第38話
南東海峡に面する町東部連邦リア共和国の首都リモリア。その町にある宿にマーガレットたちの姿はあった。
リモリア駅に到着した列車を降りた後、マーガレットたちは観光もそこそこにさっそく宿へと向かっていた。その様子を見て、アイは心配そうな表情を浮かべて尋ねる。
「マーガレット様。どうかしましたか?」
「……アイは気づいてないの? 誰かにつけられているわ」
マーガレットの言葉を聞いてアイはなんだか納得したような様子を見せる。
「あー確かにそんな気もしますね」
この町に到着してから……いや、気づいてなかっただけで、下手をしたらこの町に着く前から誰かにつけられているような気がしてならないのだ。マーガレットは北部連邦でルイス家の人間に見つからないように隠れて暮らしていたという過去から周囲の人の動向に敏感になっている。なので、マーガレットはいち早く自分たちの動向を見張っている何者かの気配に気がつくことができたのだ。
誰かにつけられていると感じているのはアイも同様らしくあごに手を当てながら会話を続ける。
「でも、仮に誰かが私たちをつけているとして、目的が分かりませんね……『例の本』絡みだとは思いたくありませんが……」
「そうね。仮にあれ絡みだとすると厄介なんてモノじゃないわ。どこから情報が漏れたのかだとか、何が目的かなのか考えないといけないし……」
そこまで話をしてマーガレットは小さくため息をつく。
「とりあえず今大切なのは私たちをつけているかもしれない人間の目的ですよね……それがわかったら苦労はしませんが……」
「まぁそういう話になるわよね……」
とりあえず魔力で探知する限り、追いかけてきている人物は宿の中までは来ていないようだ。ただ、宿のそばにいる可能性は高い。なので、ここでしっかりと計画を立ててから行動するべきだろう。もし仮に今追いかけてきている人間の目的が聖書だとしよう。そうなると、聖書の関係者の誰かがその力を欲して追手をよこした可能性が高くなる。さらに言えば、最近のマーガレットたちの行動……もっと言えば、ルッシからリモリアに向かっているという情報を知っている人間となると必然的に限られ来る。要するにダニエルかそのダニエルに対して、リモリアまでの切符を渡した国の関係者が怪しいという話になってくるわけだ。
そうなって来ると、どうしても話がややこしくなってしまう。仮に聖書を求めているのがルッシ共和国の関係者だとしよう。そうなると、聖書がどのような効果を持っているか知っているはずで、ただ単純に聖書を奪えばいいという話ではないことも理解しているはずだ。少し考えすぎかもしれないが、今回の聖書集めに関してはそれぐらい慎重に行った方がいいだろう。
「うーん。でも、関係者からの情報漏洩で私たちを追跡しているというのは少し違うんじゃないですか?」
しかし、アイはマーガレットとは違うようで聖書がらみの案件ではないと考えているようだ。
「違うっていうとどういうこと?」
「だって、仮にあの本に関してだとしたら、私たちはなんだかんだ理由をつけられてルッシを出られていないと思いますよ?」
マーガレットの疑問に対するアイの答えは非常に簡単なモノだった。もし仮に聖書を狙って追いかけてきているのなら、そもそも適当に理由をつけてルッシから出さないだろうと。もし仮に聖書を狙ってここまで追いかけてくるぐらいならリモリアまでの切符など渡さずに機が熟すまで適当な理由をつけてルッシにとどめておいた方が何かと都合がいいのではないだろうか? というのがアイの仮説だ。さらに言えば、仮に追跡者が北部連邦関連者だったらこれまで気づかないはずがないという言葉もしっかりと添えられている。最も、情報を知っている誰かが勝手に単独で動いている可能性までは否定しきれないとのことではあるが……
そこまで話をして、マーガレットは再び考え込む。もし仮に追手が聖書に関係していないとすると、誰が自分たちのことをつけているのだろうかと? こうなって来ると、いっそのこと捕まえてしまった方が早いような気もしてくる。
「……わからないことを考えても仕方ないわね……例の本がらみじゃなくてもこうやって後をつけられるのはいい気がしないし、追ってきている人を捕まえてみて話を聞いてみましょうか」
「そうですね。それが一番早いと思いますよ」
結局、マーガレットは追手が誰かという推理を捨てて、捕まえてみてその理由を聞いてみるという単純な結論に至る。最も、万が一でも聖書が盗まれるようなことはあってはならないので念には念を入れて、こちらの気配はできる限り消しながら相手に近づいてみることとする。
「さて、私たちをどんな目的で追いかけてきているのかじっくりと話を聞いてみましょうか」
「はい」
マーガレットとアイはそのような会話を交わした後に聖書が入ったカバンを部屋の中に隠したうえで部屋を出て行った。




