第44話
フラーの家を訪れた翌日。マーガレットたちは宿で朝食をとったのちに本土へと戻り、町の西の方にあるルーニア魔法学校跡地を訪れていた。
「昨日に続き、今日も魔法関連ですか……本当に好きですね」
「そうね。町に着いたときはあまり知らなかったけれど、この町って意外と魔法についての史跡があるみたいだから、いろいろと見てみたいところがあるのよ」
マーガレットとしては魔法使いフラーの出身地が南部連邦という知識はあったのだが、具体的に南部のどこかまでは知らなかった。最も、これまでマーガレットが北部連邦で行ってきた勉強はあくまでも魔法を使えるようになるための勉強と、その後の魔導書やマジックアイテムの収集なので、こういった魔法の歴史についての勉強についてはしっかりとしていなかったというのが原因なのだが……ともかく、そういったことはおいておくとして、マーガレットはアイと共にルーニア魔法学校跡地へと足を踏み入れる。
ここは魔法使いフラーが通っていた学校として知られているらしく、ここもまた廃校舎を利用した資料館となっている。
北部連邦にいるころはアリス教授に『魔法の歴史についてもしっかりと知っておいた方がいいから勉強しろ』とよく言われたものだが、こうやって実際に魔法の歴史に触れてみるとそれはそれで興味深いことが多くある。
例えば、フラーが魔法使いになったきっかけはこの学校で教鞭をとっていたアイナという人物にあこがれてだっただとか、学校に入学してからはずっと優等生で飛び級で卒業してその後に勇者と出会い、一緒に行動するようになっただとかそういったことがフラーの家にある資料には書いてあった。
それに対して、こちらのルーニア魔法学校跡地の資料館にはフラーのことについてはある程度触れつつも大半は学校の沿革に関しての資料が多くある。そのあたりについては渡し船に乗らなければいけないとはいえ、フラーの家に行けば、魔法使いフラーの資料はそろっているので当然と言えば当然だろう。
ただ、この学校跡地を利用した資料館の興味深いところは広い敷地を生かしてただ単に資料を展示するだけではなく、教室に人形を置いて当時の授業の様子を再現していたり、この学校で使われていた教科書が実際に手に取れたりするところだと言えるかもしれない。
しかし、ある程度見学をしたところでマーガレットの中で一つの疑問が浮かび上がる。
「……この学校跡の資料館でもそうだけど、魔法使いフラーが魔王を倒した後どうしたかとかそういう資料は残っていないのね」
そう。フラーの家でもこの学校跡地でもフラーが勇者一行に加わる前の出来事や実際に勇者と共に旅立った話は資料として展示されているのだが、勇者と共に魔族を滅ぼした後の話はどこにも書かれていない。
このあたりに関してはいったい怒鳴っているのだろうか?
「そうですね。まぁそのあたりについては残ってはいないでしょうね」
思わず疑問を口にしたマーガレットの横でアイが何やら意味深な発言をする。まるで残っていないのが当然だとでも言えるような言い方だ。
「……あなたは魔法使いフラーが魔族を討伐した後にどうなったか知っているの?」
「まぁ実際にその当時生きていましたからね。最も、中央帝国のエルフから聞いた話しかできませんけれど」
「そうなのね。ちょっと、興味が出てきたから宿に帰ったら聞いてもいいかしら?」
マーガレットが尋ねると、アイは少し考えこんでから返答する。
「……いいですよ。マーガレット様が歴史を知りたいという興味が出てきたのであれば、ちゃんとした歴史をお教えしたいですし」
「そう。ありがとう」
そういった会話の後、マーガレットたちは残りの資料を一通り見てから資料館を出る。
「さてと、次はどこに行こうかな……」
そう言いながらマーガレットは観光地図に視線を落とした。
*
ルーニア魔法学校跡地の資料館を見学した後、マーガレットたちはいくつかの観光名所を見て回り、宿の部屋でくつろいでいた。
「ねぇそう言えば、宿に帰ったら魔法使いフラーの話をしてくれるって言っていたけれど、そのあたりの話って今聞いても大丈夫?」
マーガレットは椅子に座り、向かい側にいるアイに声をかける。
「あぁそうですね。そう言えばそう言う話をしましたね……いいですよ。せっかくなので話をしましょうか。魔法使いフラーが魔族を討伐した後にどういう人生を歩んでいったのか」
そう言ってから、アイはゆっくりと語り部のように話をする。とはいっても、内容はそこまで長くはなく、魔族を討伐した勇者はその力を恐れられて暗殺され、それを受けたフラーはある程度の期間逃げていたものの、最終的には勇者と同様に暗殺されてしまったという内容だ。一応、表向きにはそういった事実はなく、勇者一行は全員『不慮の事故』で亡くなったと発表され、各々の資料は勇者が魔族を討伐した時点でその記録が終わっている。そのため、時間が経つにつれてエルフを始めとする長い時間を生きる種族以外からは徐々に勇者一行のその後のことが忘れ去られていったのだという。
「なるほど。そんなことがあったのね……」
「えぇ。ですので、人間の最大の敵は人間であるといったところですね」
その話を聞いて、マーガレットは深く考え込む。もし仮に自分が聖書を集めきったらどうなるのだろうかと……別にマーガレットは世界を征服できるような力は求めていないが、もしもそういった不穏分子として見られたらどうなってしまうのかという不安だ。一応、叶えられる願いは一つなので集めてすぐに願いを叶えてもらえばいい話なのかもしれないが、叶えてもらう願いはもう少し慎重に考えておいた方がいいかもしれない。それに願いが叶ったあとも、聖書を手にしたいと考える人がマーガレットのことを狙ってくるという可能性があると考えた方がいいだろう。そうなると、聖書を集めきって願いが叶った後は聖書をそれぞれの大聖堂に戻した方がいいのだろうか?
そこまで考えて、マーガレットは小さくため息をつく。
「この旅の後のことをちゃんと考えた方がいいかもしれないわね……」
マーガレットの言葉に対して、アイは小さくうなづく。
「そうですね」
そのやり取りの後、マーガレットはその場の空気を換えるかのように手をパンと叩く。
「まぁいいわ。せっかく気分転換しているのだから、こういった話はここで終わりにしましょう。と言ってもある程度観光名所は巡ったから明日からは冒険者ギルドで路銀稼ぎってことになりそうだけれど」
「えぇそうですね」
そこからはいつも通りの雰囲気で今後の話をして、マーガレットはベッドに寝転がり、アイはカバンから日記帳を取り出して今日の出来事について記録をし始めた。




