第47話
ルーニアの町を出て一日ほど。マーガレットたちは南部連邦シャルロ共和国シャルロの中心部にあたる場所の少し手前にあるシャルロ東駅で列車を降りた。
その理由は単純で目的地であるシャルロの森が町の中心部から少し離れた場所にあるからだ。
「……ここがシャルロの森ね」
駅から少し歩いてマーガレットたちはうっそうとした森の前で立ち止まる。
「はい。たぶんですけれど、中に入れば妖精が出てくると思うのでまずはその妖精と話をしないといけませんね」
「そうね。うまくいくといいのだけれど」
そういった会話を済ませたあと、マーガレットたちは森の中へと足を踏み入れる。
「あー人間さんとエルフさんが来てる。そう来ちゃってる」
小さな子供のような声が聞こえてきたのはそれからまもなくのことだ。
声のした方を振り向くと、アゲハ蝶のような羽を生やしたピンク色の髪の毛が目を引く幼女が低空を飛んでいた。見た目の特徴からして彼女がこの森にすむ妖精であるのはほぼ間違いないだろう。
「えーと。あなたは?」
マーガレットが尋ねると、妖精は笑いながら返答する。
「あははははっ私はこの森にすむ妖精だよ。そう妖精。名前なんてないよ。そう。ないの。だから好きに呼んで。呼んじゃって」
「そう言われても……」
妖精の返答に困惑するマーガレットに対して、アイが声をかける。
「マーガレット様。そもそも、妖精という種族は自然そのものなので名前という概念がないんですよ。それに普通の人間は妖精に接触しようとはしませんからね。一応、彼女たちの中ではそれで問題ないんですよ。一応、容姿と話し方である程度区別はできるとかなんとか聞いたことはありますけれど……まぁ私も妖精に接触するのは初めてなので詳しくは知りませんが……もうちょっと言えば、妖精は誰が上とか誰がしたとかそう言う概念もないので彼女にこの森に滞在してもいいのか聞いてみても、いいのではないですか?」
「なるほど……えっと、そこの妖精さん……」
「はいはーい。私に何か用事があるの? そう用件を聞いちゃうよ」
マーガレットの問いかけに対して、妖精さんは相変わらず笑顔を崩さない。この調子ならこの森に滞在する許可ぐらいは取れるだろうか? そんな期待を抱きながらマーガレットは妖精を前にして話を続ける。
「……あの。ちょっと事情は詳しく言えないのだけれど、この森に少しの間だけ身を隠したくて……そう言うのって大丈夫かしら?」
マーガレットの言葉に対して、妖精はマーガレットの前を何度かくるくると飛び回ってから返答する。
「あははははっ面白いこと言うね。そう。面白い。いいよ。全然大丈夫。ただ、ほかの子たちがどう思うかはわからないけれどね。そう。わからない。それでもいいなら案内してあげるよ。そう。誘導しちゃう」
「えっと……ありがとう。ところで案内ってどこへ?」
マーガレットが具体的にどこに『案内』されるのか尋ねるが、彼女は答えずにそのまま森の奥の方へ向かって移動し始める。
「ほらほら。ついてきて。そう。こっちについてきちゃって。人間が住むのにとっておきの場所があるの。そう。いいものが」
彼女の言葉を素直に飲み込めば、この森の中に何かがあるのだろう。その言葉を聞いてマーガレットはそのまま妖精の後姿を追いかけ始める。
そんなマーガレットにアイがこっそりと耳打ちをする。
「マーガレット様。妖精は『いたずら』が好きな種族です。そこだけはちょっと気を付けた方がいいかと……」
「……つまりはこの先で何かされる可能性があると……」
「そう言うことです」
アイが言いたいのはこの先にある『とっておきの場所』が人間が住むにはいい場所ではなく、単純にいたずらをされて終わる可能性があるということだろう。マーガレットはそのことを頭の中に入れながらアイと共に森の奥の方へと足を踏み入れて行った。
*
ピンク髪の妖精の後を追って約三十分。マーガレットたちは時折、落とし穴などの『いたずら』に引っ掛かりながら森のずいぶん奥の方まで進んでいた。
「……はぁ普通の人間が森に近づかない理由がわかってきた気がするわ……」
マーガレットは魔女なので、落とし穴に落ちても空に飛んで外に出れるし、網に引っ掛かっても魔法でその網を切って無事に着地することができるので問題はないのだが、そういったことが出来ない普通の人間だったら最初に『いたずら』に引っ掛かった時点でもう限界だろう。
「あっ着いたよ。うん。到着しちゃった」
先頭を飛んでいる妖精の口からそのような言葉が出たのはちょうどそんなタイミングだった。マーガレットが視線を前に向けると、そこには小さな池と大木があり、その大木に引っ付くような形でツリーハウスが建っていた。
「えっと、ここは?」
「ここはね。前に魔女さんが住んでいた場所なの。そう。住んじゃってたの。ここならあなたでも暮らせるんじゃないかな? そう。暮らせそう」
妖精の言葉を素直に信じるのなら、ここはかつてこの森に住んでいた人間の家だということだろう。
「なるほどね……中に入っても?」
「いいよ。そう。問題ないよ。ここら辺は私の縄張りだから。そう。私の場所なの」
一応、目の前にいる妖精に確認を取ってからマーガレットはツリーハウスの方へと歩き始め……落とし穴に落ちた。
「……またあるの……」
「あははははっ何度も引っかかって面白ーい。そう。楽しい」
空中で腹を抱えて笑っている妖精を見ながらマーガレットは魔法で体を浮かせて穴の外に出る。
「……あの家も注意した方がいいかもしれませんね」
「そうね。とりあえず行ってみましょうか」
マーガレットはアイとそのような会話を交わした後に改めてツリーハウスの方へと歩き始めた。




