ろうかと思い始めたとき、左の方の茂みでがさがさという音がなる。この森には妖精が多く住んでいるのでそう言った音が鳴ること自体は珍しくはないのだが、たいてい彼女たちは空を飛んでいるので今みたいに低いところにある茂みで音が鳴るというのは珍しいことだと言えるだろう。
マーガレットたちがしばらくの間そこで立ち止まっていると、茂みの中からアイと同じぐらいの背丈の少女が出てきた。灰色の髪の毛に青い瞳、緑色のワンピースといった姿の少女の耳はアイのそれと同じく先がとがっており、ほぼ間違いなく彼女こそが探していたこの森に住んでいるエルフとみて間違いないかもしれない。
「えっと……あなたたちが妖精さんが言っていた新しく住み始めた人たちですか?」
少女はどこかおどおどとした様子でマーガレットたちに話しかける。
「うーん。住みだしたというよりはちょっと事情があって一時的に拠点にさせてもらっているというのが正しいかしら?」
「そっそうですか……私はリアです。あなたたちは?」
「私が魔女のマーガレットで一緒にいるのが弟子のアイよ。よろしくね」
そう言ってマーガレットが手を差し出すと、リアはおどおどとした雰囲気そのままに手を差し出してマーガレットと握手をする。
「……なるほど。お互いに事情をもってこの森に身を寄せているということか」
なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきたのはちょうどそんなタイミングだ。声がした方を見てみると、昨日話しかけてきたどこか威厳の春話し方をする妖精が腕を組んで空を飛んでいた。
「あぁあなたは昨日の……」
「妖精さん。こんにちは」
その妖精の姿を見てマーガレットとリアはそれぞれ違う反応を返す。
「さて、どうやら無事に会えたようだから私はここで帰らせてもらうよ」
私たちが無事に出会えた時点で満足したのかその妖精はすぐに飛び去って行く。その姿を見送ったマーガレットは小さくため息をつく。
「……つくづく思うけれど妖精って結構自由なのね」
「まぁそう言う種族ですからね」
そのような会話の後、マーガレットとアイはリアの方へと視線を移す。
「とっとりあえず私の家……来ますか?」
「そうね。そうさせてもらおうかしら」
そうして、マーガレットとアイはリアの案内で彼女の家へと向かい始めた。
*
マーガレットたちとリアが出会ってから十分程度。
マーガレットとアイは森の中にこれまたひっそりとたてられている小屋……もとい、リアの家の中にいた。
「ずいぶんとこじんまりと暮らしているのね」
「あはは……あまり目立ちたくないので……」
さっきの妖精は『お互いに事情をもってこの森に身を寄せているということか』と言っていたのでリアにはリアなりの事情があるのだろう。なので、そのあたりについては深く探らない方がいいかもしれない。
「……とりあえず、お茶でも飲みますか?」
そう言って、リアは三人分のティーカップを用意してお茶を入れ始める。
「えぇありがとう」
マーガレットは軽くお礼を言った後に目の前に差し出された紅茶を一口飲む。
「……独特な味わいね」
「はっはい……この森の中で取れた葉をベースにしたお茶ですので……外で飲むものとはまた違うんですよ。何せ、私は森の外に出ませんから……」
「そうなのね」
リアが森の外に出なくとも生活ができるということは町に出なくても食料などは手に入るということなのだろう。確かに森の中には木の実などが豊富にあって、どれが食用に適しているか見極められればそれを食べて生活するということも可能だと言えるかもしれない。
そのようなことを考えていると、案の定リアはマーガレットたちの前に木で作られた皿に乗った木の実を差し出す。
「……こっこのあたりで取れた木の実です。結構おいしいんですよ」
「そうなのね。ありがたくいただこうかしら」
「えっえぇぜひそうしてください」
その後、マーガレットとアイ、リアの三人でお茶と木の実を前にして他愛のない会話を交わす。リアとしては妖精以外の人と話すのが久しぶりらしく、おどおどとしながらも活発的に話をする。マーガレットたちはそれに応じているうちに時刻はだんだんと夕刻へと近づいていくのだった。




