第50話
シャルロの森の森にこもって約二週間。マーガレットは森のどこにどういった薬草が生えているかということをだんだんとつかみ始めていた。最も、森の全体を調べているわけではなく、自らが拠点としているツリーハウスの周辺に限った話ではあるのだが……
シャルロの森はかなり広大らしく、森の隅々まで探索しようとするとかなりの日時を要しそうだと言うのが、ツリーハウスのある場所の近くにいる妖精……カノン(勝手に最近関わった人の名前をつけた)の意見だ。なので、基本的にはマーガレットはツリーハウスからあまり離れたところにはいかないようにしている。
「さてと、今日も薬草を取りに行きましょうか」
マーガレットはそういったことをつぶやいてから家を出る。
「あははははっマーガレットだ! そう。魔女さんだ!」
そのような声が聞こえてきたのはそれから物の数分もしないうちだった。何がそんなに面白いのかわからないが、常に大声で笑っているカノンはくるくるとマーガレットの周りを飛び回る。
「……何か用事?」
それに対して、少々不機嫌そうにマーガレットが返事をするが、彼女が笑顔を崩すことはない。
「うん。ちょっと用事だよ。そう。用事。魔女さんにね。やってほしいことがあるの。そう。あっちゃうの」
それを聞いて、マーガレットは面倒ごとの気配を感じたが、カノンの好意でここに住まわせてもらっている以上、彼女の『用事』を無下にすることはできないだろう。
「……それで? 用事っていうのは?」
マーガレットが尋ねると、カノンはようやく飛び回ることをやめてマーガレットの目の前に降り立った。
「うん。大したことじゃないよ。そう。簡単なこと。魔女さんと一緒にいるエルフさんにお使いを頼みたいの。そう。お買い物」
「お使い? ちょっとした買い物ぐらいだったらあなたが自分で行けばいいんじゃないの?」
シャルロの森から近くの町までは十分少々で行くことが出来る。ならば、その『お使い』とやらはカノンが自ら行けばいいだけの話ではないだろうか?
そういった疑問を抱くマーガレットに対して、カノンは珍しくむっとした表情を浮かべながら返答する。
「魔女さんはわかってないな。そうわかってない。私たち妖精は自然の権化なの。そう。象徴。だから、森から出て自然が少ないところに行っちゃうと消えるの。そう。消えちゃう。だから、森の外に用事があるときは森の外に出られる人に頼むしかないの。そう。お願いしないといけないの。だから、今は森の外でしか手に入らないものを手に入れるチャンスなの。そう。機会が来てるの」
「あぁそう言う縛りがあるのね……」
この森に住んでいて、カノン以外の妖精の姿も見るが彼女たちは自由に遊びまわっているように見えるものの実際はそうではないということだろう。これは妖精について一つ勉強になったことだ。となれば、現状妖精の森の中にいて、なおかつ自由に町に出入りできるアイにお使いを頼むというのは至極自然な流れだと言えるだろう。
「……それで? アイに何を買ってきてほしいの?」
ある程度思考を巡らせた後にマーガレットはカノンから買ってきてほしいものを聞き出し始めた。
*
カノンから要望された買ってきてほしいものをメモした後、マーガレットは薬草を採取してそれをもとに薬を作り、アイの帰りを待っていた。
「ただいま戻りました」
時刻も夕方に近づいてきたころ、アイの声が玄関から聞こえてくる。マーガレットはアイから今日、町であったことの報告を受けた後にカノンからお使いを依頼されたという話をアイにする。
「妖精が外の世界に興味を持つとは珍しいですね」
マーガレットから話を聞いたアイはこれでもかというほど目を丸くしてそのように返答をした。
「妖精が外の世界に興味を持つのはそんなに珍しいことなの?」
「はい。本来、妖精という種族は自らが生まれた森の中でのみ生きる種族で、こういってはなんですがカノンのような一部の大妖精と呼ばれる妖精を除けば知能もそんなに高くはありません。その大妖精であっても自らが行くことが出来ない森の外に興味を持つというのはとても珍しいと言えるでしょうね」
「なるほど。そういうモノなのね……まぁとりあえず、これが頼まれたものなのだけれど」
マーガレットはアイにカノンから聞き出した買い物メモを渡す。アイはそこに記載されている内容をしっかりと読んで少しだけ考えこむ。
「どうかしたの? そう難しいものは書かれていないと思うけれど」
「……そうですね。パンに絵本にちょっとしたおもちゃ……町に行けばどれも簡単に手に入るものだとは思いますが、カノンはどこからこういう知識を得ているのでしょうかね?」
アイの疑問に対してマーガレットは今拠点にしているツリーハウスの天井へと視線を移して返答をする。
「そうね。おそらく、このツリーハウスを作った住民じゃないかしら? ここに住んでいた人がこういったものをカノンに買い与えていたのなら説明がつくのじゃない?」
「あーそれは一理ありますね。まぁとりあえず食事にしますか?」
マーガレットの推測でアイが納得したところで、マーガレットは視線を天井からアイの方へ移す。
「今日は何を買ってきたの?」
「今日はですね……」
そういった会話の後、アイは町で買ってきた夕食を食卓へと並べ始めた。




