第46話
ルーニアの町にある宿の一室。マーガレットとアイは急いでこの町から出る準備をしていた。南の大聖堂があるザドの町までの路銀は心もとないが、手配書がこの町にも届いている以上はこの場に滞在してるわけにはいかない。
正直なところ、手配書を掲出してもらわない代わりにギルドからの依頼を受けるという選択肢もなくはないのだが、手配書がギルドにある限りは安心していられない。
「……それにしても、ギルドの話をそのまま信じると南部の主要都市には手配書が出回っていることになりますよね? これからどうしますか?」
準備をしている中でアイがもっともな疑問をマーガレットにぶつける。おそらく、アイとしては手配書がここまで広範囲に出回っているとは考えていなかったのだろう。そうでなかったとしたら、この町で気分転換をしようなどとは提案しなかったはずだ。
「そうね。せっかく手配書が出回っていることを教えてもらったから大きな町は避けて行くぐらいにしたほうがいいかもしれないわね」
「教えてもらったというよりは、あれは脅しなのでは?」
マーガレットの言葉に対して疑問を抱くアイに対して、マーガレットはアイの頭をなでながら返答する。
「もしも、本当にあれを使って脅しをするぐらいだったら素直に私を捕まえてルイス家に突き出したほうが儲かるでしょう? しかも、私に対して明日の夕方までという猶予まで用意している。そう考えると、こういったモノが出回っているから気をつけろということを教えてくれたともとれるでしょ。とりあえず今はこの町から早く離れることを考えたほうがいいでしょうね」
「……確かにそういう見方もできますね」
マーガレットが示した見解にアイは納得でしたらしく、マーガレットの意見を素直に受け止める。
その会話の後、二人は黙々と荷物をまとめ、町の外へと向かうため駅の方へと向かった。
*
ルーニア駅を出発したザド行きの列車の中。残念ながら大聖堂があるザドまでの切符は買えなかったのだが、とりあえず西へ向けて町を脱出することには成功した。
「はぁ生きた心地がしないわね」
だんだんと遠くに離れていくルーニアの街並みを見ながらマーガレットが小さな声でつぶやく。
「そうですね。ただ、この先にも手配書が配られている町がある可能性を考えると注意が必要かもしれませんね」
アイの言葉に対して、マーガレットは小さくため息をついてから答える。
「……そうよね。それにしても、どうしてルイス家は今更になって私のことを血眼になって探しているのかしら?」
「うーん……こういう時にありがちなのって、例えばですけれど今更になって生きているのに気付いたかとじゃないですか?」
その言葉を聞いてマーガレットは少なからず納得する。確かに今まで生きていないと思っていた存在が実は生きていて、勝手気ままに魔女をやっている。確かに急に手配書を配るレベルで探し出そうとしている状況になりえる話だ。最も、北部連邦の中ならともかくそれ以外の国にまで捜索範囲を広げるのには十分な動機とは言い切れないかもしれないが……
「とりあえず、動機はともかくとしてここまで捜索範囲が広がっているのなら少し対策を考えないといけないかもしれませんね」
確かに冒険者ギルドで依頼を受ける人は少ないので今すぐに捕まるということはないのかもしれないが、それでもなお見つからないとなると下手をすれば市中に手配書が配られるという状況も考えられる。そうなれば、ただでさえ魔女ということで目立っているマーガレットが見つかるのは時間の問題だろう。
「……でも、対策と言ってもどうすれば……」
「大丈夫ですよ。少々時間をかけてもいいのなら、ほとぼりが冷めるまで隠れる場所の候補ぐらいは知っていますので」
「隠れる場所?」
こういった事案の場合、どの程度の時間をかければほとぼりが冷めるのかわからないが、アイの言う『隠れられる場所』という点は魅力的だ。しかし、そんなにちゃんとした隠れ家など存在するのだろうか?
そんな疑問を抱くマーガレットに対して、アイは自信ありげに説明を始める。
「この先……ザドの大聖堂まで行く途中にシャルロという町があります。そのシャルロの町のそばに大きな森があるんですよ。それもただの森ではありませんよ。シャルロの森には妖精が多く住んでいて、普段は人間が立ち入ることはないそうです。まぁ最も、一時的にとはいえ住むのなら妖精の長に会って話をしなければいけないという点が関門になりとは思いますが……」
「妖精の森ね……」
妖精という種族はかなり特殊な種族だ。妖精は自然の力によって生きており、寿命という概念がない。それに妖精はいたずら好きとして知られ、妖精が住む森に入ると妖精にいたずらをされるということで有名だ。実際問題、マーガレットは妖精に会ったことがないので彼らがどのような特性を持っているのか詳しくはないのだが……
「そうね……確かに人が近寄らない森というのは魅力的だけど、そんなに都合よく行くかしら?」
「それは私たちの交渉力次第ですね。私も南部連邦の同胞に話を聞いたことがあるぐらいで、実際にどういった人たちなのか詳しく聞いていませんし」
「……なるほどね。でも、やれるだけやってみましょうか」
その会話の後、マーガレットはこの先自分がどうしていくべきかということについて考えながら、目線を窓の方へと向けた。
お読みいただきありがとございます。
今回の章の内容を再考した結果、第10章の名前を『ルーニアから西へ』から『妖精の森』に変更しました。
この先もお読みいただけると幸いです。よろしくお願いします。




