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魔女と汽車-人間の魔女とエルフの弟子-  作者: 白波
幕間7 アイの考え事

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幕間7-1

 ルッシの大聖堂からリモリアへ向かう列車の中。これから先の旅のことを憂うマーガレットを見ながらアイは少々考え込んでいた。

 マーガレットがアイに提示した仮設。聖書には『聖書を集める旅が順調にいく魔法』がかけられているというモノ。普通に考えれば馬鹿馬鹿しい仮説なのかもしれないが、聖書自体が『どんな願い事も叶える』という想像をはるかに超えるような魔法がかけられているという前提で考えると、それぐらいあってもおかしくは何と思えてしまう。

 だが、そうなると次に出てくる疑問としてはマーガレットと同様で『どうしてそのような魔法を仕掛けているのか』というところになる。マーガレットが言っていたことを借りれば、聖書を集める旅があまりにも簡単に終わってしまうと聖書に対するありがたみが薄れてしまうように感じる。

 その一方でアイの頭の中にあるのは今から200年以上前の出来事。産業革命のきっかけとなった魔族との最後の戦いでのことだ。魔族との戦いで追い詰められていた人類は『選ばれしものしか抜けない剣』を引き抜くことができた勇者とその仲間の活躍で形成を大きく逆転させ、魔族を滅ぼすことに成功した。

 その『選ばれしものしか抜けない剣』は中央帝国の大聖堂にあったとされ、それを引き抜くことができた勇者は剣に込められていた魔法により、とてつもない力を発揮して魔族を打倒していった……というところまでがよく歴史の教科書に書かれている事柄だ。『選ばれしものしか抜けない剣』を手にして、魔族を打倒した勇者とその仲間がどうなったのか、それをしっかりと知っている人間は少ないだろう。

 まぁ結論から言ってしまえば至極単純なことだ。魔族という脅威がなくなった後、その気になれば世界を一人で制圧できるであろう力を持っていた勇者という存在を世界は良しとはしなかった。そうして、勇者が暗殺されるまでそこまでの日数はかからなかったという。

 さて、なぜこの勇者の事柄が聖書の件と関わってくるのか? それは単純に両者とも『先人が残した特定の人だけが使えるマジックアイテム』という点だ。

 マーガレットがどういった願いを叶えようとしているのかは分からないが、もし仮に願いが叶ったとしてその先に待っているのはどういった運命なのだろうか?

 そもそも、最初にアイがマーガレットに近づくきっかけとなったマーガレットを見守ってほしいという旨の依頼……これは何の意味を持つのだろうか? ここからは仮定の話になってしまうが、もしも依頼者がマーガレットに降りかかるこの先の出来事……聖書の発見を予知していて、それによってマーガレットがどんな願い事を叶えようとしているか知っていたとしたらどうだろうか?

 エルフは寿命という概念が存在しない妖精を除けば、一番長く生きる種族でアイはエルフとしてはまだまだ若い部類だ。

 最初こそ、一人の人間の寿命が尽きるまで見届ければいいと考えて依頼を受けたのだが、聖書が発見されてからは少々その意味合いが違ってきているのではないかとすら思えてくるのだ。もしも、マーガレットが叶えようとしている願いが長寿に関するものであれば、この先長く生きるアイに見守ってほしいという依頼をしても不自然ではない。

 まぁ最も、人類というくくりで見ても予知能力というのは眉唾物でそういった力を持った人がいると考えるのは無理があるのかもしれないが、マーガレットと出会ってから聖書の発見、さらに言えばメアリ王国での身分証の発行などこれまでの流れを見ると、すべてがわかっていたのではないかとすら思えてきてしまうのはアイだけだろうか?

「アイ? どうかしたの?」

 そこまで考えたあたりでマーガレットから声がかかる。

「あーいえ、少し考え事を……」

「そう。まぁお互いに例の本に関しては思うところがあるわよね……」

 どうやら、マーガレットはアイが聖書について考えていると解釈したらしい。これまでの話の流れからしてそう考えるのは自然だし、現にアイも聖書に関連すことについて考えていた。

「そうですね」

 アイが答えると、マーガレットはそれで納得したのか、再び窓の外の方へと視線を送る。その姿を見ながらアイはもう一度思考を巡らせる。

 もしも、マーガレットが聖書に人知を超える願い事をしたとしても、アイはそれを見守る覚悟はしっかりと持っている。それは依頼を受けたからどうだとかそういう話ではなくて、単純にマーガレットに対して好意を持っているという点からの行動だ。手元にある日記帳にマーガレットの動向を記していくという点については変わらないものの、現在は単純にマーガレットに対して好意を持っているからこそ彼女の旅に同行し、彼女がどのような願いを叶えようとしているのか見守ろうと考えている。

 そんなことを考えている間に列車は南東海峡に面する町であるリモリアの付近へと到達し、列車は徐々に速度を落としていった。

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