第39話
リモリアの宿のすぐ裏。マーガレットたちは追手と思われる人物がいるであろう場所を捜索していた。
「うーん。私の魔力探知した感覚だと、このあたりだと思うのだけど……」
そう言いながら、周りを見回してみるとちょうど駅から感じていたのと同じ魔力を放つ男を見つける。
「ちょっと、そこの方。いいですか?」
「ひぃ!」
マーガレットが声をかけると、男は軽く悲鳴を上げてから逃走を図る。
「やはりあの人で間違いないわ。捕まえるわよ」
そう言って、マーガレットは拘束魔法を使って男を捕まえる。そうすると、男は身動きが取れなくなってその場で立ち止まる。
「さてと……どうして私たちを追いかけてきたのか話をしてもらいましょうか」
マーガレットは余裕の笑みを浮かべてそのまま男に近づいていく。男は何とか逃げようと動こうとするが、拘束魔法のせいで身動きが取れない。
「……抵抗しても無駄よ。あなたがすべて正直に話してくれたら解放してあげる」
マーガレットは男の前でそう宣告した。
*
マーガレットたちが捕まえた男から話を聞いてみると、意外な事実が判明した。
「……まさかこんなものが作られているなんてね……」
男が近づいてきた理由が聖書ではないという点についてはアイの推測通りだったが、問題になるのはその先。男がマーガレットたちのところに現れた動機の部分だ。
マーガレットの手元には男から奪い取った『手配書』があり、そこには『魔女マーガレット』の姿をしたマーガレットの写真と、特徴の欄にエルフを連れ歩いているという点が書かれており、一番下には具体的な賞金の額とルイス家の当主であるコニー・ルイスの名前が書かれていた。
確か、前にマリーから聞いた話ではルイス家は完全に没落したとの話だったのだが、これを見る限りそれは事実とは異なるらしい。
マーガレットは約束通り男を開放した後、宿の部屋で手配書をじっくりと眺めていた。
「うーん。いったいどこでばれたんですかね?」
「……そうね。こういうことになる可能性は考えていなかったけれど、ノースでマリーに再会したときに旅に同行させなくてよかったとだけは言えるわね」
そこまで会話を交わしてから、マーガレットは思考を巡らせる。
一体全体、どうしてこのようなことになっているのかと……そもそも、こうもあっさりと『魔女マーガレット』の姿で活動していることが見破られるのなら、とっくの昔にマーガレットはルイス家に連れ戻されているだろう。そう考えると、ルイス家が本腰を入れてマーガレットを探し始めたのは最近だと考えた方がいいかもしれない。
それともう一つ気になる点はノースの町でマリーと再会したときの出来事。これに関してはルイス家が没落していない以上、マリーと使用人による演技だった可能性が高くなってくる。そうなれば、ルイス家はある程度マーガレットの動向について情報をつかんでいるのだろう。そうなって来ると厄介なのがこの先の行動についてである。東部連邦では『令嬢マーガレット』と『魔女マーガレット』が同一人物で、北部連邦の人間が賞金を出してまで探しているとは考えていなかった。そのため、マーガレットは冒険者ギルドで依頼を受けたり、少し就労をしたりと割と大胆な行動をとっていたのだが、それがまずかったのだろうか? いや、それ以前に北部連邦の一貴族であるルイス家が北部連邦以外の国に手配書の発行を依頼しているのかという謎も残る。
一応、手配書をしっかりと見てみたのだが、幸いなことにマーガレットが犯罪を犯したりということはないので、あくまでも『行方不明になっている娘を探しています』ぐらいの内容で書かれているのだが、これがどの程度の範囲でばらまかれていて、なおかつどの程度の人数の人がマーガレットを探しているかわからないという点が厄介だ。
そこまで考えて、マーガレットは深くため息をつく。
「……こうなったら仕方ないわね……とりあえず、明日朝一番の船で南部連邦に渡りましょうか……そうでないと、こういう輩が集まってくる可能性もあるし」
「そうですね。そうした方がいいと思います」
マーガレットが持っている危機感についてはアイも同じように思っているらしく。明日朝一番に南部連邦に渡ることに関して同意をしてくれる。
そこまで確認したところで、マーガレットは残る疑問について考え始める。
それは、ルイス家がなぜ今さらになってマーガレットを探しているのかという点だ。ルイス家に現在のマーガレットの姿を見破ったうえで他国にまで手配書……というより捜索願をばらまけるところを考えると、もともとその気になればマーガレットをルイス家に連れ戻すことぐらいはたやすくできたはずだ。しかし、今までそれをせずに今更探し始めたとなると、ルイス家の中で何かしらの事情が発生し、マーガレットのことが必要になったと考えるのが自然だ。ここでマーガレットの中で懸念点となるのは、ミカの聖書が発見された時点ではその情報は極秘とされておらず、聖書の存在がある程度知られてしまっている可能性だ。
一応、現在は聖書に関する事項は極秘となっているものの、北部連邦ではその気になれば知ることができるという可能性がある。そうなれば、コニーが何かしらのたくらみをもって聖書を使うことができるマーガレットを捕まえようと考えても不思議ではない。
「……この先、何も起こらないといいけれど……」
マーガレットは不安げに窓の外に見える港へと視線を送った。




