第4話
フランの町を散策した次の日。フラン魔法大学校の近くにある宿。
マーガレットが起きると、宿の窓が開いており、アイが姿を消していた。それも、窓際にある机に大切にしているはずの日記帳を残してだ。
「えっ?」
その様子を見たマーガレットの第一声がそれである。いったい、何が起こっているのだろうか? 一応、部屋の中をよく探したり、宿の朝食会場へ行ってみたり、魔力を探知する魔法で彼女の魔力を追いかけようと試みたりするが、一向に彼女が見つかる気配はない。結局、事態の全容を把握できないままマーガレットはアリス教授がいるであろうフラン魔法大学校の旧校舎へと向かった。
*
「アイ君が行方をくらませた? 日記帳を残してか?」
マーガレットからの状況説明を聞いたアリス教授はこれでもかというほどに目を丸くする。
「そうなんですよ。朝起きたらすでにいなくなってて……一応、その場で魔力探知をしてみたりしたんですけれど、どういうわけか全く探知できなかったんですよね……」
マーガレットは深くため息をつく。彼女はどういった意図をもって自分のもとを去ったのか? はたまたマーガレットが寝ている間に何かがあって連れ去らわれてしまったのか? 考えれば考えるほど疑問はどんどんと積み重なっていく。
「ふむ。しかし、自らいなくなったとしても、誰かに連れ去らわれたとしてもお前が寝ている横で堂々とそういった事態が発生しているとは信じがたいな……仮にアイ君が連れ去らわれたのだとすると、相手は相当な手練れだぞ」
「……そうなりますよね」
マーガレットが返答した後、アリス教授は机の上に置かれている日記帳へと視線を送る。その様子を見て、マーガレットはアリス教授に声をかける。
「やっぱり気になりますか?」
「まぁそうだな。お前は中身を読んだのか?」
アリス教授の質問にマーガレットは首を横に振る。
「さすがに人の日記を勝手に読むのは気が引けまして……」
「そんなこと言っている場合じゃないだろ。何かヒントがあるかもしれん。とりあえず読むぞ」
アリス教授が日記帳を手にして、開こうとする。しかし、すぐに日記帳を机へと戻した。
「どうかしたんですか?」
「うーむ。どうやらこの日記帳には本人以外が勝手に開けないように魔法がかけられているようだ。となると、今のところヒントは全くないということか……昨日は確かアイ君と二人で町を散策したんだよな? そこで何か変わった様子はなかったか?」
マーガレットはアリス教授からの質問を受けて思考を巡らせる。昨日はフランの町にある主な名所や自分が昔通っていた馴染みの店を訪れ、アイにフランの町の紹介をしたぐらいだ。その中で特に変わった様子は……
「あぁそういえば、商店街でオレフさんに会ったときに少々様子がおかしかったような……」
「オレフ? あぁあのギルドマスターか。様子がおかしかった理由はわかったりするか?」
マーガレットは再び首を横に振る。
「いえ、その場では体格の大きい男の人が苦手なのかなとぐらいに考えていましたのでそれ以上は……ただ、今になって考えてみると、私の後ろに隠れておびえていたのでアイからしたら何か感じるものがあったのかもしれないですね」
「ふむ。オレフに会って探りを入れてみてもいいかもしれないな。商人ギルドへ行ってみるか」
そう言ったあと、アリス教授は立ち上がりマーガレットと共に教室の外へと向かった。
*
フランの町の中心部にあるフラン商人ギルド。こじんまりとした建物の奥にある応接室にマーガレットとアリス教授の姿はあった。
「いやぁ待たせてしまってすまないな。少し用事があったものだから……」
応接室に案内されてから一時間近く。ようやく表れたオレフはそのようなことを言いながらマーガレットたちの向かい側の席に座る。
「いえいえ。こちらこそ突然押しかけてすみません」
お互いに言葉を交わしたところでオレフはさっそく本題に入ろうとする。
「それで? アリス教授まで連れて急に俺を訪ねてきた理由を聞いてもいいか?」
「えぇ。実は昨日、私の弟子を紹介したと思うんですけれど、そのアイが今朝から行方不明になってまして……」
マーガレットが状況を説明すると、オレフは少し空を仰いでから返答する。
「ふむ。あのエルフの弟子か」
「そうです。それでどこかで彼女の姿を見たとか、どこかを移動しているという情報を聞いたということはないかなと思ってここに来たんです」
「なるほどな。それで俺のところに来たわけか……だが、力になれそうにはないな。少なくとも俺はそのエルフが一人で出歩いているという情報を見聞きしてないからな」
オレフの返答を聞いて、マーガレットは小さくため息をつく。
「そうですか。貴重なお時間を割いていただいてすみません。私たちはここで失礼します」
マーガレットはここでこれ以上話をしていても進展はないと判断し、アリス教授に目配せをしてから席を立つ。
「ありがとうございました。もし、彼女をどこかで見かけたらアリス教授に連絡してください」
「あぁわかった。早く見つかるといいな」
その会話の後、二人はオレフに見送られて商人ギルドを後にし、今朝二人で話をしていた教室へと戻る。
「……どう思いますか?」
マーガレットの質問に対し、アリス教授は自信ありげな表情で返答する。
「まぁクロだな。主犯かどうかはおいておくにしても何かしらの形でかかわっていそうだというのが私の見解だ」
アリス教授は薄い板状のマジックアイテムを机の上に置く。そこにはオレフからアイの魔力を探知したということを示す表示がなされていた。そもそも、人間やエルフを含む人類は少なからず魔力を放っているのが一般的だ。その魔力のパターンは個人個人で少しずつ異なっており、そのパターンがわかっていれば大体どのくらいの時期にその人物とかかわっていたのかということが推測できる。
マーガレットの記憶が正しければ、アイとオレフが最後に接触したのは昨日の午前中。商店街を歩き回っていた最中のことで時間も短かった。しかし、目の前のマジックアイテムにはそれよりも後に、しかも長い時間アイと接触したことが示されている。
「さて、あとはオレフが今回の件についてどうかかわっていくか検証していく段階になるが……まずはその目的を探らないと話にならないな。と言っても、目的は大体想像できるが……」
アリス教授はそう言うと、あるチラシをマーガレットの前に差し出す。
「……闇オークション……ですか?」
「あぁとある名家が出身の学生が参加しようとしていたらしくてな。その現場を押さえたときにそいつが持っていたやつだ。この会場に押しかけてみるか? もっとも、私は顔が知られすぎているから外から援護することしかできないがね」
アリス教授はチラシをひらひらと見せびらかしながらニヤリとした表情を浮かべる。
「……はぁそうですね。私の情報をある程度持っている彼女にどこかに行かれては面倒なので行きましょうか……」
そういって、マーガレットはアリス教授からチラシを受け取った。




