幕間8-1
北部連邦の首都ノース。貴族の屋敷が並ぶ北の区画にあるルイス家の邸宅。そんな邸宅の中にある書斎でコニー・ルイスはいらだった様子で使用人からの報告を受けていた。
「マーガレットはまだ見つからないのか?」
「はい。マリー様からもその他の方面からもそういった報告は入ってきておりません」
その報告を着て、コニーは机を強く叩く。
「まったく。どうなっているんだ」
コニーがマーガレットを探し始めたのはちょっとしたきっかけからだった。子供のころに魔法使いの母親を探すと言って家を飛び出したマーガレットが立派な魔女に成長してのんきに旅をしているといううわさがコニーの耳に入ったのだ。
コニーとしてはマーガレットはすっかり死んだものだと思っていたので、それまでは気にしていなかったのだが、科学を推進する革新派であるルイス家の長女がこの世のどこかで魔女をやっているとなれば話はだいぶ変わって来る。どうやってそうなったのかはマリーを通してなんとなくわかってきたが、行方に関してはいまだにつかめないでいる。
一応、探偵として雇ったエルフに念のために全世界に向けて手配書を配っておいた方がいいと言われてやってみたが、金がかかった割にはその効果が表れそうにはない。
「くそっどこで何をしているんだ」
コニーとしてはよほどのことがなければ北部連邦から出国することはないので、北部連邦を集中的に探させているのだが、手持ちの金も限界がある。このままではマーガレットを捕まえられないうえにマリーが魔法使いの助手などという状況が固定化されてしまう。そんな危機感がコニーの中にはあった。
最初こそ、単なるうわさだからと真に受けていなかったのだが、探偵に調べさせた結果マーガレットがノースに向かっているという話だったので一芝居打ってマリーを近づけさせたのだが、その結果はマーガレットが魔女をやっているという事実確認ができたぐらいでほぼ失敗。コニーの心配を裏付けるだけという結果になってしまった。
それにしても、マーガレットが魔法使いとしての師匠であるアリスに自らの動向を全く報告しないあたり、こちらの考えが読まれているのではないかとすら感じてしまう。
「まぁいい。一旦部屋を出てくれ」
そこまで考えたところでコニーは使用人に指示をする。使用人は頭を深く下げてから部屋を出ていく。
それを確認した後にコニーは探偵のエルフを部屋へと呼びつける。
「失礼します」
そう言いながらエルフの探偵……カイが姿を現す。
「カイ、そっちの方はどうなっている?」
「残念ながらご期待にお応えできるような報告は出できません。我々としては北部連邦が主な活動範囲ですので」
そう言ってカイは頭を深々と下げる。
「……北部連邦にいないとでも言いたいのか? そんなことを言っている暇があったらさっさと探したらどうだ。ただでさえ良くないうわさが経ち始めているのに、エルフを雇ったなどという話が広まれば……」
「……最初にも言いましたが、彼女の活動範囲が北部連邦に限定されているという考え方は一旦捨てた方がいいですよ。例えば、我々の出身地であるメアリ王国では移民という形で国籍を得ることができます。そうすれば、北部連邦を出国することも可能ですので」
憤慨するコニーの言葉を遮るような形でカイが話をする。
確かに身分を隠しながら北部連邦を出国することは難しい。しかし、メアリ王国で国籍を得れば身分を隠したまま北部連邦を脱出することは可能だ。最も、そのための資金をどこから集めるのかなど壁はたくさん残っているのだが……
「もういい。報告できることがないなら下がってくれ」
「はい。失礼します」
いまだに怒りの感情を沈め切れていないコニーに対して、カイはあくまでも笑顔を崩さないままもう一度頭を下げてから下がっていく。
そうして一人きりになった状況でコニーは深く考え込む。
何がどうしてこのようなことになってしまったのかと……この状況が続いてしまえば、傍から見た場合、長女に続いて次女のマリーまでもが魔法使いを目指しているなどという状況になってしまう。ただでさえ、長女のマーガレットが優秀な魔女であるといううわさが立ち始めている状況だ。この問題は早く解決しなければならない。
最初こそ、カイの意見に乗ってマリーをマーガレットのもとへと送り込もうとしたわけではあるが、その結果は先ほどから頭にあるようにほぼ失敗。それどころか、マリーが有名な魔法使いの助手として働くという最悪の状況を作り出している。コニーとしてはその状況を打開すべく、マリーを帰られせようとしたのだが、それに関してはマーガレットに関する情報が入るかもしれないからという理由でカイに止められている。
「くそっいつになったら奴は見つかるんだ」
コニーは書斎で一人そうつぶやいた。




