第41話
港町である南部連邦テダコハ共和国テダコハから西へと向かう寝台列車の中。マーガレットとアイはお互いにベッドに座り車窓を眺めていた。
マーガレットの頭の中にあるのはリモリアの町で手に入れた手配書のことだ。別に手配書の内容自体はそこまで深刻なモノではないし、報酬金もそんなに大きな金額ではなかった。だが、ここで問題になって来るのはその手配書がどの程度の範囲に配られているかという点と、マーガレットがリモリアにいたという情報がルイス家に伝わるかという点である。さらに言えば、ルイス家は何を思って全世界に手配書を配ってまでマーガレットを探しているのかという点も重要である。
これらに関しては考えたところで答えは出ないので、深く考えても仕方ないのかもしれないが、マーガレットとしてはどうしても気になってしまう。
「……どうしても気になりますか? 手配書のこと」
そんなことを考えているマーガレットにアイが声をかける。
「そうね。ただでさえ、聖書の一件があるからルイス家には関わりたくないのにこんなことをされたらたまったもんじゃないもの」
そんなことを言いながらマーガレットは大きくため息をつく。
北部連邦さえ出てしまえばルイス家とかかわることはないと思っていたのだが、思ってもいない形でルイス家の影が出てきたことになる。それにしても、そこまでしてマーガレットを探したい理由がどこまで考えてもわからない。いや、そればかりは考えたところで答えは出ないので考え込んだところで意味はないのかもしれないが……
「マーガレット様。前にも言いましたが、ルイス家におびえる必要はないと思いますよ? 確かに今回の一件はルイス家がマーガレット様を必要としていることをうかがわせますが、もし仮にマーガレット様がリモリアにいたことが判明しても、それが北部連邦に伝わるまでは時間がかかります。なので、今すぐにルイス家の追手が来ることはないはずです。なので、こうしてリモリアから離れて行けば行くほど捕まる可能性は低くなると考えて妥当だと思いますよ」
ルイス家の影におびえるマーガレットに対して、アイはマーガレットを安心させるかのように優しい口調で声をかける。
「マーガレット様には例の本を探すという大切な任務があります。なので、仮にルイス家に連れ戻されたとしても、それを続けられるように国が支援してくれるはずですし、私もできる範囲で助けます。なので、私たちは東部連邦でそうだったように堂々としていていればいいんですよ。むしろ、ここでルイス家におびえてこそこそと行動していたら、むしろ行く先々で何かやましいことがあるのではないかと思われてしまいますよ」
アイは笑顔のままマーガレットの手を握る。
「……そうね。そうかもしれないわね……ちょっと、考え方を変えてみるようにしてみるわ……」
そんなアイに対して、マーガレットは彼女の手を握りながらそう答えた。
*
テダコハから西に進むこと約二日。マーガレットたちは南部連邦の東部の主要都市である南部連邦ルーニア共和国ルーニアに到着した。
残念なことにルッシの大聖堂の文献調査で手に入れた路銀はここで尽きるのでここからは再び路銀を集めながらの旅となる。
「さてと……まずは冒険者ギルドかしら」
「そうですね……南の大聖堂があるザドまではまだ距離があるのでそれなりに路銀は集めないといけませんね」
そのような会話をしながら、二人は白い壁にカラフルな屋根が目を引く建物が並ぶ街の中を歩いて行く。
ルーニアの町は海と崖に挟まれた狭い場所にあり、白い壁にカラフルな屋根が並んでいる独特な風景が広がっている。鉄道駅であるルーニア駅から市街地の入り口まではバスで結ばれているのだが、街中は狭い道路と階段が多く、東部の主要都市という割には少々不便な印象を受ける。最も、町の規模自体は東西に大きく広がっているらしく、主要都市として十分なモノとなっているそうだ。
「それにしても、南部連邦の町はこれまでとは一風変わった感じなのね」
テダコハに到着した時点ではあまり周りの雰囲気を見る余裕はなかったのだが、寝台列車で移動しているうちに何とか心の平穏を取り戻しつつあるマーガレットは町の風景を視界に納めながらそうつぶやく。
「そうですね。確かに南部連邦は東部連邦とは違って昔の雰囲気が残っている傾向にあって、なおかつ北部連邦とは違った町並みが広がっているので、気分転換もかねて少し観光してみても楽しいかもしれませんよ」
「……観光ね……」
アイの提案にマーガレットは少々考え込む。おそらく、アイはマーガレットのことを心配してそのようなことを提案してくれているのだろう。路銀の方は尽きるとは言っても完全になくなるということではない。この町で何日か滞在できるほどには残ってはいるし、この先冒険者ギルドで依頼を受けて行動するということを考えると、この町のことはある程度知っていた方がいいかもしれない。それにこれまで暗いことばかり考えていたので気分転換も必要だと言えるだろう。
「そうね。ちょっとだけ観光もしてみましょうか」
マーガレットの言葉にアイは笑顔でうなづく。
「はい。それではまずは観光案内所にでも行きましょうか」
アイはそう言ってからマーガレットの手を引いて町の中心部へ向けて歩いて行った。




