第51話
カノンからお使いを頼まれた次の日。マーガレットは偶然見かけたカノンに頼まれたものを買ってきてもらうことになったから今日の夕方にツリーハウスまで来てほしいということ伝え、薬草の採取を始めていた。
「ふむ。貴様が新しくこの森に身を寄せている魔女か」
背後からそのような声がしたのは、ちょうどそんな時だ。
マーガレットが声のした方を振り返ると、肩ほどまでの黒い髪の毛と黒い瞳、水色のワンピースと透き通るような白い羽といった特徴を持った妖精が少しだけ宙に浮かんだ状態でこちらを見つめていた。
「……えっと、あなたは?」
「名などない。ここから少し離れたところを縄張りにしている妖精だ」
その会話の後にマーガレットはアイが『妖精に名前という概念はない』と言っていたことを思い出す。
「それなら私にどういう用事で?」
「魔女が来たという話を聞いて少し興味がわいたから見に来ただけだ」
一体全体どういう理由で来たのかという疑問に関しては至極単純なモノだった。もしかしたら、森の恵みを採取していることに関して文句を言われるのかと思ったのだが、そういった雰囲気でもなさそうだ。
「私は魔女のマーガレット。少しだけこの森に拠点を置かせてもらっているわ」
「そうか魔女殿。私はこのあたりにはあまり来ないがよろしく頼むよ。私のところにはエルフが住んでいてな。もしよかったら今度会ってやってくれないか? まぁ奴が簡単に人を信頼することはないから一緒に住んでいるエルフを連れて行くといい。私はここから北の方へ行ったところを縄張りにしている。ではな」
やけに威厳のありそうな話し方をする妖精はそのまま森の奥の方へと飛び去って行く。そんな妖精の後姿を見て、マーガレットは一応ほかにも要請がいるんだななどと考えながら薬草の採取を再開した。
*
威厳のありそうな話し方をする妖精に会った日の夕方。マーガレットはカノンに依頼されていたものを渡しつつ、彼女から昼間にあった妖精とその妖精の縄張りに住んでいるエルフについて話を聞いていた。
「あーあいつねか。そう。あの人。私、あの人苦手なんだよね。うん。ちょっとやだ」
威厳のある妖精についてのカノンの第一声がこれである。どうやらカノンはあの妖精のことを苦手な存在として認識しているようだ。
「その妖精と一緒に住んでいるエルフっていうのはどういう人なんですか?」
しかめっ面を浮かべているカノンに対して、アイが質問をぶつける。おそらく、同族であるエルフの話だから気になっているのだろう。
「あー一緒にいるエルフ? それは問題ないわよ。そう。大丈夫。ちょっと警戒心が強いけど。そう。びくびくしている。詳しくは聞いてないけれど、あなたたちみたいにこの森に閉じこもって隠れているみたい。そう。身を潜めているの」
「なるほど。私たち以外にもこの森に身を隠している人がいるんですね」
「そうなるね。うん。そうなっちゃう。そうね。気になるのなら会ってみたら。そう。会ってもいいかも」
その会話を聞きながらマーガレットは考える。このツリーハウスと言い、現在の会話の中に出てきているエルフと言い、この森の中には意外と妖精以外の人類が住んでいるということはそれなりにあることなのだろうかと。森自体はかなり広大だし、普通に考えれば人の手は入らないのでこっそりと隠れて暮らすには十分な環境だ。もちろんそれは『妖精のいたずら』にちゃんと対処できればの話ではあるが……マーガレットの場合はアイに町で食料を調達してもらうという形で今の生活を維持しているが、森の中には食用に適した木の実とかも普通にありそうなので、やろうと思えば森の中だけで生活を完結させることもできなくはないだろう。
「うーん。そうですね。一応、町に出られなくなった時のために食料は余裕をもって買っているので明日そのエルフに会いに行ってもいいかもしれませんね。マーガレット様はどう思いますか?」
自分の方へと話を振られ、マーガレットは一旦エルフがどうやって暮らしているのか考えることをやめて会話に参加する。
「そうね。せっかく紹介されたのだし、会いに行ってもいいかもしれないわね」
マーガレットがそう言うと、カノンはこれ以上の会話は不要だとは言わんばかりに受け取ったものを両手に抱えてから宙に浮かんで窓の方へと向かう。
「それじゃあ。私はこれで帰るね。そう。帰っちゃう。エルフさんに会うならちゃんと無害であることは主張した方がいいよ。そう。言った方がいい。あと、ありがとうね。そう。感謝してる」
それだけ言い残して、カノンはツリーハウスの開いている窓から勢いよく飛び出していく。
「……もう少し情報が欲しかったところね」
「まぁ妖精は自然そのもので自由に生きていますからね。むしろ、自分の欲しいモノを受け取った後にこれだけ残ってくれただけでもいい方じゃないですか?」
「それもそうか……とりあえず、明日はこの家から北の方へと言ってみましょうか」
「はい。そうですね」
マーガレットたちはそういった会話を交わした後にこの森に住んでいるエルフに会うためにどのような準備をしていくべきかという話をし始めた。




