第45話
ルーニアの町で観光を終えた後、マーガレットは東部連邦でそうしていたように冒険者ギルドで細々とした依頼を受けて路銀を稼いでいた。
「さてと……今日の依頼は……」
マーガレットは冒険者ギルドの掲示板の前でいつも通りどの依頼を受けるか吟味していた。
それにしても、最初にこの冒険者ギルドに来た時に比べて掲示されている依頼の量が増えているような気がする。もしかしたら、これまでとは違って依頼を受けてくれる人がいるという話が広まっているのかもしれない。マーガレットのように依頼を受ける側からすれば都合のいい話なのだが、マーガレットのほかに依頼を受ける人があまりいないというのは少々問題があるように感じてしまう。かといって、マーガレットたちからすれば地道に依頼をこなす以外にできることはないのだが……
「あのーすみません」
背後からギルドの受付嬢……カノンの声が聞こえてきたのはちょうどそんな時だった。
「はい。なんでしょうか」
それに反応する形でマーガレットは振り返る。すると、カノンは明るい笑顔で頭を一回下げてから話始める。
「いつもギルドの依頼を受けていただきありがとうございます。実はギルドの方でマーガレットさんに少々相談したいことがございまして……奥の応接室に来ていただいてもいいですか?」
「はい。構いませんよ」
確か、前にセイアの町でこの手の状況になったときには特別な依頼を受けてほしいという内容だったが、今回もそのようなことなのだろうか? そのようなことを考えながら、マーガレットたちはカノンの案内でギルドの奥へと入って行く。そうして、奥の応接室に到着すると、カノンはさっそくと言わんばかりに話を切り出してくる。
「いつもギルドの依頼を受けていただきありがとうございます。実はこのところギルドへの依頼が増えている状況でして、こちら側としては現在の状況をなるべく維持したいと考えています」
「えっと……現状の維持とは具体的にどういうことでしょうか? 私たちは目的があって旅をしている最中なのでここにとどまり続けることはできませんが……」
「それはもちろん承知の上です。簡単に言うと、マーガレットさんやアイさんのほかにギルドの依頼を受けてくれる人を募集したいんです」
「なるほど……そう言うことですか」
カノンの聞いて、マーガレットは少し考えこむ。
確かにこの先、次の大聖堂まで向かうのに十分な路銀が集まればマーガレットたちはこの町を旅立ち、西へと向かうことになる。ただ、そうなると依頼を受けてくれる人がいなくなるのでギルド……もっと言えば、マーガレットたちに期待してギルドに依頼している依頼主が困ってしまうということを言いたいのだろう。
「……と言いましても、私たちにはどうすることも……」
もし仮にここでギルドのために広告塔になってほしいと言われたとしよう。そうなると、少なくともそれなりに人口の多いルーニアの町の中である程度有名人ということになり、リモリアの町で起こったような事象が発生しないとも限らない。なので、そのあたりについては残念ながら力添えはできないという態度で臨むしかないだろう。
「あぁいえ、そこまで難しいことをお願いするつもりはありません。ただ、マーガレットさんたちに依頼をこなしてもらって助かった人に少しお話をしてくださるとかそういったぐらいでいいのでお願いできないかなと……」
「いや、そう言われましても……そう言う啓もう活動はギルドの仕事ではないですか?」
マーガレットの指摘に対して、カノンはどこか余裕そうな雰囲気で一枚の紙をマーガレットたちの前に差し出す。
「実は依頼が来たものの、掲示を見送っている案件があるんですけれど……」
そう言いながら、目の前に差し出されたのはリモリアの町で見たのとまったく同じ手配書だった。それを見て、マーガレットは少なからず動揺する。
「それは……」
「マーガレットさんにどういう事情があるのかなどは聞く気はありません。ただ、南部連邦の主要都市ではこういったモノが出回っている状況でして……脅しのようになってしまうかもしれないですが、これを掲出しない代わりに少しギルドの手伝いをしていただくというのはいかがでしょうか?」
自らの写真と名前が載った手配書を前にして、マーガレットは深く考える。いったい、ルイス家はどれだけの範囲にこのようなモノをばらまいているのかと……カノンの言うことが確かなら、もうすでに南部連邦の主要都市には自分が行方不明の令嬢で捜索の対象になっているという情報が出回っていることになる。そうなると厄介なのが今後の行動だ。
不幸中の幸いというべきなのは半分脅しに使われているとはいえ、ルーニアの冒険者ギルドがこれを掲出する前にマーガレットたちの前の前に差し出したことだろう。もし仮にここで掲出するのを差し止めてもらっても、ほかの主要都市にある冒険者ギルドでは自らの顔と名前が載った手配書が出回っていると考えた方がいいのかもしれない。
「……これは困りましたね。少々考える時間をもらってもいいですか?」
「えぇもちろん……ただ、そうですね……このままこっそりと止めておくのにも限界があるので、明日の夕方までには返答をいただきたいです。その間にルーニアを離れてどこかへ行っていただいても結構ですよ」
「はい。わかりました。それでは、私たちはこのあたりで……」
マーガレットたちが立ち上がると、カノンは手配書をしまってから笑顔で見送りをする。
「それではいいお返事を期待しています」
カノンのそんな言葉を背にして、マーガレットたちは応接室を後にした。




